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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
119/322

【第五十八話(1)】蒼のドローン:雨天 水萌(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

ただひたすらに[順路]と表記された道のりを進んでいく。その度に、映る世界にラグが走り世界が歪む。


まるで、彼らを招き入れるように作られたアーチ状に作られた通路。その廊下は全面がガラスとなっており、見渡す限りに海を泳ぐ水生生物の姿を映し出す。

だが、そのいずれもホログラムであることの証明として大きくラグが生じており、どこか見る者を不安にさせる。

やがて、ガラス張りの通路を進んだ先に、勇者一行は立ち止まった。

「追憶の、ホログラムだ」

セイレイが思わずぽつりと漏らす。彼らの視線の先には、再び七色に光る結晶体である追憶のホログラムが存在した。

勇者一行は警戒しながらも慎重にホログラムに向けて歩み寄る。

——だが、一向に魔物が現れる気配はなかった。

「……このまま、触ってもいいのかな」

ホログラムを守るものがいないことに、かえって不安がよぎったクウリはおずおずと尋ねた。

「何かあったら、その時はその時だ」

「随分といい加減な……」

セイレイが返した言葉に、ホズミは呆れたようにため息を漏らす。だが、彼の行動自体は止める気が無いようでそれ以上は何も言わなかった。

クウリとホズミの沈黙を賛同と取ったセイレイは、そのまま追憶のホログラムに手を伸ばす。


再び、光が迸り、大地にプログラミング言語が駆け巡る。

世界は、再び雨天の追憶の世界を映し出す。


----


『……ね、お母さん。見てよ、凄い、凄い!』

ホログラムが映し出す雨天の姿が、再び勇者一行の前に現れる。

だが、その彼女の姿ですらラグが生じていた。全てが歪なホログラムの中で、それでも止まることなく雨天の世界は描かれ続ける。

『雨天の母親か……』

noiseはどこか嫌な予感を抱きながら、ホログラムが映し出す雨天の姿を追うべくドローンを操作する。

セイレイ達も、その雨天の後を目で追った。


『ほら、見てよお母さんっ』

幼い雨天は楽しそうに飛び跳ねながら、母親と思われる女性に語り掛ける。

無造作に伸びた茶髪に、ジャージに身を包んだ女性。その女性はスマホから目を逸らすことなく『はいはい』と言葉を返すのみだった。

『水萌は一人で楽しんできて』

『やだ!お母さんも来るのっ、ほら、ほら!』

雨天は必死に母親のジャージを引っ張って、呼びかける。

だが母親と思われる女性はまるで携帯から目を離すことなく、『チッ』と小さく舌打ちを打つ。


「……」

セイレイは、その母親を苛立ったように睨んでいた。

そんなセイレイの表情に気づいたホズミは、静かに彼の隣に並んで諭す。

「セイレイ君。これはホログラムの世界だよ、あまり感情的にならないでね」

「分かってる……。スケッチブックをくれるか」

「うんっ」

セイレイはホログラムから目を逸らすことなく、ホズミからスケッチブックを受け取った。

そのまま、かつての雨天の姿を映し出すホログラムをスケッチブックに描き留めていく。


『ねえ!お母さんも一緒に楽しもうよ!』

何度も、雨天は己の感動を母親にも共有しようと、ジャージの裾を引っ張る。

だが、母親は遂に限界が来たようで目を吊り上げて雨天を怒鳴りつけた。

『うるさいっ!!!!黙れよ、黙れよ!!アンタ一人で行けばいいでしょ!?』

『ひっ、ごめんなさい』

突然怒鳴られた雨天は、瞳に目を潤ませて後ろずさる。

だが、母親の激昂にまくしたてる言葉は止まることはない。

『アンタが居たせいで!!アイツは私の元から居なくなった!!アンタのせいで!アンタのせいで!!!!』

『ごめんなさい、ごめんなさい……』

『……はぁ。もう、一人で行ってよ。アンタの顔を見ると、アイツを思い出すんだよ』

突き放すような母親の言葉に、雨天は涙に潤んだ瞳のまま、通路を走り抜けていく。

『お母さんは、私のことが好きじゃないんだ……っ』

それは、幼い雨天が知るにはあまりにも残酷すぎる言葉だった。


[子供に浴びせる言葉かよ]

[見てるこっちが胸糞悪いわ]

[生んだのはお前だろ]


コメント欄には義憤に満ちた言葉が羅列される。

その言葉の数々には、noiseも同意だった。

『……間違いなく、これは雨天が歪むきっかけとなった出来事だな。親の愛情を受けられなかったんだ……』

クウリは、noiseが操作するドローンに近づいて語り掛けた。

「……ねえ」

『どうした?』

クウリは意を決したように、それでもどこか躊躇うように逡巡の姿を見せてから呟く。

「水萌ちゃんが守りたかったのは、本当に水族館そのものだったと思う?」

『……ん?どういうことだ?』

noiseは彼の問いかけを理解できず、クウリの抱く答えを促した。

泣きじゃくって水族館の廊下の奥へと消えていく雨天の姿を見送りながら、クウリは言葉を続ける。

「きっと、彼女にとっては唯一縋ることの出来る場所だったんだろうね。お母さんの愛情を受けられなくて、家に居場所が無くて……」

『居場所……そうだな』

noiseがその単語を反芻すると共に、ホズミもその会話に交じる。

「私がいつかに始めた、雑談配信の内容に似通ったものがあるよね」

そう呟いたホズミの言葉に、思わずnoiseは苦笑を漏らした。

『私も、ちょうどそれを思い出していたよ』

「自分の居場所が欲しいから。他人を蹴落として、奪おうとするんだろうね。だから、このダンジョンは生まれたの、かな……」

「僕もそう思う。きっと、水萌ちゃんにとって水族館は唯一の居場所だった。こんなに歪んでしまった景色だとしても」

それからクウリは、セイレイの元へと歩み寄る。

「セーちゃん。どう?水萌ちゃんを理解できそう?」

「雨天の母親……何なんだよアイツは……生んだのはテメェだろうが」

「堪えて、堪えて」

クウリは怒り心頭と言ったセイレイを、困ったような笑みを浮かべながら宥める。

それからちらりとセイレイが持つスケッチブックをのぞき込む。

「わ、筆圧強いね。怒りがにじみ出てるのが伝わるよ」

「正直、雨天には同情する。大人の事情で振り回されたという点ではな」

「そっか、セーちゃんも……」

「やめろあんまり掘り返すな。まだ完全に割り切れてねーんだから」

セイレイは手をひらひらとさせて苦笑を漏らした。それから、スケッチブックを閉じてホズミに手渡す。

ホズミが”ふくろ”にスケッチブックを片付けるのを確認したセイレイは、それからnoiseが操作するドローンに視線を向ける。

「おおよその雨天の過去は分かったな……追憶のホログラムを融合させるぞ」

『そうだな。追憶のホログラムを融合させる』

そう言って、ふわりと空を泳ぐドローンと追憶のホログラムのシルエットが重なっていく。

より一層と強く、光輝く追憶のホログラム。それは吸収された光と共にその姿を世界からかき消した。


[information

”雨天 水萌の部屋”が解放されました。そこで彼女は待っています]

そのシステムメッセージが表示されると同時だった。

「……っ、何!?」

大きく震え始めたダンジョンに、クウリは思わず困惑の声を上げた。

その振動と共に、セイレイ達を取り巻くホログラムの景色に再び大きくラグが走り始める。

「また書き換えるのか……っ!?」

セイレイは警戒しながら辺りを見渡す。雨天を取り巻く世界全てが大きく書き換えられ、今まで見ていた景色がプログラミング言語と共に掻き消えていく。

「——待って。何か聞こえる」

ホズミは静かに耳を澄ませ、目を閉じる。

彼女の行動に合わせるように、セイレイとクウリも静かに耳を澄ませた。


『——何で、食べちゃうんですか——』

『許せない。私の居場所、私の世界を奪うなんて——』

『これが、私の望んだ世界——』

悲しみに満ちた、雨天の声が幾度となく、木霊する。


いつの間にか、セイレイ達を取り巻く景色は全く別の物へと変わっていた。

例えるならば、それは水槽の中だった。

壁一面を覆う、透明なガラスが勇者一行の姿を反射して映し出す。

足元を見れば砂利が一面に敷き詰められており、遠くには藻や苔で覆われた岩があちこちに転がっている。


そんな書き換わる世界の中、セイレイは雨天の強い想いを聞いた。


『誰か——私を、見てよ。私を、認めてよ——』

「……雨天……」

紛れもない、彼女の心の叫びだった。

誰からも愛されることなく、ただ己の世界に逃げ込むしかなかった雨天の、本心からの叫びを聞いたセイレイは強く頷く。

「待ってろよ、雨天……ぶつけ合おうぜ、お互いの持つ世界への想いを」


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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