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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
123/322

【第六十話】衝突した価値観

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

『お説教なんて、聞きたくないっ!!』

クラーケンが振り下ろす触手はホズミ目掛けて叩きつけられたはずだった。

『まずい!サポートスキル”斬撃”!!』

その攻撃を見たnoiseはすかさず宣告(コール)を発する。その瞬間、ドローンから伸びたアームの先端に取り付けられた刃が現れた。

刃はホズミを庇うべく触手へと伸びていく。しかし。

『……間に合わない……っ』

あまりにも距離は遠く、ホズミを庇うのには間に合わない。

続いて起こりうる惨劇が容易に予想できたnoiseは、苦悶の声を上げる。


しかし、次の瞬間、その未来は想定外の方向から裏切られた。

「……スパチャブースト”黄”」

[ホズミ:身体能力強化]

突如として。

——ホズミの姿が、残像と化した。


それと同時に、ホズミの体をすり抜けるようにして、触手の叩きつける攻撃が地面を貫く。

地面に叩きつけられた触手を中心として衝撃波と共に、土煙が舞い上がる。

『——え?』

当たったはずの、当たらなかった攻撃。

予想外の状況に、呆気に取られた雨天の声が響く。

激しく舞い上がる土煙だけが配信画面に映し出される。

その中に、微かにホズミが駆け出す姿が映るが、瞬く間に彼女の姿は残像と掻き消えた。

「ね。進もうよ、変わろうよ。そうすれば、手の届かなかったところに、いつかは追いつくはずだから、ね?」

『なっ、え、えっ』

残像と共に柔らかに微笑んだ彼女が現れ、クラーケンの前に対峙する。

それから、手に持った両手杖を勢いのままに地面に突き立てた。

「……舞い上がれっ!!」

[ホズミ:マグマの杖]

ホズミが深々と突き立てた杖の先から、突如として激しい熱の奔流が吹き荒れる。

地面から吹き出す水流に負けじと、核熱にも似た火柱が勢い良く噴き出す。

「クウリ!離れるぞ」

「う、うんっ」

セイレイとクウリは、急いでホズミの放つマグマに巻き込まれないように慌てて距離を取る。

その間にも、ホズミはまるで自身の体の一部の如くマグマの奔流を操作していく。

「他人は簡単には変わらない。だったら、私が変わるしかない。私が変われば、私の見る世界も変わるの。ほら……こんな風に、ね」

『な、こんな……おかしい。おかしいよ皆……なんで、こんな、こんな……変化を恐れないの……?』

マグマの奔流に飲まれながらも、雨天は困惑の声を上げる。

クラーケンの体は懸命に触手を動かし、その両手に再び水滴を集め始めた。

『し、沈めっ……!!放っておいてくださいよっ、私一人の世界で良いんです!誰も、私と関わらないでください!!』

[雨天:純水の障壁]

懸命に生み出したその巨大な水滴の障壁。しかし、瞬く間にその水滴すらもマグマが放つ熱風の中に蒸発してしまう。

『——そんなっ』

雨天の、絶望がにじんだ声音が響く。


[さっきのマグマの杖?か。で10000円使った]

[補填分!! 3000円]

[セイレイ、最後はお前が決めろ 3000円]

[皆お前の為にお膳立てしてくれてるんだ。任せたよ 3000円]

[変わることって怖いよな。逃げ出したいと思うよ、俺も。でも、生きる為には変わらないといけないんだ]

[魔災という大きな変化を経験したから……私も、進まないとって、そう思うんです。 3000円]

[大切なことを、こいつらが教えてくれるからな。俺達も進まないと 3000円]


「……ありがとうな。皆で、世界を変えよう」

そのコメント欄を眺めながら、セイレイは純粋に嬉しそうな笑みを浮かべた。

高くファルシオンを掲げ、真っすぐな想いを力に変える。

「——スパチャブースト”黄”!!」

[セイレイ:雷纏]

次の瞬間、セイレイの全身を青白い稲妻が纏う。低く屈めた姿勢から、勢いのままに大地を蹴り上げた。

自分自身を稲妻へと変えたセイレイは、激しく巻き起こる衝撃波と共にクラーケン——雨天の元へと跳躍。

『放っておいて、私のことなんて……!?そっとしておいて……!!』

「放っておけるわけ、ないだろうがっ!!もう過去に閉じこもるのはやめろ、雨天っっ!!!!」

『やだ、やだ……っ!!!!』

雨天は縋るような声を発する。

現実から逃れるように、雷を纏って襲い掛かるセイレイ目掛けて、マグマに飲み込まれながらも触手を懸命に振り下ろす。

だが、そのいずれもセイレイには当たらない。

隙間を縫うように攻撃を躱す。土煙の中に迸る稲妻が、やがてクラーケンへと近づいていく。

「さて、解除……っと。セイレイ君、お願いっ」

ホズミはにこりと笑って、そう宣告(コール)した。次の瞬間には、ホズミが纏う黄色の光と、クラーケンを覆っていたマグマが掻き消える。

『やだっ、来ないでっ、嫌だっ……沈んで、沈んでよっ』

雨天は必死に何度も叫び、水滴をかき集めようとする。しかし、辛うじて造られたそれは、もはや盾の形すら維持することさえも出来ていなかった。

「これで——終わりだああああああっ!!!!」

迸る稲妻が、水滴ごとクラーケンを貫く。


水槽のような世界だった。しかし、次の瞬間。瞬く間にホログラムが歪み始める。

ラグが、世界を覆いつくす。

雨天の生み出した、水族館。

その姿が、徐々に失われていく——。


★★★☆


気付いた時には、水族館などどこにも無かった。

代わりに存在したのは、一面見渡す限りの崩落した瓦礫。そして、燦々(さんさん)と彼らの頭上に差し込む日差しのみだ。

爽やかに照り付ける日差しが、小さく蹲って俯いた雨天の表情により深く影を落とす。

レインコートに包まれた彼女の姿から表情は読み取ることが出来ない。

「……もう。嫌なんです。正しいことだって思いたかったんです、仕方ないことだって思いたかったんです」

「沢山人の居場所を奪ってまで、作った世界だから。取り返しがつかないって思ったんだね」

俯く雨天に向けて、ホズミは出来る限りの穏やかな声音で問いかける。その言葉に、雨天の声がより涙に震えだす。

「……終わらせて、ください。私自身が、追憶のホログラムの、役割をしています……私を、こ、殺せば……この戦いは全部、終わる、ん、です……うっ、うう……」

「雨天……」

あまりにも残酷な懇願の言葉を、雨天はセイレイへと突きつける。

セイレイは、どうするべきか判断することが出来ずにコメント欄へと視線を投げかける。


[俺らは当事者じゃないから、勇者一行が判断してくれよ……]

[ごめん。その選択を俺らに投げかけられても困るんだ]

[裁きは正当に受けるべきだと思う。当然の報いだ]

[誰が裁くんだよ……法も国家も機能していない世界で、判断するのはセイレイ達なんだぞ]

[雨天も言っていたけど、こいつを殺して解決する問題ならそれでもいい。でも、まだ終わりじゃないんだろ]

[正直、セイレイ達には残酷な行動をして欲しくないと思うのはある。でも、お咎めなしと言うのも違うよな……]


コメント欄を介して、様々な意見が飛び交う。

「……」

そのいずれも、一側面では正しいからこそ、セイレイ達はより一層判断に悩む。

ちらりとドローンが映すホログラムが表示するコメント欄に視線を移す雨天。それから、涙に潤んだ瞳のまま、意を決したように立ち上がった。

「……じゃあ、殺される理由を作ればいいんですね」

彼女は、ポケットに隠していた赤色の宝石を取り出した。

魔石だ。

幾度となく目の当たりにしてきたそれを見た、noiseはすかさず声を上げる。

『おい!雨天、お前。何をしようとしているんだ!?』

「もう一度……クラーケンの姿に戻ります。クウリ君……魔物の本質は”依存”って言いましたよね?」

「え?うん……」

突如として名指しで話しかけられたクウリは困惑した様子で返事する。

「そうなんです。依存こそが、私達の本質。もう二度と這い上がれなくてもいいです。戻れなくてもいいです。そんな惨めな姿で、終わらせてください——」

そのまま雨天は飴玉のようにひょいと魔石を口の中に入れようとした。

だが。


「雨天ちゃん」

ホズミは、魔石を取り込もうとした雨天の腕を掴み、そのまますかさず彼女の頬に平手打ちをした。

小気味良い音が、静寂漂う瓦礫の中に鳴り響く。

「――っ……!」

雨天の手から、魔石が転がり落ちる。

それは瓦礫の隙間に入り込み、彼らの視界に映らなくなった。

「や、やだっ!終わらせてよ!!ねえ、終わらせてっ。ホズミちゃん!!!!」

狂乱したように、縋るように。雨天は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔でホズミの裾を掴んで訴えかける。

だが、雨天と同様に涙に瞳を潤ませたまま、ホズミは静かに語りかけ始めた。

「……罪を償わず。終わっていい訳ないでしょ?」

「殺されることが、私が世界にとってできる償いなんです!嫌なんです、現実と向き合うのは!だから、だからっ!!」

「何で。雨天ちゃんの代わりに私達が、君を殺さなければ、って現実に向き合わないといけないの。もう他人じゃないんだよ?」

「……っ」

言葉に詰まった雨天に、ホズミは更に諭すように語り掛ける。

「ねえ。雨天ちゃん。考えてよ。君を殺すのは私達なの。こうして戦うまでに、沢山会話を交わした私達なの」

「で、でも。貴方達しか私を殺せる人が居ないんですっ。ほら、私、四天王ですっ。沢山悪いことをした、魔王の使いですっ」

雨天は必死に殺される理由を作ろうと、懸命に思いついた単語をまくしたてた。

だが。

「四天王も、魔王の使いも後付けの設定だろーが。別に雨天、お前自身に関係ねーだろ」

セイレイはしびれを切らしたように会話に割って入る。雨天は縋るように、しかしどこか怯えるようにセイレイを見た。

「……セイレイ君。でも、私達は立場が違うから。居なくならないと……」

「もう決着はついただろ。つかさ、お前自身が追憶のホログラムだっていうなら、一ついい案があるぜ」

「な、なんですか?」

戸惑った表情を、雨天はセイレイへと向ける。

だが、セイレイはその問いかけに答えることなくちらりとnoiseが操作するドローンへと視線を向けた。

その視線の意図に気づいたnoiseは、彼の代わりに言葉を続ける。

『ああ、このドローンに融合されるんだ。そうすれば、私達の旅の助けになり、かつお前の言う償いになるはずだ』

想定外の提案に、雨天は呆気に取られたように目を丸くした。

「……そんな、都合の良い話で良いんですか?私は、私は……」

「水萌ちゃん。現実と向き合うって、怖いよね。辛いよね」

クウリは、顔面をぐちゃぐちゃにしたまま顔を上げた雨天に、目線を合わせるように屈む。

「クウリ君……君は……」

「水萌ちゃんも、変わることが怖かったんだよね。分かるよ。僕も、セイレイ君達が来るまで、変化を拒んでたから……」

「だから、現実を知らないままで終わりたかったんです。それじゃあ、ダメなんですか……?」

助けを乞うように、雨天はじっとクウリの目を見る。しかし、クウリは静かに首を横に振った。

「ダメ……とは言わないけどさ。困った時に、一緒に居てくれる誰かがいるってのは、案外いいものだよ?水萌ちゃんにも、それを知って欲しいだけ……かなあ」

そう言って、クウリは仲間の方をくるりと振り返る。

「まあ、クウリを連れ出したのは俺、だしな」

セイレイは苦笑を漏らしながら、どこか気恥ずかしそうに鼻頭を掻いた。

『私も、セイレイも、ホズミも……そしてクウリも。皆辛い現実と向き合って、ここにいるんだ。任せておけ』

「地図を無くした人の任せろほど、不安なものはないんだけど……」

『ちょっとその話は今やめてもらっていいかなー』

noiseは”良いことを言った風”に語るが、雨天は呆れたようにツッコミを入れた。

それから、雨天は思わず笑みを零す。

「……分かりましたっ。雨天 水萌、勇者一行のドローンに融合しますっ」

レインコートの裾で涙を拭い、雨天は真っすぐにドローンのカメラと向き合う。

それから、自らの体に抱き寄せるように、ドローンを両手で撫でた。


『雨天ちゃん!?近い近い』

[ドキッとした]

[ちょちょちょ]

[俺らからしたらものすごい大画面に映ってることに気づいてくれ?!]

配信画面にアップで映る雨天の姿に、視聴者とnoiseは困惑の言葉を発する。

そのコメントに、雨天はクスリと笑った。

「……よろしくお願いしますね、皆さんっ」


徐々に、雨天の姿が光の粒子と消えていく。彼女から零れた光の粒子が、ドローンの中に吸い込まれていく。

「……雨天ちゃん……」

ホズミは、寂しそうにその姿を眺める。

そのまま最後に彼女に触れようと、手を伸ばす。しかし、光の粒子となった彼女の実体に触れることは叶わない。


やがて。

まるで、最初からいなかったかのように、雨天の姿はやがて世界から消えた。


「……消えた、のか?」

セイレイは、ドローンにちらりと視線を送る。

すると、ドローンのホログラムを介してコメント欄が更新された。

[あ、あー!聞こえていますかっ。雨天です]

『……ん!?いや、聞こえているというか、見える』

noiseは困惑しながらも、そのコメント欄に返事した。すると、しばらくして再び雨天と思われるコメント欄が更新される。

[あれ!?文章になってるんですね。なんか、変な感じです。やほやほ、セイレイ君達っ]

「お。おー……?雨天、なんだか楽しそうだな」

[ふふん。すごいでしょー。ちょっと面白いです。新鮮です。こんな世界があったんですね]

『私だって初耳だよ……』

雨天のテンションについて行くことが出来ず、noiseは呆れた声を発する。

あまりに予想外の出来事に理解が追い付かない勇者一行。

そして、さらに更新されたシステムメッセージが更に混乱に彼らを陥らせた。


[information

Dive配信:雨天 水萌への一時的なアカウント権限の貸与が可能となりました]


「……なんだこれ?貸与(たいよ)って、何するんだ?」

セイレイは首を傾げ、仲間に視線を投げかける。

だが、その問いに答えられるものは誰も居なかった。


To Be Continued……

総支援額:8000円

[スパチャブースト消費額]

青:500円

緑:3000円

黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

黄:身体能力強化

一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。

魔法

:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。

:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)

地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。

一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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