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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
112/322

【第五十四話(1)】四天王との邂逅を前に(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

勇者一行は、もはや見慣れてしまった桜並木が蝕む山道を降りていく。

目的地は、四天王である雨天 水萌の待つ、水族館ダンジョンだ。

しかし、勇者一行のリーダーである瀬川の表情は暗い。決して、戦いを恐れている訳はない。

「あのクソチビの描いた地図、きったねえな」

「こらっ、そんなこと言わないの」

思わず漏らした瀬川の言葉を一ノ瀬が(いさ)める。

「だってよ。線を何度も重ねて、ブレてるの誤魔化してるし。所々隙間埋めか知らねえが、似たような角度の絵ばっか描いてるし」

「やめてあげて」

陽光に透かしながら延々と地図のダメ出しをする瀬川。

そんな彼らの後ろで、青菜はメモ帳に目を通しながらブツブツと呟いていた。

「雨天ちゃんは14歳の女の子。確か、水族館が好きなんだよね。で、水族館の、家族同然に思っていた生き物を食べられたことをきっかけに、ホログラムを形成。ダンジョン化させた……」

「青菜君。緊張しすぎ」

前園は苦笑を零しながら、青菜の脇腹を突く。

思ったよりもこそばゆかったのか、青菜は「わっ」と飛び跳ねて前園から距離を取る。

それから、困り顔を作って言葉を返した。

「だってさあ……向き合うって言った手前、いい加減なこと言えないでしょ?せめてあの子がどんな人物像なのか、大まかに把握しておかないとって思って……」

「それはそうなんだけどね。青菜君なら大丈夫だよ」

「えー?」

首を傾げる青菜。前園は自分の意見に自信をもって、山の麓から見下ろす景色を眺めながら言葉を返す。

「青菜君の武器はマイペースなところだよ。のんびり屋さんで、どこか抜けてるところがあって」

「それ、褒められてる気がしないんだけど……」

青菜は不服そうにぼやく。

だが、瀬川はそんな二人の方へと振り向き、真面目な顔を作って話に入る。

「実際、俺もお前のそんなところに救われてるからな。穂澄も姉ちゃんも、どっちかというと頭でっかちだからさ」

「まあ、それならいいけどさ……」

そこで、青菜はあることに気づいた。

「あ、セーちゃん、後ろ」

「ん?」

己の失言に気づかないまま瀬川は不思議そうに後ろを振り向く。そこにいたのは、ニコニコと不気味なまでに微笑んだ一ノ瀬。

「ふふ。誰が頭でっかちだって?セイレイ?」

「あ。姉ちゃん。コンニチハ」

瀬川はようやく己の失言に気づく。引きつった笑みのまま、一ノ瀬に会釈した。

それから、一ノ瀬は瀬川の肩にポンと手を乗せる。

「こんにちはーっ。酷いじゃん、私も穂澄ちゃんも、散々君に休めって言ったのに、ねー?従わなかっただけなのにねー?」

「や、その。ごめんなさい……」

「そんな悪い子には、こうだっ」

一ノ瀬はいたずら染みた笑みと共に、瀬川の脇腹をくすぐり始めた。

瀬川は必死に身体を捩らせ逃げようとするが、一ノ瀬はその行動を先読みして逃がさない。

「くふっ、姉ちゃんっ、と、止めっ、地図、ほら持ってるからっ」

「ふふふー。盗賊である私の技術を舐めるなー?こちょこちょ」

必死に笑いを堪えながら、懸命に逃げようとする瀬川。そして、それを逃さない一ノ瀬。

最初こそ、その賑やかな光景を温かく見守っていた前園と青菜。

しかし、突如としてその表情が驚愕の色へと変化する。

「あっ、一ノ瀬さん!?ちょっとストップストップ!!」

「有紀姉、ちょっと待って!!」

「ふふふ、散々な目に遭ったから、少しくらいやり返さないと」

だが、一ノ瀬は全く聞く耳を持たず(くすぐ)ることを止めようとしない。


「違う!地図!!地図!!」

「え?」

そこで一ノ瀬はきょとんとして顔を上げた。

瀬川の手に持っていたはずの地図が、ない。


「え?」

「あっ」

瀬川もそれに気づかなかったのか、目を見開いてその地図を持っていた手を見つめた。

「……え?」

続いて、麓から見下ろす桜吹雪の中。舞い上がる花弁の中に、一枚のメモ用紙を見つける。

「……あはっ」

一ノ瀬は引きつった笑みを浮かべる。

瀬川は思考が停止し、茫然としていた。

それから、一ノ瀬と瀬川はお互いに見合わせる。


「「……あああああっ!?!?」」

一ノ瀬の行動が原因で、四天王の雨天から手渡されたメモ帳は桜吹雪と共に空に舞い上がっていった。


----


「何か、言う事はありますか」

まるで、その声は絶対零度を彷彿とさせるものだった。

一ノ瀬は、大きく年下である前園の前に正座し、力なく項垂れる。

「……本当に、申し訳ありません」

「どうするんですか。地図が無いと四天王の雨天ちゃんと戦えないんですけど」

「ほ、ほら。標識とか探せば、案内地図あるかも……。観光案内所とか探そう。パンフレット残ってるかもしれないし」

懸命にその優れた思考を働かせ、一ノ瀬は代替案を示す。

「はあー……」

だが、前園は大きくため息を吐く。それに伴って、一ノ瀬はびくりと小柄な体をより一層委縮させる。

「もしそこがダンジョン化していたらどうするんですか。二度手間でしょ?何で四天王と戦う前に違うダンジョンに入る可能性があるものを提案するんですか」

「すいません……」

正論で十一も年上の一ノ瀬を屈服させる前園の姿を眺める男性陣。

青菜は瀬川に耳打ちした。

「……セーちゃん。僕は、ホズちゃん選ぶのは止めといた方が良いと思うなあー……」

「……あー……そうかな……?」

「絶対怖いじゃん。怒らせちゃダメなタイプの女の子じゃん」


「は?ねえそこ、言いたいことがあるなら面と向かって言ったらどう?」

前園はその冷え切った視線を、男性陣にも向けた。

青菜は慌てて首を横に振る。

「いいいいいいいやいやいやなんでもない!!何でもありませんっ!!!!」

「穂澄……お前成長したなあ……」

「成長!?これがっ!?」

達観したようにうんうんと頷く瀬川に、青菜は驚愕の視線を向けた。

そんな時、勇者一行の元にふわりと一つのドローンが浮かび上がる。


『……何してるんですかぁ……』

蒼のドローンこと、雨天 水萌は呆れたような声音でそう語りかけた。

その声に、勇者一行は敵意はなく、むしろ(すが)るような視線を向ける。

特に、一ノ瀬にとっては助けに船だった。

「雨天ちゃあああん!?助けてーーーー!?」

『え、えっ、えー!?』

蒼のドローンに思いっきり抱き着く一ノ瀬。突如の訳の分からない行動に、蒼のドローンはたじたじと狼狽える。

それから、徐々にそのドローンの姿はホログラムを介して、人の姿へとなり替わった。

「あーもうっ、邪魔っ!」

やがて人の姿になり替わった雨天は、ひょいと一ノ瀬の抱き着き攻撃を躱した。

「あわっ」

思わずバランスを崩した一ノ瀬は片足で飛び跳ねた後、ガードレールに手を添えて立ち止まった。

それを呆れた顔でちらりと見やった雨天は、勇者一行へと大きなため息を吐く。

「いや、あの、ですね……何してるんですか。皆さん……何で地図無くしてるんですか」

「いやあっても正直読めなかった。字が汚い、線重ねすぎ、同じ構図描きすぎ」

「うっ」

辛辣な瀬川の言葉に、全く戦闘と関係のないところで雨天はダメージを受ける。

まるで大きな傷を負ったかのように胸元を抑え、苦悶の表情を浮かべた。

「たはは……やるね、さすが我が宿敵……勇者セイレイよ……」

「お。ちょっと台詞覚えたんだ」

「うるさいなぁ!?」

青菜は感心した声を漏らす。だが、余計な言葉を浴びせられた雨天はすぐ素に戻り突っかかった。

「第一ね!?人からもらった地図を無くすなんて論外!!敵だからって何しても良い訳じゃないよ!?」

「それは事実なのでもっと一ノ瀬さんに言ってあげてください」

前園は今だに冷え切った態度のまま言葉を返す。

「はい……本当に申し訳ありません」

年下二人に詰め寄られる大人げない一ノ瀬。彼女は力なく項垂れた。

場を取り直すように、瀬川は雨天に声を掛ける。

「悪いな雨天。このタイミングで来たってことは、案内してくれるんだろ?お前のいるダンジョンに」

「だって地図無くされたら来てくれないじゃん……あと私のことクソチビって言ってたの知ってるからね?」

「やべっ」

「はー……この勇者一行大丈夫かなあ……なんで四天王の私が心配してるんだろう……」

雨天はブツブツとぼやきながら、一人先に踵を返した。

それから、延々と愚痴をこぼしつつも山道を下っていく。

徐々に遠ざかる雨天の後ろ姿を眺めながら、瀬川達はお互いに顔を見合わせた。

「……ついて行ったらいいんだよな?」

「そう、だと思うよー?」

「……はあ。行きましょう。良かったですね、一ノ瀬さん」

「……次から気を付けます……」

だが、突如として先行していた雨天は、勇者一行に向けて振り返った。


たった十数メートル歩いただけなのに、全身汗だくになった雨天は引きつった笑みと共に懇願する。

「ぜぇ……はぁ……あの……おぶってもらって……いい、ですか……ぜぇ……普段、ドローンっで……移動してるから、体力……が……」

「……お前、さっき自分でぼやいた言葉覚えてるか?」

全く悪役らしさのない彼女に、瀬川は呆れを隠せずにいた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:金色の盾

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

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