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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
126/322

【第六十二話(1)】進むために(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

辛うじて、水族館の入り口だけは原形を保っていた。崩壊したアスファルトの断片に囲まれて、一ノ瀬は物思いに耽るように顎先に手を当てている。

そんな彼女の背中に向けて、瀬川は声を掛けた。

「なあ。姉ちゃん。戻ったぞ」

突如として声を掛けられたことに、一ノ瀬は肩をびくりと振るわせて勢い良く振り返る。

「わ、わっ。お、おかえり……!?」

「いやそんな驚かれても困るんだけどな……いや、仕方ないか」

困ったように眉をひそめた瀬川の傍らから、ひょこっと雨天が顔を覗かせた。

大切そうに、白のドローンを抱きかかえたまま一ノ瀬に声を掛ける。

「あ、あのー。本日から、改めて……よろしくお願いしますっ」

「……あ、うん」

そこでハッとしたのか、一ノ瀬は一瞬だけ目を見開き、続いて雨天の頭をポンと叩いた。

「あう」

「うん。よろしくね、雨天ちゃん。ごめん、考え事してた」

「……んー。このドローンのこと、ですねっ」

「うん。ありがとうね」

雨天は健気にドローンを差し出す。一ノ瀬は柔らかに微笑んだまま、それを受け取って頷いた。

しかし、ドローンを受け取った途端から、彼女の柔らかな表情は徐々に、悲痛に歪んでいく。

「今までは全く気に留めたこともなかったのに。何だか、ここに紺ちゃんの魂が宿っていたんだと思うと、抜け殻に見えちゃうね……」

一ノ瀬は優しく、白のドローンから埃を取り払うように優しくなでる。しかし当然というか、彼女の動作にもドローンは何一つ答えはしなかった。

似たような胸中なのは、前園も同じなようで同じようにドローンに優しく手を触れる。

「思い返せば……最初からこのドローンは、不思議なことばっかり引き起こしてたな……」

「本当に、紺ちゃんが伝えたい想いから……生まれた存在だったんだろうね」

「私達より先に始まっていた、Live配信……か」

一ノ瀬はそれから、ちらりと青菜の方に視線を送る。

「青菜君……本当に、今日はありがとう。助かったよ」

「え?ううん、何もしてないよ。最後だって決めたのはホズちゃんとセーちゃんだし……」

青菜は慌てて首を横に振った。それから、どこかバツが悪そうに瀬川の方向へと視線を投げかける。

肝心の瀬川と言うと、崩壊した瓦礫へと複雑そうな視線を向けていた。

「……あ?ああ、悪い。ちょっと感傷に浸ってた。何だ?」

きょとんとした顔をして視線を向けた瀬川に、思わず青菜は笑みを零した。

「いや、何でもないよ。セーちゃんもホズちゃんもカッコよかったなーって話」

「俺や穂澄だけじゃねえだろ。空莉も、姉ちゃんも居たからあの配信は成立したんだ」

「そういうことサラッと言えるのがかっこいいんだってっ!」

何を当然のことを、と言わんばかりにとぼけた表情で言葉を変えす瀬川。そんな彼の言葉に、思わず青菜は照れ隠しのように彼の背中を強く叩く。

「いってぇ!?」

すると、想像以上に瀬川は大きくよろけた。

「あ。ごめん」

「おい空莉……そのヘアピン配信以外では外すか違うやつに付け替えとけ……」

瀬川は背中をさすりながら、恨めしそうに青菜を睨む。

「……そうする」

青菜は瀬川の言葉に反省したのか、素直に身体能力を増強させるヘアピンを外す。それから、似たようなデザインのヘアピンに付け直した。

そんな青菜の行動に前園は、突然勢いよく噴き出した。

「ふっ……青菜君。ヘアピンはデフォルトなんだ……ふふっ」

「笑うとこかなぁ!?今まで付けてたから、ないと落ち着かなくてっ」

前園の指摘に恥ずかしくなったのか、青菜は手をバタバタとさせて必死に取り繕う。その様子がおかしかったのか、前園は更に声を上げて笑った。

そんな和やかな雰囲気は、やがて全員に伝搬し、彼らの間に笑いが満ちる。


しばらくして、その和やかな空気は収束し、瀬川は改めて青菜に真剣な顔で問いかける。

「ひとまずは集落に戻って、得た情報を確認しようと思うが……その前に、空莉」

「ん?」

「俺達は、準備を終えたら再び配信の為に旅に出ることになると思う。もう一度聞くが、お前は俺達の旅について行く覚悟はあるか?」

「……」

その問いかけに、青菜は逡巡するように俯いた。

だが、瀬川は真剣な表情のまま、止まることなく、諭すように話を続ける。

「お前に来て欲しいのは、俺達のわがままだ。船出の言う通り、これから残酷な真実が待っているのかもしれない。魔王に勝てるかどうかとか、本当に何もかもが分からないんだ」

「そう、だね。僕の欠けた記憶を取り戻すことだって、それが幸せとは限らない……」

「ああ。希望の一側面だけを見ていると、痛い目を見るのは嫌と言うほど知ったからな」

瀬川は自虐的に笑う。様々な配信を介して、彼は幾度となく希望に裏切られてきた。

その経験があるからこそ、念入りに青菜には確認を取らなければならない。

「最後の確認だ。本当に、俺達と共に旅をしてくれるか?」

「……」

青菜は、その質問に黙りこくった。

何も言わずに、勇者一行に背を向ける。

「……空莉君……」

前園は、どこか寂しそうに彼の名を呼ぶ。

勇者一行に背を向けたまま、青菜は静かに語り始めた。

「……口だけでは、いくらでも”はい”って言えるんだ。だけど、それじゃ意味がない」

青空に流れる風が、徐々に青菜の方へと向いて行く。その風に衣服をなびかせながら、青菜は真っすぐな目つきをして振り返った。

「空莉」

瀬川は、何かに期待するようにかつての幼馴染の名を呼ぶ。

彼らの間には、以心伝心する何かがあった。

瀬川と目線を交わし合った青菜は、強く頷く。

「セーちゃん。準備が整ってからでいいからさ、攻略しよう。ホームセンターダンジョンを。恩恵を享受する為だけに残していたダンジョンを」

「……良いのか?ダンジョンを攻略すれば、ホログラムは消えてしまうんだぞ」

「集落の皆も、前に進んでいるのに。僕だけ、進まないわけには行かないよ。だからお願い、一緒に攻略してほしいんだ」

その瞬間、瀬川は確かに感じ取った。

青菜の瞳の奥に見えた、吹き荒ぶ風のような決意を。

「——分かった。ただ、ホブゴブリンが普通にウロウロしているようなダンジョンだ、念入りに準備して行こう」

勇者一行は、それから集落に戻るべく再び歩き始めたのだが。


雨天だけは、その場にぽつりと立ち止まったままだ。

彼女は、神妙な表情をして俯いていた。

「……どうしたの?雨天ちゃん」

前園は、心配そうに雨天の顔をのぞき込む。

すると、雨天はぼそっと呟く。

「……です」

「ん?」

あまりにもその声は小さく、聞き取ることが出来なかった。前園は首を傾げ、もう一度じっと雨天の口元に顔を近づける。

すると、雨天は切実な思いを、勇者一行にぶつけた。


「ドローンの姿になれなくなっちゃったんです!!誰かおぶってくださいっ!!!!」

「……え?」

「なんで配信中しかドローンに入り込めないんですかぁー!ぶーっ」

不服そうに雨天は口を尖らせる。

想定外の言葉に、前園は目を丸くした。それから、助けを乞うように瀬川に視線を送る。

瀬川も、大きくため息を吐き、頭を掻きむしりながら雨天に近づく。

「はー……お前、マジか……」

「まじですっ。てか、あの山道を歩いて行くの、無理ですっ」

「なんでどや顔してるんだよお前……」

「ふふんっ」

雨天は大きく胸元を反らしながら、したり顔を浮かべた。

「ほら。またおぶってやるから」

「わーいっ」

瀬川が雨天の前で小さくしゃがむと、彼女は嬉々として瀬川の背中におぶさった。

「……」

前園の目が、徐々に細まっていく。

「穂澄ちゃん。これは仕方ないことだから、ね?」

一ノ瀬はその場を取り繕おうと、懸命に雨天のフォローをしていた。だが、前園の敵意に満ちた瞳は変わらない。

「何で、配信中しかドローンに取り込めないんだろうね……ずっと配信し続けてやろうかな……」

「こらこら」

前園の呟きに、一ノ瀬は困り果ててツッコミを入れることしかできなかった。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

 青:五秒間跳躍力倍加

 緑:自動回復

 黄:雷纏

・ホズミ

 青:煙幕

 緑:障壁展開

 黄:身体能力強化

・noise

 青:影移動

 緑:金色の盾

・クウリ

 青:浮遊

 緑:衝風

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