表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
120/322

【第五十八話(2)】蒼のドローン:雨天 水萌(中編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

青々とした、水槽の中のような空間を進む。

辺り一面にはホログラムとして映し出された魚群が泳いでおり、時々セイレイ達の前を通過しては避けていく。

一歩、また一歩と歩みを進める度に、敷き詰められた砂利同士の擦れる音が響く。

彼らの視線の先に浮かぶのは、ふわりと空に浮かんだ蒼のドローンこと雨天 水萌だ。


距離が縮まるにつれて、雨天の弱々しい声が響く。

『……思い出したくなかった。けど、誰にも知られないのも嫌だったんです……』

「……雨天」

セイレイが呼びかけると、蒼のドローンのカメラはくるりとセイレイの方へと振り返った。

どこか俯きがちにカメラは下の方を向いていたが、やがてゆっくりとそのカメラのアングルは上昇する。

『セイレイ君。聞いても良いですか?』

「なんだ?」

『私だけが、悪者なんでしょうか』

「……それは、お前が言う内容なのか?」

突拍子もない質問に、セイレイは苦笑いを零した。

だが、雨天は真面目な口調を崩さずに話を続ける。

『……私は、確かに水族館に居た人々に悪いことをしました。沢山傷つけました。もしかしたら、殺してしまったかもしれません……でも』

「でも?」

『私がどれだけ構って欲しいと言っても、ずっと無視し続けたお母さん。そんなお母さんの元で育った私。実験に失敗して、魔災を引き起こした大人達。そして、私に力を与えた謎の声』

「……謎の声?」

さらりと発した単語に、ホズミは眉を(ひそ)める。だが、雨天は気にせずに言葉を続けた。

『ねえ。教えて、世界を救う勇者様。悪いのは、一体誰なの?何を正せば良かったの?』

「……それは」

『私を倒して、解決する問題なのかな。まあ倒されるわけには行きませんが、一応四天王に割り当てられたので……でも。知りたいです』

ブツブツと自分に言い聞かせるように、幾度となく言葉を修正しながら話を続ける。

その話の最中、蒼のドローンにラグが走り始めた。その姿はやがて大きく乱れ始め、徐々にシルエットが人型のそれへと移り変わっていく。


気付いた時には、レインコートに身を包んだ少女の姿となっていた。

彼女は涙に潤んだ瞳で勇者一行を睨みながら、懸命に訴え掛ける。

『ねえ……教えて。……教えてよ!!私だけのせいなの!?ねえ!!私一人だけが間違っているの!!??』

憤る感情に突き動かされるように、彼女の周りに魚が纏い始めた。

更に大きく吹き荒れる気泡が、雨天の姿を包み込む。

「雨天ちゃんの質問に、私達は明確な答えを出すことはできないよ。でも……」

ホズミの呟きに、クウリは身構えながら彼女の言葉の続きを発する。

「うん。それが、今の水萌ちゃんの行動を止めない理由にはならないよね」

大気を震わせ、大きく水槽を彷彿とさせるホログラムの景色が大きく歪む。

まるで深海のように、藍色の世界へと彼らを染め上げていく。


それに伴って、コメント欄が加速する。

[頑張って、負けないで! 3000円]

[明らかに今までとパターンが違う。俺らも気づいたことがあれば伝えるよ 3000円]

[雨天が間違ってるとは言えないけど、正しいとも言えない 3000円]

[まあ順当に考えれば水属性。ホズミの魔法は効くか怪しいよな 3000円]

[セイレイ。雷纏の扱いは慎重にな?下手すると仲間を巻き込む可能性がある 3000円]


『……始めるぞ、現在総支援額は53500円。セイレイは引き続き、雷纏(らいてん)の扱いには気を付けろよ。原則は禁止技だ』

「必殺技を使えねーってのは不便だな……仕方ねえか」

セイレイは苦笑いを零しながら、ファルシオンを右手に顕現させる。右手に残った光の粒子を振り払うように、セイレイは剣を鋭く、低く構えた。

それに見習うように。

クウリは大鎌を、ホズミは両手杖を顕現させた。


雨天の周りに纏っていた気泡は、やがて空高くに消えていく。

そこには、雨天の姿はない。

代わりにそこに存在するのは——勇者一行の体格をゆうに上回る、巨大なイカだった。

全身を水色に染め上げた扁平状の体幹から伸びる、これまたセイレイ達の体格程はあろうかという、巨大な触手を大きくくねらせてその存在感をアピールする。

『始めましょう……世界を救う勇者様。これは、価値観のぶつかり合いです。私だって、このホログラムを消されるわけには行かないんです』

雨天の声をしたイカが触手を振るうと共に、激しく土煙が舞い上がった。

さらに、それに伴って地面から海藻がいくつも地中を突き破り、伸びていく。それは瞬く間に地面を這い巡り、巨大なイカと化した雨天を囲い込む。


[追憶の守護者:雨天 水萌]

言わばクラーケンと化した、雨天の姿に重なるようにシステムメッセージが表示される。

これまでの魔物とは大きく異なるプレッシャーを肌で直に感じ取ったセイレイの額に、冷や汗が伝う。

「……ははっ、随分な演出だな?」

セイレイは冗談めかして笑う。しかし、緊張を隠しきることは出来ず、震えた吐息が彼の口から漏れた。

そんなセイレイの緊張をほぐすように、クウリは隣に並び柔らかな笑みを彼へと向ける。

「セーちゃん……とりあえずは、触手から対応しよう。僕が攻撃を受ける役に徹するよ」

「……頼りにしてる。俺が敵の視線を集めるのに動く。ホズミは距離を取って支援だ。魔法は、お前の判断に任せる」

セイレイはちらりと、後方で身構えるホズミに視線を向けた。

彼女は強く頷き、両手杖を真っすぐに構える。

「うん、分かった。noiseさんは必要なら斬撃スキルで私を守って欲しい」

『任せろ。……じゃあ、始めるぞ。Live配信の時間だ』


『——誰も私を理解してくれないから、私が伝えるしかないんです。私はDive配信の、雨天 水萌です。どっちが自分の世界に対する想いが強いか、勝負ですっ!!』

再びクラーケンは激しく地面を叩くと共に、砂埃が舞い上げる。

激しく吹き荒ぶ砂煙が、勇者一行の衣服をはためかせた。

それは、戦いの始まりの合図だった。


「せあああっ!!」

セイレイは、一目散に大地を蹴り上げてクラーケンへと距離を縮める。

その触手を切り裂かんと大きくファルシオンを振り抜く。

『単純、ですねっ!!』

だが、その攻撃を読んでいたクラーケンは触手を持ち上げてその攻撃を躱す。代わりに側面から振り抜く触手が、セイレイを薙ぎ払わんと襲い掛かった。

「——っ」

「セーちゃんっ!!」

素早くクウリはセイレイの元へと駆け出し、そのまま宣告(コール)した。

「スパチャブースト”緑”っ!!」

[クウリ:衝風]

そのシステムメッセージが流れると共に、クウリを中心として激しく風が舞い上がる。それは、クウリごと薙ぎ払おうとした触手の動きを止めた。

「今、だっ!!」

『きゃあっ!!』

触手を大鎌で薙ぎ払うと共に、雨天の悲鳴が大きく響く。

身を捩らせた雨天は、それからすかさず巨大な触手をセイレイとクウリに向けて振り下ろす。

『何、するんですかっ!!』

『——横に避けろっ!!』

noiseが叫ぶと共に、セイレイとクウリは互いに横っ飛びに分かれるようにして回避する。その二人の間を裂くように、巨大な触手は砂利が敷き詰められた地面を叩きつけた。

土煙と共に舞い上がった砂利の欠片が、地面に軽快な音を立てながら転がる。

「——セーちゃん、僕なら衝風でホズちゃんごと守れるからさ。使って、雷纏を」

「……良いのか?」

セイレイがクウリに確認を取るが、既に彼は後方で様子を伺っていたホズミの元へと駆け出していた。

その無言の行動を了承と取ったセイレイは、すかさず宣告(コール)する。

「……スパチャブースト”黄”!!」

[セイレイ:雷纏]

そのシステムメッセージが表示されると共に、セイレイの全身を激しく青白い稲妻が身に纏う。

続いて、すかさず低く身をかがめたセイレイは宣告(コール)を重ねる。

「スパチャブースト”青”っ!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

流れるように表示されたシステムメッセ―ジ。それと同時に、セイレイは両脚に青く淡い光を纏う。

そのまま、勢いのままにクラーケン目掛けて跳躍。

弾丸の如く飛び出すセイレイの一閃に、クラーケンは防御の姿勢すら取ることが出来ずに勢いのままに貫かれた。

『あぅ、きゃあああっ!!??』

「悪いが、手加減は無理だ」

セイレイはぽつりとそう漏らした後、スキルの効果時間が切れる前に幾度となく連撃を繰り広げる。

クラーケンを何度も貫くセイレイの一閃に、呆気にとられた視聴者のコメントが流れた。


[つっよ]

[なんかさ、鬼気迫るってこういうのを言うのかな]

[セイレイ一人でここまで出来るのか……]

[いけいけ 3000円]


だが、クラーケンはセイレイの連撃を受けながら、ゆっくりと触手を自身の顔へと持っていくように身を固め始めた。

『——待て、セイレイ!!何か様子が変だ』

『自分の信念を通すのって、凄いよね。簡単に出来ることじゃ、ないもんね……』

ブツブツと何かを呟く雨天。それと同時に、雨天の声をしたクラーケンに水滴が纏い始めた。

その水滴は、徐々に繋がり、まとまり、一つの大きな塊を生み出す。

『沈んでしまえばいい。戻れないのなら、それでもいいんだよ……』

「——させるかっ!!」

『引け、セイレイ!!駄目だ——』

再び飛び掛かろうとしたセイレイを止めようと、noiseは叫んだ。

だが、時すでに遅し。勢いのままに跳躍したセイレイは既にクラーケン目掛けて剣を振り抜くところだった。


[雨天:純水の障壁]

そのシステムメッセージが表示されると共に、稲妻と化したセイレイの一撃を、クラーケンは容易に受け止める。

クラーケンを守るのは、盾のように生み出された巨大な水滴だった。


To Be Continued……

総支援額:33000円

[スパチャブースト消費額]

青:500円

緑:3000円

黄:20000円

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ