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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
118/322

【第五十七話(2)】沈む世界の中で(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

その少女は、水族館の一つ一つの景色に目を輝かせて嬉しそうに飛び跳ねる。

無邪気に、純粋に、健気に。

セイレイはただひたすらに、幼い雨天の姿を逃すまいとしっかりと観察を重ねていた。

「雨天ちゃんは、本当に水族館が好きだったんだね。僕も、自然の景色を見ていると心が洗われるような気分になるから、共感はできるかな」

山奥の集落で生活をしているクウリは彼女に共感できる部分が大きいようで、柔らかな笑みを浮かべる。

しかし、途端にその笑みは陰りの帯びた表情へと移り変わった。

「……でも。ここまで執着しなければいけなかった場所だったのかな……他に、頼ることの出来る場所はなかったのかな」

『まだ、この情報だけでは判断できないな。少しずつ探るとしよう』

「そう、だね。ごめん、早とちりだね」

noiseの言葉に、クウリは首を横に振ってそれからホログラムが映し出す光景に集中することにした。

幼い雨天はぱたぱたと小走りで走っていき、やがて壁一面を覆うような巨大な水槽が存在する部屋まで戻る。


『わあー……!!いろんなお魚さんがいるー!へえ、こんないっぱい魚がいるんだね!』

きらきらと目を輝かせた彼女の視線は、奇しくも勇者一行に向けられた。

それが、意図して向けられたものか分からず、セイレイとクウリは戸惑いの表情を向ける。

反応に窮した男性陣をよそ目に、ホズミは腰をかがめてそのホログラムが映し出す雨天に微笑みかけた。

「うん。そうだよー。色んな生き物がいるでしょ?」

『すごいなぁー……私、いっぱい知りたい』

ホズミの言葉が届いているのか届いていないのか分からないが、雨天は再び水槽が映し出す映像に目を奪われ始めた。

noiseはその映像を眺めながら、コメント欄にも目を通していく。


[まあ。子供ってこんな感じだよな]

[特段変なところは無いように見えるけど]

[いや。待って、雨天のお母さんは?]

[あれ?言われてみれば、雨天しかいないよな]

[一人で来たってことはないはずだけど……]


『……確かに。母親の姿が映されていない上、雨天が母親に語り掛ける様子も見られないな』

視聴者の指摘したコメントに、ハッとしたnoise。

それからドローンのカメラを忙しなく操作し、周辺を確認する。

しかし、結局は雨天の両親の姿を発見することはできなかった。


一通り雨天の行動の観察を終えたセイレイは、ぱたりとスケッチブックを閉じた。

「すまん、待たせた」

セイレイは両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げる。だが、クウリはくすりと笑ってセイレイに語り掛けた。

「ううん、大丈夫。どう?水萌ちゃんを理解できそう?」

「……とりあえず、水族館に純粋に心を奪われていたのは分かった。だが、それ以上のことはまだ分からないな……」

率直に自身の感想を告げて、それから申し訳なさそうに首を横に振った。

「ただ、さっきコメント欄を見たが。雨天の両親らしき姿は確かに見当たらない。そして、両親に語り掛けるような姿も無かったな」

そのセイレイの言葉に、ホズミは顎に手を当てて思考する。

「……雨天ちゃん一人で、水族館に来た……なんてことは絶対にないよね?」

『もしこんな小さな子供が一人で来たら、速攻で親御さんの元に返されるだろう』

ホズミの意見をnoiseはばっさりと切り捨てた。

「まあ、これ以上の情報は得られなさそうだ。次の通路へと進むためにも、追憶のホログラムを融合させよう」

「うん。そうだね。雨天ちゃんもしっかりと自分の世界を見てほしい、って言っていたし」

セイレイの意見に合意した彼らは、再び骨格標本の並ぶ通路へと戻る。

それから、七色に輝く追憶のホログラムへと近づき、noiseが操作するドローンへと視線を投げかけた。

「姉ちゃん」

『ああ。追憶のホログラムを融合させる。これで、撮影禁止区間が解除されるはずだな』

ふわりと空を泳ぐドローンは、そのまま追憶のホログラムへと距離を縮めていく。

その距離が零距離に近づくにつれて、追憶のホログラムの輝きがより一層強まる。そして、ドローンと追憶のホログラムのシルエットが重なるにつれて、眩い光はやがて収束した。

沈黙を取り戻したドローン。

やがて、コメント欄にシステムメッセージが更新された。

[information

”撮影禁止区間”が解除されました。以降、自由に撮影が可能となります。]


「じゃあ、分岐路まで戻るぞ」

勇者一行は来た道を戻り、”撮影禁止区間”の標識が立てかけられていた分岐路まで戻ることにした。


★★★☆


やがて分岐路に戻った勇者一行。標識の消えた、その先に映る光景にセイレイは思わず言葉を失った。

「……なんだ、これ……」

壁一面に張り巡らされた、近隣の小学校などから送られた感謝の手紙が並ぶ通路。

様々な水生生物の骨格標本などが並び、丁寧に解説文が飾られた展示品。

イソギンチャクやクラゲと言った、異なる海域に住まう水生生物達を展示する小さな水槽。

それらはずっと、ずっと廊下の奥まで続いている。

たった、それだけならセイレイ達は何も気には留めなかった。


だが、そのいずれの映し出す光景も、ノイズが走ったように、大きくブレが生じていた。

まるで、不安定な胸中を映し出すように、時々水族館を映し出すホログラムが大きく崩れては元の姿に戻るのを繰り返す。

「……雨天ちゃん……」

ホズミはその歪むホログラムの光景に、思わず目を伏せる。

胸の奥をきゅっと締め付けるような感覚を覚えながら、それでもホズミは前を向いた。

「四天王と言っても、魔災に巻き込まれた時は今の私達とそう年の変わらない女の子だった、はずなんだ」

「……いきなり、大きな力を得てしまったから、か」

セイレイはそうぽつりと呟きながら、それからドローンを介してnoiseに視線を送る。

彼の胸中を察したnoiseは、ドローンのスピーカーを介して言葉を返した。

『ああ。大きな力に振り回されて、雨天の感情が不安定になってしまっているんだろう……私達のダンジョン配信は、雨天を救うことにも繋がるはずだよ』

「……そうだといいな」

雨天の守りたいと誓っていた世界。沢山の人々を傷つけてまで作り上げたと言っていた彼女の世界。

それが辿る末路は、大きく歪んでしまったホログラムが物語っていた。

クウリは、その大きく乱れた世界を見回しながらぽつりと呟く。

「きっと、こんな形でも。彼女にとってはかけがえのない、大切な世界だったんだろうね……でも……」

再び己の脳裏を過ぎる葛藤に気づき、彼は大きく首を横に振った。

「……ううん。本心は、会ってから確かめよう」

クウリはきゅっと口を結んだ。


勇者一行は進む。

ずっと延々と続く歪んだホログラムの世界を。


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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