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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
115/322

【第五十五話(2)】生み出されたホログラムの中で(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

「ぜああああああっ!!!!」

セイレイの稲妻と化した一閃が、瞬く間にマーマンの群れを貫く。

続き、素早くバックステップしマーマンが繰り出した槍の一突きを紙一重で躱す。

セイレイに入れ替わるようにして、クウリはその突きを大鎌で受け止めた。

「次は僕の番だっ!」

脱力した声音で振り払う鎌の勢いに、マーマンの姿勢が大きく崩れる。クウリはその奥にマーマンの群れを目視で確認。それから、間髪入れずに宣告(コール)した。

「スパチャブースト”緑”っ」

[クウリ:衝風]

その宣告(コール)と共に、クウリを中心に風が吹き荒れる。瞬く間にその風に巻き込まれたマーマンは大きく、群れの中に弾丸のように吹き飛ばされた。

一同に体勢を崩したマーマンの群れを確認したクウリは、続いてホズミの方に視線を向ける。

「頼むよ」

「うん!——放てっ!!」

[ホズミ:炎弾]

強く頷いたホズミは、そのまま流れるように両手杖から鋭い矢の如き炎をマーマンの群れ目掛けて放つ。それは瞬く間に、真っ暗闇の室内を橙色に照らしながら、シルエットを隠すように激しい爆風を舞い上げる。

大地を穿ち、アスファルトを破壊し、灰色の砂埃を舞い上げた。

その砂埃の中、どれだけのマーマンが倒れるのか確認することもなく、セイレイはその中に飛び込んでいく。

「俺らはっ!もう見失わねえっ!!」

舞い上がる砂埃の中に、青白い稲妻が舞い上がった。

――流れるような、連携のとれた戦い。


[撃破数:10]

[多分、残りは5体くらいか]

[リーチが相手の方が有利だ、気を付けて!]

[総支援額残り42500円、セイレイのスキルは2回までなら使える!]

[一体、ホズミの方を見てる。槍投げ攻撃とかやってくるかも!]

[そういえば強化個体が見つからないな。+1体と捉えておいた方が安全かもしれない]

『ホズミ!座席の後ろに身を隠せ!マーマンから射線を切るんだ』

流れるコメント欄の報告から、適切に指示を繰りだすnoise。

全ての人々が協力し合い、皆の力を借りて、徐々に困難を打開していく。


やがて、目視できるマーマンを全て撃退したセイレイ達は、それでも警戒することを止めなかった。

「まだだ、まだ上位個体が居るはずだ……」

雷纏の効果時間が終了し、その全身から稲妻を大気中へとまき散らしながらセイレイは呟く。

すると、突如として水槽の手前から、何もなかったはずの空間に歪みが生じ始めた。

「セーちゃん!あれっ!」

それを瞬時に察知したクウリは、すかさず巨大なディスプレイのような水槽の方向を指差した。

クウリの指摘を待っていたかのように、突如として部屋全体が震え始める。

「うわっ!?」

「何だ!?」

その震えと共に水槽前に生み出されるのは、まるで空間に生み出されたミキサーの如き巨大な渦だ。

「二人とも!こっちへ!!」

身の危険を察知したホズミは二人を退避させるべく、座席の上段の方へと誘導する。

それにセイレイとクウリは頷き合い、素早くホズミの方向へと駆け寄った。

その時。

二人が退避すると同時に、その歪みの中からがっしりとした体躯をしたマーマンが悠然と歩み降りる。

他のマーマンと大きく異なるのは、より一層人型に近い体格をしているという事だ。全身を強硬な鎧のような鱗に固め、臀部からは尾ひれがゆらりゆらりと滑らかな動きで揺れる。

その魚人とも呼ぶべき者が右手に携えているのは、三つ又に分かれたトライデント。

「ガゥ……」

魚人は不躾な視線を、勇者一行に向ける。まるで品定めでもするように、じっくりとその双眸で一人、また一人と観察していく。

なにか不穏な気配を感じ取ったセイレイは、クウリとホズミに指示を出す。

「いいか。俺が言うまで二人は動くな。嫌な予感がする」

「……うん。セイレイ君に従うよ」

「……分かった」

二人は、リーダーの指示に強く頷く。それから、再び魚人に向けてそれぞれの得物を構える。

すると、魚人はその持っていたトライデントを、突如として床に突き刺した。

「なっ——」

セイレイがその行動の意味を探ろうとしたのも(つか)の間、そのトライデントを中心に徐々に波が生まれた。

その波は、波紋は、徐々に魚人を中心に広がっていく。瞬く間にビニール材に覆われた床が浸水し、魚人の周りに波紋を生み出す。

「……ガゥ」

まるで手招きでもするように、魚人はセイレイへと視線を向ける。

セイレイはその視線の意味を悟り、ゆっくりと姿勢を正す。

「……来い、ってか。随分と武道に心得があるんだな?」

『セイレイ。雷纏は使うなよ』

「わーってるよ」

noiseの忠告に対し、セイレイは気だるげに言葉を返した。それから階段を下りて、やがて水浸しになった足元へと降り立つ。

ぱしゃり、とセイレイが水面を踏み抜くのに連なって水飛沫が舞い上がった。

じっと波紋に揺れる足元を見つめ、それからnoiseが操作するドローンへとニヤリと子供染みた笑みを向けた。

「こんな水浸しにされちゃ、皆感電しちまうかもれないから、だろ?」

『……律儀な解説、どうも』

苦笑するnoiseの声がドローンのスピーカーから響く。

セイレイはその返答を聞き、再び魚人へと向き直る。

ファルシオンを軽く振り回したかと思えば、続いて魚人へとその剣先を向けた。

「俺さ、そういうの詳しくないけどさ。名乗りゃいいんだろ?俺はセイレイ。勇者セイレイだよ」

その言葉に、魚人はゆっくりと顔を上げる。それから、その鱗に覆われた口を開いた。

「……セイ、レイ……」

「……なんだ。喋れるのか……くそっ」

セイレイは人の言葉を発した魚人に、躊躇うように悪態をつきつつも視線を落とす。

ファルシオンを構える右手は震え、どことなく呼吸も乱れている様子がうかがえる。その彼の様子に、ホズミは思わず声を発した。

「——セイレイ君っ!こんなところで立ち止まれないんでしょ。君が無理なら私が行くっ」

そう言って今にも段差を駆け下りそうなホズミに対し、セイレイはすかさず左手で制止のジェスチャーを送る。

「いや。悪い、大丈夫だ。クウリも、宣告(コール)しなくていい」

「……バレてたかぁ」

クウリはスチールボールを入れたポケットから手を出し、苦笑を零す。

それから、大きく深呼吸し、改めて魚人に向き合う。

「……お前も、魔物になる前は人間だったのかもしれないな。たった一つ、環境が違っただけ。過ごしてきた場所が違っただけ。それだけで、俺とお前は、戦わなきゃいけないんだ」

「……ガゥ……」

「ま、だからっていってお前に殺されてやる義理はねえよ。ほら、一騎打ちがお望みなんだよな?」

セイレイの言葉を皮切りに、お互いに低く得物を構え直す。


そして、膠着が弾けるのはほんの刹那の瞬間だった。


「っ!!」

「ガァァッ!!」

セイレイのファルシオンと、魚人のトライデントが火花を散らす。

光を残して描く剣の軌跡が、動きに伴って舞い上がる水しぶきを切り裂く。

「ガッ!!」

魚人が放つ連続する突きを、セイレイは紙一重で躱す。noiseのように先読みを駆使したものではなく、純粋に反射速度に身を任せた回避だ。

「せあっ!!」

攻撃の隙を狙い、セイレイは捻った体で素早く反撃として魚人に切り払いを仕掛ける。しかし魚人はそのトライデントの柄で容易く斬撃を受け止めた。

剣の軌跡が描く光の螺旋と、舞い散る火花のみがその配信画面に映し出される。

一切スパチャブーストを用いることもなく、純粋な戦闘技術のみでお互いに刃で言葉を交わす。


ホズミは、どこかもどかしそうに両手杖を何度も魚人に向けては、それを降ろす。その葛藤の動作を繰り返していた。

「……私、は……」

そんなホズミの肩を叩き、クウリは首を横に振る。

「ダメだよ、ホズちゃん。それはセーちゃんに対する冒涜にもなっちゃうよ」

「……でも」

「僕達に出来るのは、勇者セイレイを信じること。それだけっ。厳しそうなら助けに向かえばいいよ」

そう柔らかに微笑むクウリだったが、ホズミは見逃さなかった。

クウリの大鎌を持つ手が、手汗に滲んでいることを。

「……クウリ君……」

ホズミはそのことを指摘するべきか迷ったが、結局何も言わずにセイレイと魚人の戦いを見守ることにした。


「——っ!」

セイレイはついに魚人の攻撃を躱しきれず、左肩にトライデントの一閃を受ける。

『セイレイっ!引けっ!』

noiseは思わずセイレイに声を掛けた。配信画面上では、セイレイの体力を示すゲージが大幅に減少している。

だが、セイレイは引かずにニヤリと不敵に笑った。

「……いや、引けっかよ。な?向き合ったぞ」

左肩に深々と突き刺さるトライデントから、徐々に血がにじみ出していく。それはセイレイの羽織ったパーカーに染み渡り、赤黒くそれを汚していく。

だが、それでもセイレイは構わずにトライデントが突き刺さったまま魚人へと距離を縮める。

「ガッ!?ガゥッ!?」

魚人は困惑した表情を浮かべ、何度もトライデントをセイレイの肩から引き抜こうとした。

だが、セイレイはそのトライデントの柄を左手でしっかりと握り、それを阻止する。

「なあ。痛いよ、辛いよ、苦しいよ。向き合うってのはさ?でも、進まなきゃいけないんだよな。分かるだろ?」

セイレイは額に冷や汗を垂らし、苦悶の表情を浮かべる。しかし、その視線は変わらず、真っすぐ魚人の方を向いていた。

対して、セイレイの行動に明らかに魚人は逃げるように怯えた表情を浮かべている。

「ガゥ……ガゥ……」

「俺ってさ、まだまだ弱いから、こんな手段しか選べないんだよ。本当は、魔物だって殺さずに済むのならそれでいいんだろうな。元々人間の意思で生み出されたホログラムだって気づかなかったら良かったんだろうな」

そこで言葉を切り、セイレイは強く首を横に振った。

「でもさ……やっぱり何が正しくて、何が正しくないのか分からねえ。敵を殺すことを正しいと思う俺と、正しくないと思う俺と。一貫性を持つって難しいんだな」

セイレイは自虐的に笑う。そして、そのままゆっくりとファルシオンを振り上げる。

刃の向く先は、魚人の頭部だ。

「俺の心の中でさえ、相反した意見が戦ってんだ……悪いな、弱い俺でさ」

そう言って、セイレイは魚人に向けてファルシオンを振り下ろした。


[残り:0]


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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