表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
124/322

【第六十一話(1)】願っていた、けども望んでいなかった再会(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

「……なあ。おい」

[雨天です。おいって名前じゃありません]

「いや。言ってる場合じゃねえだろ、色々聞きてーんだけどさ」

セイレイは配信のコメントを介して流れる雨天の言葉に、困惑を隠すことが出来ない。

四天王に選ばれた彼女自身のこともそうだが、それ以上に気になることがあった。

『私、今ドローン操作してないよ……?』

noiseがドローンのスピーカーを介して、困惑した声を出す。

現に今、セイレイ達の目の前で白色のドローンはまるで楽しそうに、感情豊かに空を泳いでいた。

「あんまりふらふら泳ぐなよ、コメントが読みづらいだろ」

[悔しかったらこっちまでおいでー、ですっ]

「鬼ごっこやってるんじゃねえんだぞ、視聴者が画面酔いしても困るからこっちにこい」

[はぁい]

[……なんだこの子。やりたい放題過ぎるだろ]

[楽しそうで何より……?]

[四天王、なんだよね?]

[あっ。今みんなして私のことばかにしてるでしょ!?って、ちょっと待って]

ふらふらと空を泳ぐドローンは、途端にぴたりと空中で制止した。

しばらくして、ドローンが映し出すホログラムが大きく歪み始める。

「……よっ。あ、出れたっ」

突如と生み出された光の粒子の中から、再びレインコートに身を纏った雨天の姿が彼らの前に現れる。

「雨天ちゃん、だよね?」

「いふぁ?」

ホズミは再び眼前に現れた彼女の姿を信じられないとばかりに、雨天の両頬をつねる。

きょとんと眼を丸くして、伸びた頬で雨天はホズミの顔を見つめ返す。

「ふぁー。何するんですかー」

「私、このドローンと十年来の付き合いだけど、まだまだ知らないことばっかりだなあ……」

「私の頬つねりながら感慨に浸るのはやめてくださいっ」

「あ。ごめん」

そこで気づいたようにホズミは雨天の両頬から手を離す。

雨天は両頬をさすりながら、照れ隠しのようにホズミを上目遣いで睨んだ。

「もうっ。私だってびっくりしましたよー、本当に君達は面白い世界を見せてくれますねっ」

「それは誉め言葉って受け取っていいのかな……」

「君達の言葉が、私が前に進むきっかけをくれたんだから誉め言葉で良いんですっ」

何故か雨天はしたり顔で大きく身体を逸らした。

ホズミの胸元までの身長ほどしかない小柄な体を。

「よしよし。えらいえらい」

「ふへぇ……」

そんな雨天の頭を、ホズミは優しくなでた。

瞬く間に雨天の表情はふやけたものとなり、破顔していく。

和やかな雰囲気漂う彼らの中に、突如としてそれは舞い降りた。


『……雨天ちゃん。何してるの』

漆黒のドローンが、彼らの間に舞い降りた。


「あ。キャラ作りの人だ」

『おいこら』

クウリが咄嗟に漏らした言葉に、漆黒のドローンこと船出 道音は鋭いツッコミを交わす。

「あっ。船出先輩……」

雨天は、自らの置かれた状況を理解したのか思わずばつが悪そうに目を逸らした。

申し訳なさそうに振る舞う彼女の姿に、船出は呆れたようにため息の音をドローンのスピーカーから響かせる。

『はー……してやられたなあ。負けちゃった、かあ』

「ごめんなさい……」

申し訳なさそうに雨天は頭を下げる。

だが、そんな彼女に対し船出はホログラムを介して人の姿へと変え、雨天の頭を優しくなでる。

流れるような長い黒髪と、ふわりと揺れた漆黒のワンピースが彼女の動きに連なって大きく揺れた。

「雨天ちゃんの選んだ生き方でしょ。私としては複雑だけど、それを止める権利は無いよ」

「ありがとう、ございます……」

柔らかな笑みを浮かべてそう語る船出に、セイレイは話しかける。

「なあ。船出」

「……何?勇者様」

「……あー。そうだな、お前は、俺達の敵、だよな?」

「はあ?何今更。当然そうに決まってるでしょ」

船出は腰に手を当て、呆れたようにため息を吐いた。

「私だって奪われたくない居場所があるの。雨天ちゃんにとっての水族館のような居場所を持ってるの」

『……みーちゃん。それって……』

noiseは、何かに気づいたようで話に割って入った。

ちらりと船出はドローンに視線を送った後、顔を伏せて言葉を返す。

「ま。ゆきっちなら分かるよね。私達の通っていた塔出(とうで)高校だよ」

『……やっぱり』

「私はかつての青春を取り戻す為に、全てを費やしてきたの。文字通り全て、ね」

飄々と語る船出に、セイレイは問いかける。

「なんで、ストー兄ちゃんを巻き込んだ?兄ちゃんはお前と無関係なはずだろ」

セイレイの問いかけに、船出は腕を組んで視線を空へと向けた。首を傾げながら、言葉を紡いでいく。

「うーん。なんで、かあ……何となく、ストーとはシンパシーを感じたんだよね」

「シンパシー?」

「そ。あんな馬鹿みたいな量の魔素を取り込んでなお、正常な意識を保ち続けたストーを見た時にね。私は思ったんだ」

くるりとそこで船出は瓦礫に塗れた、かつては水族館だったであろう施設を眺めながら言葉を続けた。


「魔物化に屈しなかった彼なら。私の行動の意味を理解してくれるはずだ、って。だから、誘った。だから、私の持つ書き換えの力を与えたんだ」

「……え?」

船出の言葉に、セイレイはぐるぐると思考を巡らせる。


——ストー兄ちゃんは、洗脳されていたわけではないのか?

——じゃあ。あの俺を殺そうと襲い掛かった日。ストー兄ちゃんは、俺を俺だって認識して、その上で殺そうとした。

——何で。何で。兄ちゃんは俺といっぱい語り合ったじゃんか。あの日々全ては、嘘だったっていうのか?


葛藤するように俯いてしまったセイレイの代わりに、ホズミが割って入る。

「船出さん。つまり、総合病院ダンジョンで私達と初めて会った時から。ストーさんは、私達を私達だって理解して、攻撃したということ。ですか?」

「うん、そう。勇者セイレイを殺すことでしか、見ることの出来ない世界があるから。ストーは直前まで悩んでいたみたいだったけどね」

「……セイレイ君は、世界にとって何なんですか。皆に求められたからと言っても、彼はただの一個人に過ぎないはずですよ?」


「それが本当に、ただのなーんの変哲もない一個人だったら、ね」

「え?」

ぽつりと返した船出の言葉に、ホズミは思わず聞き返す。

だが船出はそれ以上言葉を続けることなく、くるりと振り返った。

「勇者様さ。君が配信を続けた先にやがて、この魔災に墜ちた世界の真相を知ることになるはず。それに耐えられる覚悟があるの?」

「……話の本質が見えねえよ……あれ以上にまだ何かあるっていうのかよ」

セイレイは、船出の言葉に商店街ダンジョン内で見せられた、追憶のホログラムの映像を思い出す。

魔災が、人工知能を生み出す実験とホログラムの実体化実験。二つの実験の失敗が合わさることによって生じた、人類史最悪のヒューマンエラーであるという事を。

——それ以上に、まだ世界が知らないものがあるのか?

そうセイレイは思わずにはいられなかった。

しかしそんな彼の胸中など露知(つゆし)らずか、船出はそのまま言葉を続ける。

「配信するという事は、図らずともその真相を皆に伝えるという事。その覚悟がないのなら、止めておくことをお勧めするけどなあ」

船出は意地悪染みた笑みと共に、セイレイの唇に人差し指を当てる。

セイレイはどこか意図の読めない彼女の姿に、目を伏せ、顔を背けた。

「たとえそれが残酷な真実だとしても知りたいというのなら、ちゃんと覚悟しておくんだよ?四天王様からの、ちょっとしたお節介ね」

船出はそう言って人差し指を自身の唇にあてがい、くすりと妖艶に笑う。

そんな彼女の後ろに、近づく人物が一人。


「……マタ、セイレイ達ノ世話ヲ焼イテイタノカ。船出」

全身を漆黒のパワードスーツで覆われた、紫色のアイシールドを光らせた人物が音もなく現れた。

——その正体は、かつてセイレイ達と家電量販店ダンジョンで行動を共にした武闘家、須藤 來夢だ。

船出はストーの方を振り返り、楽しそうに笑った。

「あーっ。留守番しててって言ったのに!」

「俺ダッテ、成長シタ勇者達ニハ一度会イタカッタンダ」


「……ストー、兄ちゃん。だよね?」

セイレイは恐る恐る、と言った様子でそのパワードスーツの男に問いかける。

「アア。随分ト見違エタナ」

「俺のセリフだよ。もう原型すらないだろ」

「……皮肉、ダナ。フッ……」

ストーと思われる男は、くぐもった声で笑いを零す。微かにセイレイから顔を背け、それから再び向き直った。

「なあ。ストー兄ちゃん。俺を殺そうとしたことって、本当なの?」

そんなストーに向けて、セイレイは恐る恐る問いかけた。

だが、ストーは毅然とした態度を崩すことなく言葉を返す。

「俺ガ、オ前ノ命ヲ奪オウト思ッタ事。ソレハ事実ダ」

「……そっか」

セイレイは、ストーから返ってきた言葉に露骨に肩を落とす。

『……ストー。お前は船出から、一体何を聞かされたんだ?』

ドローンのスピーカーを介して、noiseはそう問いかけた。

その言葉に、ストーはその表情の読めないフルフェイスの顔を、じっとドローンに向けた。

「オ前ハ、何モ知ラナクテ良イ」

かつて総合病院ダンジョンで対峙した時に発した言葉を、再びストーはnoiseへと返す。

『……また、その言葉か。随分と長い反抗期だな?』

「……」

noiseの皮肉の言葉に、ストーは何も返さずに黙りこくった。


「ねー、クウリ君―。皆何話してるんですかーっ」

「うーん。僕も初めて聞く話の方が多いから分からないや、ごめんね?」

「えーっ」

ほとんど蚊帳の外の雨天はクウリに尋ねるが、彼も彼で当事者ではない為に雨天を宥めることしかできなかった。

それから思い立ったように、クウリは話に割って入る。

「……あのー、ちょっといいかな」

「何?」

船出は気だるげな視線をクウリへと向ける。

クウリは少し思考するように逡巡した後、確認するように問いかけた。

「わざわざ今日は無駄話をしに来た訳じゃないんでしょ?目的を聞きたいんだけどさ」

「あ。そうだった」

そこで船出は思い出したように両手を叩く。

改めて勇者一行へと振り返り、ストーの横に並ぶように自らの立ち位置を調整する。

「私から、雨天ちゃんに勝った勇者様ご一行にお願いをしに来たの」

『……敵対している、私達に?』

「まあ。ゆきっちにとっても悪い話じゃないと思うよ?」

船出はそこで言葉を切って、ドローンへと視線を送る。

ドローンのカメラと言うよりは、ドローンそのものを見ているようだ。


「白のドローンの正体で……かつ私の親友の秋城 紺(あきしろ こん)ちゃんに関係することだから」


To Be Continued……

総支援額:8000円

[スパチャブースト消費額]

 青:500円

 緑:3000円

 黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

 青:五秒間跳躍力倍加

 両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

 緑:自動回復

 全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

 黄:雷纏

 全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

 青:浮遊

 特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

 緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

 青:煙幕

 ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

 緑:障壁展開

 ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

 黄:身体能力強化

 一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

 :炎弾

 ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

 一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

 :マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

 地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

 一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ