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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
132/322

【第六十四話(2)】勇者配信の開幕(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

[雨天ちゃん、お願い!]

[皆の力になってあげてください 3000円]

[お願いします!!]

[頼りにしてる]


——映し出されたホログラムが描く配信画面。いくつものコメントが、私の瞳の先で流れていく。

その一つ一つの言葉が、私を応援してくれて、認めてくれている。

伝えたい。聞いて欲しい。


私はここにいる、ここにいるんだって!!

「おいでっ、クラーケンっ!!!!」


雨天が金切り声の如く叫ぶと共に、彼女の背後に無数の巨大な触手が生み出された。

地響きを轟かせ、舞い上がる土煙の中に彼女を庇うように。その巨大な触手は彼女を取り巻くように伸びていく。

「セイレイ君達は下がってくださいっ!スパチャブーストは使えないみたいだからっ!!」

「——っ、分かった!」

雨天がそう指示すると、セイレイ達はすかさず撤退し、雨天の後ろへと下がる。

普段は余裕綽々と言った様子の赤色のゴブリンも、雨天が突如引き起こした現象に警戒の様相を映し出す。

ひりつくような緊張感が、突き刺すような殺意が一堂に雨天へと向けられる。それでも、彼女は決して怯むことなく真っすぐに前を向き続けた。

「ギィッ!!」

ゴブリンの内の一体が、雨天目掛けて低い姿勢のまま駆け出した。鋭く短剣を突き出し、雨天の胴元を貫かんと襲い掛かる。

「雨天ちゃんっ!」

ホズミは思わず彼女の身を案じて叫ぶ。

だが、そんな中雨天はホズミの声ににこりと笑みを零しながら、静かに手を眼前へと伸ばした。

「皆の想いを、力に変えますっ」

[雨天:純水の障壁]

コメント欄にシステムメッセージが表示されると共に、雨天の眼前に巨大な水滴が生み出された。その水滴は容易くゴブリンを受け止め、雨天を守る盾となる。

「……弾け飛んでっ!!」

続いて雨天は素早く手を振り上げる。すると、クラーケンの触手が水滴に包まれたゴブリンを勢い良く吹き飛ばした。

次から次に繰り出される触手が振るう一撃に、緑色も赤色も関係なくゴブリン達は瞬く間に灰燼と化していく。

「……水萌ちゃん……」

クウリは思わず、感嘆とも取れる声音で呟く。

触手が商品棚を巻き込みながら大振りに薙ぎ払い、瓦礫と共にゴブリンを舞い上げる。

触手が振り下ろす一撃が、激しく土煙を舞い上げながら、ゴブリン達をぺしゃんこにする。

「書き換える、書き換えるんですっ!!Dive配信、雨天の世界を見せてあげますっ!!」

最後に、雨天は高く手を振り上げた。

すると、瞬く間に彼女の手のひらの先に、巨大な水の渦が生み出される。

それは、大きなうねりを生み出し、大気を震わせる。

残ったゴブリン達は、恨めしそうに雨天を睨む。しかし、どうすることも出来ないと悟っているのか、身動き一つとることはしなかった。

「……雨天、頼んだっ!!」

セイレイの声援に、雨天は涙を潤ませながら微笑んだ。

「——私は、皆と生きていきますっ!!!!」

そう言いながら、勢いよく手を振り下ろす。

すると、巨大な渦は瞬く間にゴブリンを瓦礫ごと飲み込む。次から次へと襲い掛かる瓦礫の渦に防御すら取ることが出来ず、ゴブリンは「ギィッ」とか細い悲鳴を上げながら徐々に灰燼をまき散らしていく。

舞い上がった巨大な渦は、やがて小さく収束し、遂には掻き消えた。

降り注いだ水飛沫と共に、灰燼が激しく風と共に舞い上がる。

はらりと雨天の手に乗った灰燼にちらりと視線を送りながら、雨天は呟く。

「皆が認めてくれるから、私も力を出せるんです。簡単な話だからこそ、見失うんです」


やがて静寂と化した空間の中。雨天の姿にラグが生じ始める。

そのレインコートを纏った彼女は、再びドローンの姿へと戻った。


----


[どう!?私カッコよくなかったですか!?]

「台無しだよ……」

鼻息交じりに喜ぶ雨天の姿を脳裏に浮かべながら、noiseは呆れたようにため息を吐いた。

「……けど、これは確かに雨天の功績、だな……」

[ふふんっ]

ちらりとnoiseはそこに視線を向ける。

原型を留めないまでに破壊されつくした瓦礫と、大きく穴の開いた地面を。

元の形なんて分からないほどにめちゃくちゃになってしまった光景を見て、noiseは思わず茫然とする。

「アカウント権限の貸与、か。これほどまでとは思わなかったな」

ホズミは想像を絶する力に、困ったように笑った。

[ただ、皆さんがスパチャブーストを使えなくなるデメリットも大きいので、使い分けが必要そうですね……コメント欄がほとんど私以外に見えなくなるのも、厳しいです]

勇者一行の戦況把握の手段として用いている、コメント欄からの情報分析。それが利用できなくなるというデメリットも鑑みると、そう何度も多用出来るものではない。

雨天もそのことを理解しているからか、どこか煮え切らない態度をコメントとして発信する。

「まあ、そこは俺が判断すればいい話だろ」

[……お願いします]

セイレイがあっけらかんと言うと、雨天はそれ以上何も言わずにふわりとドローンを動かし、勇者一行の後ろに回り込むように移動した。

ちらりとクウリはそのドローンに視線を向けてから、セイレイに話しかける。

「確か、ホブゴブリンが出たのもこの辺りだったよね。ここから先はもっと気を引き締めないとね」

「そう、だな。今で8000円……ボスのことまで考えると、あまり黄は使えないな」

「雨天ちゃんの力もこれ以上は借りるのは厳しいかな。ホブゴブリンは前みたいに、有紀姉のスキルが役に立つかもね」

クウリはそれからnoiseの方へと視線を投げかける。

だが、話を振られたnoiseは困ったように苦笑いを零す。

「いや、それはそうなんだが……私の”金色の盾”のことさ、視聴者は知らないんだよな」

「あっ。それもそっか、あの時は僕のスマホから配信してたもんね」

「まあ。その辺りは実戦で見せた方が早いというのもあるか。しかし、節約しつつ戦うというのはなかなか難しいな……」

noiseは難色を示しながら、顎に手を当てる。

スパチャの支援額をメンバー全員で共有している以上、一人一人が己の役割を把握して立ち回る必要がある。今でこそ慣れたものだが、長期戦であるほど厳しい戦いとなることを改めて再認識した。

[俺らも、一回の配信で一回しかスパチャ送れないからな。申し訳ない]

「いや、送ってくれるだけで嬉しいよ。魔災で使い道を失ったとはいえ、元々は貴重な財産だっただろうに……ありがとうな」

[ここでケチっても世界を救えるわけじゃないからな。その分しっかりと働いてくれよ]

やや皮肉の混じったコメントに、思わずnoiseは苦笑した。

「安心しろよ。”給料分”の働きはするさ」

[期待してる 3000円]

皮肉返しをしたnoiseに対して流れるコメント。それを確認したnoiseは、セイレイに声を掛ける。

「セイレイ。ホブゴブリンと出会った時は、私のスキルだけで対応しよう。出来るだけ、ボス戦まで”黄”が使える状態を維持できるようにしたい」

「ああ、姉ちゃんのスキルなら明確に隙を作れるはずだよな」

noiseのスパチャブースト”緑”である”金色の盾”。それはnoiseの左手に盾を生み出すスキルであり、その盾で攻撃を受け止めた際に相手を拘束する、と言ったものだ。

以前にnoiseがそのスキルを発動したことで、ホブゴブリンの隙を生み出し、勝利へと繋がった。

予定調和通りならば、その一連の流れで対処が可能なはずだ。

——予定調和の通りに行けば、の話だが。


「……ごめん、皆。スパチャ送れる人は送って欲しい。なんだか、嫌な予感がする」

どこか胸の奥のわだかまりが消えないホズミは、ちらりとドローンに視線を送りそう提案した。

[ホズミちゃん?どうしました?]

[良いんだけどさ、どうした? 3000円]

[これでいいのか 3000円]

[これで、20000円になるけど 3000円]

その言葉と共に、次から次へとスパチャが送られる。そのコメントログを確認したホズミは、深々と頭を下げた。

「……ありがとう。私の杞憂だったら良いんだけどね。トントン拍子……というわけには行かない気がして……」

——希望の一側面だけを見ていると、痛い目を見る。

セイレイが、クウリに掛けた言葉がホズミの脳裏を過ぎる。

それから、先行して歩みを進めるセイレイへと視線を向けた。

「……不測の事態にフォローできるようにするのが、私の役割だもん」

両手杖をしっかりと握りしめ、ホズミは彼らの後に続く。


To Be Continued……

総支援額:20000円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。

④noise

 青:影移動

 影に潜り込み、敵の背後に回り込むことが出来る。また、地中に隠れた敵への攻撃も可能。

 緑:金色の盾

 左手に金色の盾を生み出す。その盾で直接攻撃を受け止めた際、光の蔦が相手をすかさず拘束する。


ドローン操作:雨天 水萌

[サポートスキル一覧]

・なし

[アカウント権限貸与]

・消費額20000円

・純水の障壁

・クラーケンによる触手攻撃


【告知】

セイレイvsディルの棒人間アニメーションが完成しました。

ニコニコ動画にて12月10日(火)19:00投稿予定です。

※プレミア会員ではない為、手動投稿となります。その為前後する可能性、寝落ちて投稿時間に送れる可能性があることはご理解ください。

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