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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
117/322

【第五十七話(1)】沈む世界の中で(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

『セイレイ、奥にあるものが見えるか』

noiseの言葉に、セイレイは深く身構えながら言葉を返す。

「ああ。追憶のホログラムだな」

水生生物の骨格標本が並ぶ廊下。どこか陰鬱(いんうつ)とした色合いの蛍光灯が照らすビニール材で覆われた廊下の先には、七色に光る結晶体——追憶のホログラムが静かにたたずんでいた。

かつての魔災以前の姿を映し出す追憶のホログラム。

しかし、既に雨天が築いたホログラムが映し出されている為に何が映し出されるのか皆目見当がつかない。

それ以前に、セイレイがそのホログラムを前に身構えるのには異なる理由がある。


——その答えは、直ぐに現象として現れた。

「……っ、また水が……!」

ホズミは自身の足元に染み出してきた水面に思わず身を引く。だが、徐々に水に沈む床から逃れることはできず、勇者一行の足元は瞬く間に水浸しになった。

「セーちゃん。今度は一人で戦わせないよ?」

クウリは大鎌を構え、前傾姿勢を取る。その視線の先にあるのは、追憶のホログラムを守るように生じ始めた空間の歪みだ。

景色を大きく狂わせるその歪みの中から、再びトライデントを構えた魚人が現れる。

セイレイはファルシオンを正面に突き出し、魚人にそのシルエットを重ねた。

「ああ、頼りにしてるよ。これ以上、あいつらの好きなようにさせない」

『セイレイ。もう一度言っておくが、雷纏は使うなよ』

「勿論だ。皆を感電させるわけにはいかないからな」

noiseの忠告にしっかりと頷き、セイレイはそれから剣を低く構える。

「——行くぞ」

「うんっ」

「任せて」

勇者一行は、再び魚人と対峙する。


----


「たああああっ!!」

クウリが振り下ろす大鎌が、その勢いのままに水飛沫(みずしぶき)を舞い上げる。

紙一重で魚人はそのクウリの放つ重い一撃を回避。

しかし、同時に穿ったビニール材の下からめくれ上がるアスファルトが、魚人の視界を奪う。

「ガゥァッ!?」

視界を奪われた魚人は、闇雲にトライデントを突き出すが既にクウリは大鎌をかき消し、その場から離れていた。

光の粒子のみが、トライデントに突き刺さる。

代わりに魚人の背後に回り込んだセイレイがすかさず剣を振り抜く。

「隙だらけ、だぁぁっ!!」

「ギッ!!」

死角からの一撃に対応できず、魚人は苦悶の悲鳴と共に大きく身体を捩らせる。

大きく体勢の怯んだ魚人に向けてホズミも駆け出し、一気に距離を縮めていく。

「やあっ!!」

両手に構えた杖の石突を姿勢の崩れた魚人に向けて突き出す。

抉った傷口に向けて、それからすかさず杖を持ち換える。そして宝玉の付いた側を魚人へと向けて、宣告(コール)した。

「——行けっ!!」

[ホズミ:炎弾]

システムメッセージが表示されると同時に、ホズミの持つ杖先から灼熱の如き炎弾が零距離で放たれる。

橙色の爆炎が大きく彼女を照らし、流れるような黒髪を大きくはためかせた。

それからホズミは小刻みなバックステップを繰り返して距離を取る。舞い上がった水飛沫が、彼女のスカートを濡らしていく。

勇者一行は身を固め、その業火を静かに見守っていた。油断することなく、黙ってその魚人を纏う炎の中に現れるシルエットを警戒し続ける。


——そして、その不穏な予感は的中した。

「ガァァッ!!」

魚人のシルエットを中心に、放射状に舞い上がった炎が掻き消える。

全身をひどく焦がしながらも、気丈にトライデントを構えた魚人が勇者一行を恨めしげに睨んだ。

そんな最中、クウリはふと疑問を漏らす。

「……どうして、あの魚人?かな……は、水を生み出したんだろう」

『クウリ、どういうことだ?』

「有紀姉。僕の憶測が間違っていたら、守ってね」

noiseの質問にクウリは答えることなく、武器も構えずに慎重に近づく。

魚人はそのクウリの真っすぐな目つきに警戒しつつも、構えたトライデントの矛先はクウリの方を向いたまま逃さない。


その向いた刃に、クウリは思わず冷や汗を垂らす。

「やっぱ、怖いなあ。セーちゃんはすごいや……」

逃げ出したい、今すぐ踵を返したい。

そう思いながらも、少し魚人がトライデントを突き出せば攻撃が届こうという距離までクウリは歩みを進めた。

彼の行動の意図を読み取れないセイレイとホズミは困惑する。

「お、おい、クウリ……?」

「クウリ君……?」

そんな二人の困惑の声を聴きながらもクウリは大きく手を掲げる。

「スパチャブースト”青”」

[クウリ:浮遊]

突如発せられたクウリの宣告(コール)に伴い、魚人の足元を浸す水が舞い上がる。

「ギッ!?ギィィィ!?」

「……やっぱり。まともに戦う必要なんてなかったよ」

縋るように、その舞い上がった水を追い求める魚人の姿を見てクウリは確信を得た。それから、にこりと微笑む。

「水があるから、君はあれだけ動けたんだね。分かるよ、自分の世界に浸っていたいよね」

まるで巨大なパズルでも組むかのように、クウリはそのまま大きく手を動かす。その手の動きに導かれるように、魚人が生み出した水が一点にまとまっていく。

勇者一行の足元を浸していた水全てが、クウリの視線の先に集う。

それらの膨大な水の球体は、やがて再び魚人を覆うように纏い始めた。

「有紀姉。教えてくれたよね、魔物は泳げないんだって。水に沈んでしまうんだって」

『あ、ああ……』

それはいつかの時に話した、noiseが魔物に関係した研究を行っていた頃の内容だ。

noiseの返事を聞いて確信したクウリは、その返答に確信を得る。

「見た目が魚の姿になっても、一緒なんだろうね……皆の話を聞いて、僕はこう思ったんだ。魔物の本質は”依存”から生まれた存在なんだって」

『依存?』

「うん。一度縋ってしまったら、深く沈んでしまって自分の力じゃ這い上がれない。縋る場所……ダンジョンを失ってしまったら、存在意義を失う。ほら、魚人も動けなくなったでしょ」

クウリが魚人へと視線を促すと、そこには水の中から出ることが出来ずに身動きの取れなくなった魚人の姿が配信画面を通じて映し出された。

そんなクウリの傍に、セイレイは近づく。

「本当に、クウリの考え方は変わっているな。俺じゃ思いつかないことばっかだ」

「セーちゃんも大概変な考え方の人ばっかりと出会ってると思うけどね」

セイレイの言葉に思わずクウリは苦笑を漏らした。

それから、魚人の方を指差してセイレイに促す。

「ほら、セーちゃんが傷つく必要なんてなかったんだよ、ね?」

「……そうだな」

セイレイはファルシオンを構え、それから宣告(コール)する。

「……スパチャブースト”青”」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

そのシステムメッセージが表示されると共に、セイレイは勢いのままに水の中に囚われた魚人に向けて飛び掛かる。

クウリはすかさずセイレイが振るう一閃が届く直前でスキルを解除。

瞬く間に地面にたたきつけられた水飛沫が舞い上がる最中にセイレイは剣を振るう——。


----


大きくめくれ上がった地面が、ホログラムの修復機能に伴って徐々に元の姿へと書き換えられていく。

その光景を見送った後、セイレイは静かに追憶のホログラムに向けて歩みを進めた。

「さて、追憶のホログラムを起動させるぞ」

セイレイはそうドローンに向けて宣言する。続けて、静かに追憶のホログラムに手を伸ばした。

瞬く間に追憶のホログラムが光を発すると同時に、プログラミング言語が地面を迸る。

世界は再び書き換えを始め、雨天の世界に新たな色を生み出した。


『わあ、すごいっ』

光が収束すると共に、そのホログラムが新たに描いたのは一人の少女。


一つ一つの展示品に目を輝かせ、まじまじとその解説文に目を通す。まだ4~5歳にも満たないであろうその幼い少女は、一人で廊下をぱたぱたと走り回っていた。

水色のワンピースをひらひらと揺らしながら、はしゃぎ回るその少女に、浮かぶ面影。

「これは、雨天の子供時代、か」

『そう、みたいだね』

noiseの返事に確信を得たセイレイは、それから”ふくろ”を持っているホズミに視線を向けた。

「ホズミ、スケッチブックを」

「……?うん」

なぜ唐突にスケッチブックを希望するのか。

ホズミは疑問に首を傾げながらもセイレイにスケッチブックと鉛筆を手渡した。

その疑問を直感で読み取ったのだろう。

セイレイは理由を説明するかのように。その少女の後姿を追いながら鉛筆をその少女のシルエットに重ね、アタリを取り始めた。

「雨天のダンジョンに来た以上は。俺はこいつを理解しないといけないからな」

そう言って、静かにスケッチブックにペンを走らせ始めた。


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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