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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
114/322

【第五十五話(1)】生み出されたホログラムの中で(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

ひとたび配信を開始すれば、瀬川は勇者セイレイへと姿を変える。

セイレイは右手に意識を集中させ、力をグッと込めた。

すると、徐々にその右手の中に光の粒子が纏い始め、それはやがてファルシオンの姿を生み出す。

光の粒子を振り払うように、セイレイは剣をだらりと垂らしてガラスドアの先へと進む。


「……行くぞ。勇者配信の時間だ」

セイレイは、しっかりと正面を見据えて歩みを進める。

「……うん」

クウリは、強張った表情を隠すことも出来ずにセイレイの後ろに続く。

「……」

ホズミはくるりとパソコンを操作するnoiseの方へと振り返り、それから何も言わずに彼らの後に続いた。

そして、彼らを追うようにnoiseが操作するドローンが空を泳ぐ。


----


簡素なカウンターを進み、[順路]と表記された道のりを進む勇者一行。

ビニール材で保護された、真っ白な通路を進んでいく。ふと横を見れば、教育学習の一環として近隣の学校の感謝の手紙が展示されていた。

[いろいろなおさかながいてすごかったです]

[おじかんいただいてありがとうございました]

[またいきたいです]

……などと、拙い文字で残された手紙の一つ一つが、コルクボードの上に押しピンで固定されている。

セイレイはその一つ一つに目を通し、それからぽつりと呟いた。

「……記憶にないけどさ、こういう世界もあったんだよな。魔災の前には、さ」

その呟きに、クウリとホズミはセイレイの視線の先にある文章に同様に目を通す。

「うん。何となくだけど、覚えているよ。心躍ったんだ、自分の知らない世界を知ることに」

クウリはセイレイの呟きに賛同するように頷いた。

しかし、ホズミの表情は暗いままだ。

「……やっぱり、雨天ちゃんは間違ってる……皆の、皆の世界だったんだよ」

その彼女の胸中を理解したnoise。彼女が操作するドローンがふわりと彼女の隣に降り立つ。

『ホズミ……。雨天ちゃんにも雨天ちゃんなりの世界があったんだろう。他人を押しのけてでも、守りたい世界が』

「でも。他人を傷つけることが正解な訳がない。同じ、人間だったんだよ、私達は……」

セイレイは、そんな葛藤に苦しむホズミの肩を叩く。

「それは、面と向かって言ってやれ。今俺らがここで話してもどうしようもないことだ」

「……そうだね。ごめん」

釈然としない様子ながら、ホズミは改めてその展示された感謝の手紙に視線を送る。

狭い廊下を挟むようにずっと続く廊下を通り抜けていく。人々の想いが残された手紙が、勇者一行を迎え入れるように並んでいる。

クウリは、そんな中ドローンに映し出されたコメントのホログラムを見ながら、ふと呟く。

「本当に、世界中には色んな人が居るんだよね。皆が皆、同じわけじゃない」

「……そうだな。俺らは同じなようで、本質は全然違うんだ」

次に、クウリは廊下に展示された[近辺で発見された生き物]というタイトルで飾られた自由研究の画用紙に視線を送る。

「ただのその辺りにある草木の一つにも名前が付けられているように。僕達も、それぞれ全く違う名前が付けられてる。同じようで、全く違う人間なんだ」

「だからこそ、俺らは知らなくちゃいけない。そうだろ?」

セイレイの問いかけに、クウリは強く頷いた。

「うん。いつかは、皆の話も聞きたいな。僕達の配信を観ている人達はどう生きて来たのか」

ちらりと、空を泳ぐドローンのカメラに視線を送る。それから、再び前へと向き直って歩みを進めた。


[その辺りの草木一つ一つにも名前が付けられてる、ね。考えたこともなかった]

[何となくやってることとかって、言われないと気づけない]

[船出の言ってた、言わなきゃ見向きもしないって言葉を思い出すな……]

[魔災でもそうだけど。手遅れになって初めて、その当たり前が当たり前じゃなかったことに気づいたよ]

[私もだ。今までそこに居て当然だと思っていた皆を失って。みーちゃんは敵になって。もう、あの頃には戻れないって思うと辛くて、苦しいよ。私だって、もうあの頃の私には戻れない]

[↑noiseさんのコメントか。そう言えば、noiseさんは魔災以降ずっと孤独だったんだよな]

[そう。私だって師匠を殺したから。いくら仕向けられたからと言っても、最後に手を掛けたことに変わりはない。セイレイには同じ道を辿って欲しくないって思ってたんだけどな]

[あんまり気にするなよ。実際にお前らの配信内での言葉に俺らも助けられてるんだ。いくらでも力は貸すからさ]

[すまない。皆の言葉を頼りにしているよ]

[お互い様だ]


「……本当に、皆それぞれの人生があるんだよね」

クウリは、ちらりとドローンが映し出すコメント欄に視線を送り、再び先へと歩みを進める。


★★★☆


「また、これか」

セイレイは分岐路の前に立てかけられた標識を見つけた。

[撮影禁止区間]

そう書かれた標識。

セイレイはあえてその看板の横を通り抜けて、先へと進もうとする。

すると、手に持っていたファルシオンが光の粒子となり虚空へと消えた。

「……やっぱりな」

己の手をじっと見つめ、それからセイレイは再び看板の前へと戻った。

そんなセイレイをよそ目に、ホズミは看板が立てられていない向かいの分岐路へと視線を送る。

「ということは、やっぱりこっちから進めってことなんだよね。きっと、この奥に追憶のホログラムがあるはず」

「……ホログラムを生み出したダンジョンの中にある、ホログラムか」

セイレイは物思いにふけるように顎に手を当てる。

それから再び、右手に力を籠めるとファルシオンがセイレイの手に戻った。

「とりあえず進まないと分からないよな。雨天の世界を確かめよう」

勇者一行は、その標識の立てかけられていない分岐路の先へと進む。


細い廊下を通り抜けた先に辿り着いたのは、全体的に薄暗い室内。

その壁一面を覆うように存在するのは、まるでディスプレイを彷彿とさせる青々としたアクリルガラスの水槽だ。

様々な水生生物が水槽内をゆったりと遊泳している。群れを築くもの、単体でゆったりと移動するもの。似たような姿をした生き物でも、その行動は多種多様だ。

天井からは、真っ白な日差しが差し込むように、その水槽を照らす。

クウリはその壁一面を覆う水槽に心奪われていた。

「わぁ……綺麗……」

「これが、本物ならな……」

セイレイはどこか釈然としない表情でそう言葉を返す。それから、公演場のように段々となった座席の方に視線を送る。

すると、徐々にその辺り一面にホログラムが生み出されていく。

「……セイレイ君」

「これが、雨天が生み出したホログラム、か」

ホズミの言葉にセイレイは静かに頷いた。

徐々に、誰も居なかったはずの座席に、人々の姿が映し出される。クウリと同じように水槽内を泳ぐ水生生物に心を奪われた人々の姿がそこにはあった。

しかし、その人々の姿には時々ラグが走り、いまこの場に存在する人ではないことは明確だ。


そして、その室内に訪れたお客様はホログラムだけではない。

『——セイレイ!魔物だ!!警戒しろ!』

noiseが突如として、ドローンのスピーカーを介して叫ぶ。その声に反射的にセイレイ達は各々の得物を構えて戦闘隊形に移行する。

勇者一行の正面に、群れを作って現れたのは長い槍を持った半魚人(マーマン)だった。

強固な鱗で覆われた魚類の姿をした体幹を支えるのは、どっしりとした四肢。重みを感じさせる足音が近付く。

「ギギ……ギ……」

威圧ともとれる歯ぎしりの音を重ねながら、マーマンは細い通路から群れを成して姿を現す。

しかし、良く見ればそのマーマンのそれぞれの顔つきは全く異なるものだった。

まるで、ホログラムに映し出された、人々の——。


「……っ!」

そこまで気づいた時、クウリの表情が驚愕の色を生み出した。その顔色は、徐々に困惑、葛藤、怒りへと色を変えていく。

セイレイはクウリが抱いた感情に気づき、素早く彼の前に手を差し出した。

「落ち着けよ。クウリ……俺だってはらわたが煮えくり返りそうなんだ。堪えろ」

「あんまりでしょ。こんなの……人々を弄ぶような……っ」

「……雨天ちゃん。君は、こんなことをして、心が痛まないの……?」

ホズミは、四天王である雨天へとどこへともなく質問を投げかけた。

だが、勿論というかその問いに帰ってくる答えはない。


セイレイは邪念を振り払うように首を大きく横に振った。

それから、ファルシオンを正面に構え、その剣先をマーマンに合わせてアタリを取る。

かつて、水族館に訪れていた人々の顔をしたマーマンへと。

「なあ雨天。お前戦いたくないって言ってたよな?俺もだよ。だけどさ、こんなもの見せられて、許せると思うか……?」

徐々に、セイレイの全身を青白い稲妻が迸る。

迸る稲妻が光源となり、薄暗い室内を青白く照らす。

『……セイレイ』

noiseはそんなセイレイに言葉を掛ける。だが、その声は彼には届かない。

分かっている。

本当は、こんな最初から全力で戦うべきではないことを。

だけど、止めることはできない。いつも誰かの為に真っすぐで、打算なんて全く考えなくて。

だからこそ、勇者セイレイなのだから。


noiseは引き留める言葉を掛けることを諦め、代わりに彼の背中を押す。

『私が支援する。サポートスキル”影縫い”』

そのnoiseの宣告(コール)に伴い、どこからともなくマーマンの足元目掛けて鋭くナイフが降り注ぐ。

「ガゥ……グッ!?」

ナイフは瞬く間に先頭に立つマーマンの影に突き刺さる。まるで足元を固定されたかのように、マーマンは懸命に前進しようと身体を大きく揺らす。

その姿にスキルが発動していることを確認したnoiseは叫ぶ。

『——行けっ!!私達のLive配信だろうっ!!』

noiseの掛け声に合わせて、セイレイは低くファルシオンを構え直し宣告(コール)する。

「スパチャブースト”黄”!!」

[セイレイ:雷纏]

そのシステムメッセージがコメント欄に流れると共に、セイレイは稲妻そのものへと姿を変えた。


To Be Continued……

【ダンジョン配信メンバー一覧】

①セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。

緑:自動回復

全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。

黄:雷纏

全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。

②クウリ

青:浮遊

特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。

緑:衝風

クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。

③ホズミ

青:煙幕

ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。

緑:障壁展開

ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。

魔法:炎弾

ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。

一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。


ドローン操作:noise

[サポートスキル一覧]

・斬撃

・影縫い

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