表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
116/322

【第五十六話】何かをするという事は、何かを間違えるという事

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

「……あのね、セイレイ君」

ホズミは静かに怒りを滲ませた表情で、魔素吸入薬を咥えたセイレイを睨む。

「……」

左肩に出血痕を残したセイレイはバツが悪そうに、ホズミから視線を逸らした。

だが、ホズミはその彼の様子に激昂し、勢いよく胸倉を掴む。

「セイレイ君。私君によく言ってると思うんだけど。無理をしないでって」

「必要なことだったんだよ」

セイレイはホズミから目を背け、言い訳がましく言葉を返す。

「は?」

だが、ホズミは苛立ちを隠そうともせずに怪訝な表情を浮かべ、更にセイレイの胸倉を強く掴み上げる。

「ねえ。私心配してるの。いつかセイレイ君が無茶ばっかして死ぬんじゃないかって心配してるの。敵の攻撃をあんな風に身体で受け止めるなんて、有り得ない」

「……んだよ。関係ねーだろ、俺がどんな戦い方しようと。最悪、自動回復スキルもあるんだしさ」

「そういう話じゃ……」

納得がいかず、ホズミは幾度となく食って掛かるが、まるで取り付く島のないセイレイ。

そんな傍ら、クウリはホズミの肩を叩いた。

「ホズちゃん、ちょっとどいて」

「……ん?……あ、うんっ」

ホズミはクウリの顔を見てぎょっとした顔を浮かべた。それからそそくさとクウリの為に道を作る。

「……セーちゃん」

「あ?」

クウリは、静かにセイレイを呼びかける。

不審な顔色を浮かべ、セイレイはクウリへと視線を向けた。

「……」

クウリは、静かに藍色の髪を留めているヘアピンを外す。すると無造作に乱れた髪が、彼の目元を隠した。

目つきの隠れたクウリからは、表情を読み取ることはできない。ただ、きゅっと固く結ばれた口元だけが、静かな怒りを伝えていた。

そして、そのまま。


「——がっ!?」

彼は、華奢な肉体からは想像もできないほどの勢いで、セイレイの頬を殴りつけた。

その勢いで、セイレイは大きく吹き飛び座席の前に倒れ込む。

『クウリっ!?』

「クウリ君!?何してるの!?」

noiseとホズミは、クウリの突然の乱暴狼藉に困惑を隠すことが出来ない。

[おいクウリやめろ]

[何してんの!?]

だが、困惑する女性陣と視聴者を他所に、クウリは倒れ伏したセイレイに近づく。

隠れた目元の隙間から、冷たく凍りつくような視線を覗かせる。

「……ねえ。立って、勇者セイレイ」

「てめぇ……クウリ。一体何しやがんだ」

「いいから。立って」

セイレイの言葉に聞く耳を持たず、クウリは淡々と同じ言葉を繰り返す。

もはやクウリは、己の姿が世界中に配信されているという事など眼中にはなかった。彼は冷え切った、それでいて煮え滾る怒りに身を任せてセイレイに語り掛ける。

「ねえ。自分が何してるか、何言ってるか分かる?」

「……んだよ」

「僕も、ホズちゃんも、有紀姉も、この配信を観ている皆も。勇者セイレイが世界を救おうとしてくれてる姿に賛同して、スパチャを送ってくれてるの。応援してくれてるの」

「……」

なんとか立ち上がったセイレイ。彼はかつての幼馴染の顔をまともに見ることが出来ず、思わず目を背けた。

だが、クウリはそんな彼の姿を許さない。

クウリはすかさずセイレイの胸倉を掴み上げ、勢いのままにまくしたてる。

「ねえ。悪いと思ってるのならこっちを見て。自分が間違ってるって思うのなら僕の目を見て」

「間違ってねえよ。辛いことから向き合う為にはこうするしかなかったんだ」

「他人の助けを拒んで一人で苦しんで……それが皆が望む君の姿だと思ってるの?」

「……それは」

クウリの言葉に、セイレイは反論することが出来ない。

ちらりとnoiseが操作するドローンのカメラに視線を送り、それからクウリは言葉を続けた。

「有紀姉も言ってたでしょ。”君の時間を盗ませてほしい”ってさ。一緒に辛いことも苦しいことも、共有したいんだよ。一緒に悩みたいんだよ」

「……俺がどれだけ、皆を救えなかったのか……知らねーだろ」

「じゃあ教えてよ。知らない、分からない……教えない。何なの、君は。一体何がしたいの。何で自分の殻に閉じこもるの。あのドローンっていう殻に閉じこもった人達と何が違うの」

「……分からねえよ」

「何?ハッキリ言ってよ」

クウリはじろっとセイレイを見下すように言葉を促す。その態度に、セイレイはついに怒りを抑えきれなくなりクウリに突っかかる。

「分かんねえだろっっっ!!俺がどんだけ抱え込んできたのかさあ!?俺は、皆の思う正しいを通したい!!皆の描く世界を貫き通したいんだよ!!でもいろんな言葉を聞けば聞くほど、何が正解で何が不正解なのか分からなくなるんだよっっ!!」

まるで、心からの悲鳴のような声が、静寂漂う薄暗い室内に響き渡る。

そんな傍らでホログラムが映し出す人々は、当然ながらセイレイの慟哭にも似た声など気にすることもなく水槽の光景に心奪われていた。

セイレイはホログラムが映し出す人々を見やった後、力なく項垂れる。肩を震わせて、掠れた声で言葉を続ける。

「……皆が幸せになる世界を見つけることが、勇者の宿命だよ。でも、何を選んでも、誰かが傷つく方法しか見つけられないんだよ……。だから、俺も傷つくしかないんだよ……」

「セーちゃん……」


『何を選んでも、後悔はするし、後悔はしない。セイレイ。君自身が言った言葉だよ』

二人の話に割って入るように、noiseは語り掛ける。

セイレイは涙に潤んだ瞳で、そのドローンへと視線を投げかけた。

「……姉ちゃん」

『どれだけ間違えて来たんだろうね、私達?勇者一行って言っても、所詮守れるものなんかたかだか知れてるのに』

「ああ、沢山間違えた。沢山救えなかった……」

『うん。守れた人よりも、守れなかった人の方が多いよね。でもねセイレイ、私は仕方ないと思うんだ』

「……仕方が、ない?」

そのnoiseの言葉に、露骨にセイレイは嫌悪感を抱き眉を(ひそ)める。だが、noiseは毅然とした口調のまま言葉を続ける。

『私はね?間違えて当然。正しくなくて当然だと思ってる』

「でも、その当然で人が死ぬんだぞ」

『……そう、だね。私だって、クウリ君だって、ホズミちゃんだって。そもそも、魔災で生きてきた人々みんな。きっとどこかで間違えてきた』

「……だから、もう間違えないように……」

『何かをするという事は、何かを間違えることだと思うよ?そこは割り切って、進むしかないよ』

noiseが突きつけた言葉に、セイレイはぽつりと言葉を呟く。

「間違えることが、正しいことだって、姉ちゃんは言いたいの……?」

『失敗は成功の基、でしょ?』

「答えなのかな、それ」

セイレイは思わず苦笑を零し、それからもう一度頬を拭った。

「……悪い。弱気になってた。クウリ、ありがとな……また、俺が一人で抱え込もうとしてたら遠慮なくぶん殴ってくれ」

「多分ヘアピン付けたままだと、セーちゃん死んでたよ」

「え?」

何気なく発したクウリの言葉に、セイレイは思わず目を丸くした。

だが、そんなセイレイの反応に気にも留めずクウリは再びヘアピンで髪を留める。

藍色の髪の隙間から、先ほどまでの冷酷な雰囲気など一切感じさせない穏やかなクウリの表情が姿を現す。

くすりといたずらっぽく微笑みながら、クウリはヘアピンの方を指差した。

「実はね、このヘアピン。ダンジョン内で拾ったものでさ、どうやら身体強化の恩恵を受けてるみたいなんだ―」

「……だから、あの重そうな鎌をブンブン振り回せるんだね」

ホズミは納得がいったように、そのクウリの髪留めに視線を送る。

「そゆことっ」

「そうでなくても、結構痛かったぞ?お前のグーパン」

「あは、それはごめんっ」

まるで悪びれもせず、クウリはけらけらと笑う。

セイレイは呆れたようにため息を吐き、それから再び周囲を見渡す。

激しく損傷したはずの地面。魚人が生み出したはずの水面。そのいずれも、地面を迸るホログラムが修復し、元の姿へと戻していく。

『……ご丁寧に、傷ついたダンジョンはホログラムが直してくれるみたいだな』

「ま、遠慮なく戦えるってことか」

セイレイはnoiseの言葉に頷き、それから通路の先を見据えた。

「さて、それじゃあダンジョン探索の続きだな。行くぞ」


勇者一行は、再びダンジョン配信を再開する。


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ