表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
129/322

【第六十三話(1)】風(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

勇者としての自覚を胸に、日々困難と立ち向かう少年。

責任感が強く、皆を導く役割を担う。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

瀬川 怜輝の幼馴染。かつて瀬川に命を救われたことから、強く恋情を抱いている。

気弱だった彼女も、いつしか芯のある女性へと成長していた。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元男性であり、魔災以降は孤独に生きてきた過去を持つことから色々と拗らせた性格をしている。本音を取り繕うとすることが多く、その度にトラブルを引き起こしている。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

心優しき少年。魔災以降、直近までの記憶が無く自分がどのように生き抜いてきたのかを覚えていない。

雨天 水萌(うてん みなも)

元四天王の少女。寂しがりであり、よく瀬川に引っ付いている。

翌日。

「本当に、突然訪れた俺達を迎え入れてくれてありがとうございました」

瀬川は見送りに来てくれた集落の人々に向けて頭を下げた。

長らく交流を行っていた人々は名残惜しそうに、「また来てくださいね」「頑張ってください」と各々に言葉を投げかける。


前園は、スマホ教室を開いた中で特に良く関わっていた老婆と話を繰り広げていた。

「穂澄ちゃん、本当に私みたいな老い先短い老人の世話焼きをしてくれてありがとうねぇ」

「い、いえいえっ!長生きしてくださいね?」

「頑張ってくれてるのは皆分かってるから、私達よりも先に死んじゃ駄目だからねぇ」

「……は、はい……」

過去に自らの命を犠牲にしようとした経験のある前園は思わず言葉を詰まらせた。

その胸中を知ってか知らずか、老婆はしわがれた手で前園の頭を撫でる。

「穂澄ちゃんも、皆も。世界を救う勇者様である以前に、一人の人間なんだからねぇ。それを疎かにしてはいけないよ」

「……気を付けます」

「うん。じゃあ行っておいで」


一ノ瀬も集落の人々の健康管理を行う中で、特に関わっていた人々と談笑をしていた。

「お姉さんみたいな美人が居なくなると華が無くなるなぁ」

「や、やめてくださいよー、私そんな美人じゃないですって」

「爺さんからすれば若いってだけでみんな美人に見えるもんさ、がははっ」

「わしも若い頃はピチピチの可愛い子にようもててのぅ……」

「は、はぁ……」

一ノ瀬は話について行くことが出来ず、相槌を打って話をやり過ごす。

その彼女の反応から悟ったのか、老父がたしなめるように言葉を掛けた。

「こらこら、一ノ瀬さんが困ってるじゃないか」

「ああ、ごめんなさいねぇ。一ノ瀬さんも気負わずにね、皆を頼るんだよ」

「うっ」

一人で抱え込むことの多い一ノ瀬はぎくりとしたように、苦笑を漏らした。

「ははっ、若い子に囲まれるとつい強がってしまうからねぇ。たまには甘えることも大事だよ」

「う、忘れないようにします……」


そして、瀬川と青菜も、自身が特に関わっていた初老の男性と最後の別れを告げていた。

「瀬川君。青菜君。本当に気を付けて行ってくるんだよ」

「はい。本当にありがとうございました」

瀬川は礼儀正しく、深々とお辞儀をして感謝の言葉を告げる。

しかし、反対に青菜は瞳に涙を潤ませながら黙りこくっていた。

「……」

「空莉。言いたいことがあるなら、ちゃんと言っておいた方が良い」

俯いて葛藤している様子の青菜。その彼の肩を瀬川はポンと押した。

瀬川の言葉に、青菜は涙に潤んだ瞳を真っすぐに初老の男性へと向ける。それから、震えた喉で言葉を紡ぐ。

「……僕……あっ、ほ、本当に、ずっとお世話になって……えと、なんだか、本当のおじいちゃんみたいだ、って、ずっと思ってました……すごく、嬉しかった。すごく、幸せ、でした……本当に、お世話に、なりました……っ」

感極まった青菜は、そのまま男性へと勢いよく抱き着いた。

「青菜君……いや、空莉。君も、立派になったね。私も、君のことを孫のように思っていたよ」

徐々に、彼の感情が伝播するように男性の瞳が涙に潤む。

堪えきれず青菜は男性の服の裾を強く握りながら、ついに声を上げて泣き出した。

「……っ、あ、ああああっ……じっちゃん、じっちゃん……見ていてね。僕、ちゃんと立派に勇者一行の戦士として、頑張るから……っ!」

「ああ……空莉の活躍、配信で見届けるよ。私達も、自分の力で生き抜いてみせるから、信じてほしい」

「うん……うんっ……!」

それから、男性は瀬川へと視線を向けた。

「瀬川君。本当に、空莉のことを頼みます。確かに心配性で頼りないところもあるかもしれないけど、他人を思いやる気持ちが強い。そこだけは、尊重して欲しい」

「はい、それは俺達も十分に理解しています。空莉は俺にはない柔軟さを持ってる」

「私の自慢の……孫、だからね。頼んだよ、勇者セイレイ」

「……はいっ」

”勇者セイレイ”の言葉が瀬川の気を引き締めた。

沢山の責任を背負っているのだと、瀬川は心の奥底で再認識する。

それとと同時に、過ぎるものがあった。


……家族、か。

瀬川の脳裏を過ぎるのは、かつて業火の中に姿を消した実の姉のことだ。

実際に亡骸を見た訳では無いが、恐らく生きてはいないだろう。

「……叶うことなら、また会いたいよ……。沙羅姉ちゃん……」

ポツリと漏らしたその呟きを聞くものは誰もいなかった。


★★★☆


「私も沢山可愛がられたので、ちょっと寂しいです」

雨天は何度も集落の方向を振り向いては、前を向く、という事を何度も繰り返していた。

少しずつ体力がついてきたのか、今は瀬川の隣をひょこひょこと置いて行かれないように歩いている。

「皆いい人だったでしょ?」

青菜は誇らしげに笑いながら、雨天に言葉を投げかける。

その問いかけに、雨天は心底嬉しそうに頷いた。

「……はいっ!皆優しくしてくれて、とても嬉しかったです。なんだか、皆の言っている意味が少しずつ分かってきた気がします」

「それは良かったよ。でも随分とセーちゃんの隣がお気に入りなんだね」


「……へぇ」

青菜が何げなく発した言葉に、前園の表情が強張る。

だが、そんな彼女の胸中など知る由もなく、雨天はニコニコと言葉を続けた。

「そりゃー、あれだけの困難を乗り越えて手を差し伸ばしてくれたセイレイ君の事を、嫌う人がどこにいるもんですかっ」

「雨天ちゃんも分かる!?セイレイ君の良いところっ」

「わっ」

雨天の評価に、突如として前園は目を輝かせて食いついた。

突如態度の変化した彼女の姿に、雨天は戸惑いを隠すことが出来ない。だが、そんな彼女の様子など気にも留めず、前園はうんうんと満足げに頷いていた。

「いやー、分かっちゃったかあ。セイレイ君の魅力に」

「……穂澄ちゃん、いきなりテンションが変……」

「セイレイ君は一度助けるって決めたら、本当になりふり構わないからねー。私を助けてくれた時だって、自分が死ぬかもしれなかったのに、自らの命を投げうってまで助けようとしてさー……」

「穂澄ちゃんも、セイレイ君に助けられたんです?」

「うんっ。何となく勇者様だから、ってだけで擦り寄ってるなら追い払おうと思ったけど。ちゃんと内面まで理解してくれてるなら話は別かなー」

「あ、はぁ……」

理由はよく分からないが、どうやら許されたらしい。

雨天は困惑しながらも、適当に相槌を打ってやり過ごす。


「なあ。それ、俺の居ないところで話してくれないかな。気まずいんだけどさ」

高く評価してくれているのはありがたいのだが。

面と向かって評価されるというのは気恥ずかしく、瀬川は彼女達から視線を逸らすしかない。


——しかし、その視線をそらした先には山頂から見下ろすパノラマが映っていた。

桜の木々が世界を蝕む、瓦礫と樹根が埋め尽くしたこの世の終わりのような景色が。

「……絶対に、取り戻すぞ」

「セイレイ?」

瀬川の言葉の意味を理解できず、一ノ瀬は首を傾げた。

彼女の問いかけを聞いているのか聞いていないのか、瀬川はそのまま言葉を続けた。

「全部、取り返すんだ。俺達が失った未来も、記憶も、何もかも。追憶の世界で終わらせる訳には行かない……現実のものにするんだ」

「……うん。そうだね」

瀬川と一ノ瀬は立ち止まり、辺り一面の桜並木が覆いつくす世界をじっと見渡す。

地平線遠くまで、満遍なく灰色と桃色の世界が広がっていた。

そこにはかつての世界の色を見つけることが出来ない。あるのはぐちゃぐちゃに塗りつぶされたキャンパスのような世界だけだ。


突如として、桜吹雪が勇者一行に襲い掛かった。

それは彼らの衣服を大きくはためかせ、流れるような髪を大きく揺らす。

「そういえば」とふと瀬川は思い出したように、一ノ瀬に視線を向けた。

「姉ちゃんは、元々は男だったんだよな」

「ん?いきなりどうしたの」

「いやさ、戻りたいって思うのかと思ってさ。男の姿に」

瀬川の問いかけに、一ノ瀬は「うーん」と首を傾げて唸る。しばらく葛藤した後、一ノ瀬は静かに首を横に振った。

「私は戻りたいって思わないな。確かに男性のままだったら起こりえなかった未来もあったし、損をしたこともあった。けど、全部悪いことじゃなくってさ」

「良いこと、ってどういうことがあったんだ?」

一ノ瀬は、過去を懐かしむように空を仰いで言葉を続ける。

「女性の姿になっても、変わらない絆はあるんだ、って気づいた事かな。男だった頃はさ、他人にとって自分はどうでもいい人間だろう、としか思ってなかったし」

「……あんまり治ってなさそうな気がするけどさ……」

思わずぽつりと漏らした瀬川のツッコミに対し、一ノ瀬はわざとらしく咳払いをして話を続けた。

「んんっ……。環境が変わることでしか気づけないものってのは、やっぱりあるよ。この世界は確かに正しくないけど……皆と出会えたきっかけにもなったから……」

「それも、そっか」

「だからと言って、この世界のままで終わらせる気があるかと言えばそうじゃないけどね。失うことが全て良いことじゃないし」

一ノ瀬自身も、喪ったものと得たものの狭間で、葛藤しているのだろう。

その胸中をどこか理解した瀬川は、再び正面へと向き直った。

「まあ過去に縋るのを悪いことだとは言わねえけどさ。進まなきゃな……な、空莉」

「……え、僕?まあ、そうだね」

突然話を振られた青菜は、反応に困りながらも小走りで瀬川の隣に並んだ。

ちらりと困惑した顔を浮かべる青菜に、瀬川は語り掛ける。

「ホームセンターダンジョンを攻略することは、お前からすれば過去と決別する為の行動になる訳だろ」

空莉は、真剣な表情を作って頷いた。

「うん。もう、戻れないって思うと不安が込み上げてくるけど……だからといって、前に進まないのも違うし」

「皆が空莉の背中を押してくれていたな」

「本当にね。皆が居なかったら、僕は今も現状に縋ったままだったと思うよ」

それから、はらりと自身の衣類に引っ付いた桜の花弁を摘まんだ。

「卒業しなきゃ、ね。僕も、今までの自分から」

「……そうだな」

青菜の信念に満ちた呟きに、瀬川は静かに頷いた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ