【第五十九話】衝突する価値観
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。
どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
山奥の集落に住まう一人の少年。
勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。
・雨天 水萌
四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。
どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。
『あのー……そろそろ、大丈夫……ですか?』
おずおずと言った様子で雨天は勇者一行に尋ねた。
意見のまとまった勇者一行は、その声に同時に振り返る。
彼らの代表として、セイレイは前に出て語り出す。
「ああ。雨天——ここから先は、お前を理解する為の戦いだよ」
『……セイレイ君が、初めてです。私の言葉を真っすぐに聞いてくれたのは』
「姉ちゃんが『初めてだって言う女性には気を付けろ』って言ってたぜ?」
『セイレイ。本当に分かり合おうって気ある?』
あまりに空気を読まずに茶化すセイレイに、noiseはすかさず鋭く指摘の言葉を差し込む。
「……セイレイ君?」
後ろでホズミがムスッとした顔でセイレイを睨んでいた。
クウリはちらりと見えたそんな彼女の姿に、少しだけひやりとしながらも戦闘態勢を取り直す。
それから、ぽつりと彼女に関係した情報を確認するように呟いた。
「雨天 水萌。14歳で魔災に巻き込まれた女の子で水族館が大好き……でも」
きっと、それは水族館を心から好いていたわけではないのではないか。
そう指摘しようとしていた自分に気づき、クウリは慌てて口を閉ざした。
セイレイは横目でクウリに視線を送り、それからクラーケンに向き直る。
「ま、なんだ。戦いながらでいいからさ、少しだけ話でもしようぜ」
ファルシオンを低く構えつつ、セイレイはにやりと笑った。
仲間もそれに見習うように、各々の武器を構えてクラーケンと対峙する。
『そこまでしてお喋りしたいんです?』
「たりめーだろ。でなきゃ配信者なんかやってねーよ」
『……屁理屈ばっかり……どっちかが居なくなるかもしれないのに。それでも分かり合おうっていうんですから、無茶苦茶もいいところですよ』
「随分な誉め言葉……だなっ!」
次の瞬間。セイレイは大地を蹴り上げ、再びクラーケンの元へと駆け出した。
「セーちゃん、僕も続くよ!!」
それにクウリが続く。
二人の後衛で、ホズミは両手杖を構える。
「スパチャブースト”青”っ!」
[ホズミ:煙幕]
流れるシステムメッセージとと共に、ホズミを中心として吹き荒れる煙幕がセイレイとクウリの姿をも隠していく。
『あーもうっ。めんどくさいなあっ、そこまでして一体何を隠すんですか!』
忌々しそうに叫ぶ雨天の声が響く。それと同時に、クラーケンは大きく触手を横に薙ぎ払う。
薙ぎ払いと同時に舞い上がった煙幕。しかし、クラーケンが振るう腕の先にはセイレイもクウリも居なかった。
「やっほー、水萌ちゃん」
『っ!?』
クラーケンの背後から突如として響くクウリののびのびとした声。だが、クウリは大鎌を振るうことなくそのまま語り掛ける。
「ねえ。十年間、大変じゃなかった?一人でダンジョン維持するってさ」
『あ、貴方に何が分かるんですかっ』
動転の声音を上げながら、クラーケンはクウリ目掛けて触手を振るう。
クウリは身軽なステップと共に、その薙ぎ払いを回避。踊るように次から次へと襲い掛かる触手攻撃をよけながら語り続ける。
「よっ。大変だよね、守りたいものを守り続けるのって。っと……変化する世界の中で、変化をさせないようにするのは、すごく難しいことだよね」
『うるさいっ。私の何が分かるんですかっ!口を閉ざしてよ!』
思わず感情的になった彼女は、すかさずクラーケンの触手を大きく振り上げる。
振り下ろし攻撃を警戒したクウリだったが、その時noiseが切迫した声を上げた。
『クウリ!!下だ!!』
「えっ?わわっ!?」
noiseの声にクウリは下を向く。次の瞬間には噴水のように吹き上がる水流が、クウリに一同に襲い掛かった。
「わっ、スパチャブースト”緑”!!」
[クウリ:衝風]
クウリはその水流に打ち上げられる寸前で宣告。次の瞬間にはクウリを中心に巻き起こった突風の渦が、水流を水飛沫に変えていく。
注意を引き付けたクウリの横から、すかさずセイレイが飛びかかる。
「よっと……なあ、四天王さんよっ」
『雨天ですって!』
「どっちでもいいだろ、めんどくさいなお前。よっ……と。お前さ、虚しいと思わねえ?」
すかさずクラーケンは飛び掛かったセイレイ目掛けて薙ぎ払い攻撃を仕掛け続けた。しかし、セイレイは低く身をかがめてその攻撃を潜り抜ける。
『虚しい訳ないでしょう!?これが私の居場所なんです。私はそのために、ずっと時間を費やしてきたんです!!』
「確かにさ?ずっと変わって欲しくないよな。でも、周りを見てみろよ。……おっと。自分以外の皆は変化していくんだぜ?」
次から次に襲い掛かる攻撃を躱しながら、セイレイは雨天に語り続けた。
吹き荒ぶ水飛沫と舞い上がる土煙の中、セイレイは楽しげな笑みを零す。
「お前が心を閉ざし続けた十年。その間にも、皆は色んな感情を経験するんだよ。色んな変化を経験していくんだ」
『っ……うるさいうるさいうるさい、何も知らないくせに!偉そうに説教!?勇者様のありがたい言葉なんか私は聞きたくないっ!!!!』
更に感情を大きく乱された雨天は、再び大きく触手を振り上げる。
その予備動作を先ほど見ていたセイレイはすかさず大きく横っ飛びに回避。すると、先ほど彼が居たところを激しい水流が貫いた。
砂利の上に染み渡っていく水溜まりを靴底で叩きながら、セイレイはクラーケンの攻撃を誘導する。
その隙に、ホズミは慎重にクラーケンに向けて歩みを進めながら語り始めた。
「真実って、残酷だよね。分かる、分かるよ。認めたくないもん。信じたくないもん。外に出れば、辛いことばかり。苦しいことばかり」
ホズミの脳裏を過ぎるのは、魔災に飲まれた世界の中で頼れる大人として拠り所であったはずの千戸のことだ。
長い月日の中、頼りにしていたはずの千戸に裏切られ、大きな愛情は大きな憎しみへと生まれ変わった。
その呼び覚まされる記憶と共に、ホズミの全身に黄色の光が纏い始める。
「居場所はもちろん大切。ずっと私は皆の居るところを大切にしたい。でも、守ってるだけじゃ駄目なの。たまには外に出ないと、知らない世界を知ろうとしないと」
「……ホズミ?」
ホズミを纏い始めた光に、何かを感じ取ったセイレイは思わず尋ねる。
だが、ホズミはそんな幼馴染の言葉に耳を貸さずに言葉を続けた。
「ね。知ってるよね?私だって、最初からセイレイ君達の隣で戦えた訳じゃない。『安全地帯でドローン操作をすることだけが、私の役割』……そう思ってたよ」
『だから何!?ホズミちゃんの話なんか、今は関係ないでしょっ!?』
激昂したクラーケンは、続いてホズミに向けてその巨大な触手を振り下ろす。
『駄目だ!ホズミ!!避けろ!!』
「ホズミっ——」
noiseはすかさず叫ぶ。
セイレイは、ホズミを庇おうと駆け出す。
だが、そんな中でもホズミはにこりと笑っていた。
「水族館っていう自分の世界を守りたい気持ちは分かるよ?……でもね。たまには自分以外の世界を知らないと。だから、私は誓おうと思うの」
[information
ホズミ:スパチャブースト”黄”を獲得しました
黄:身体能力強化 ※初回のみ無料で使用することが出来ます]
To Be Continued……
総支援額:23000円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
③ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
魔法:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
ドローン操作:noise
[サポートスキル一覧]
・斬撃
・影縫い




