表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
111/322

【第五十三話(2)】次なる配信に備えて(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

船出 道音(ふなで みちね)

Relive配信を名乗る、漆黒のドローン。

一度勇者セイレイの命を奪おうとした、宿敵ともいえる存在。

「……で?作戦会議でしょ。私も混ぜてよ」

船出はくるりと踊るように振り返る。その動きに連なり、漆黒のワンピースが滑らかに揺れた。

くすくすと、どこか妖艶な笑みを浮かべる彼女とは正反対に、瀬川は険しい顔を浮かべる。

「……前に俺を殺そうとしたくせに。そう易々と、はいどうぞなんか言える訳ねえだろうが」

「やだもー。私だって君に協力するのは(しゃく)だよ?メリットでも無いとやってらんなーい」

室内をうろうろと落ち着き無く船出は歩き回る。一ノ瀬はかつての後輩に疑問を投げかけた。

「メリット……?雨天ちゃんの話を聞くに、みーちゃんも四天王に割り振られたんだよね?」

「そっ」

船出はちらりと前園が操作するドローンを見上げ、それから話を続けた。

「ま、おおかた全てはプロローグのため、ってとこだと思うけどねー」

「……その言葉は、ディルも言ってたよ」

「え。まがい物君も同じ事言ってたの」

露骨に顔をしかめる船出。明らかに嫌悪感のにじみ出た態度に、一ノ瀬は更に疑問を投げかける。

「みーちゃんも、ディルも。一体何を知ってるの?”希望の種”と関係ある話なの?」

「……あー。言おうかな、どうしようかな」

船出はその言葉に、躊躇いの様子を見せた。

一ノ瀬が投げかけた言葉に、前園と瀬川はお互いに視線を交わす。

それから、前園も会話に口を挟んだ。

「どうして、雨天ちゃんに勝てるように貴方は仕向けるのですか?明らかに、セイレイ君が不利になるよう何も口出ししないのが最善に見えますが」

前園の脳裏を過るのは、総合病院ダンジョンの一件だ。

かつての勇者の仲間であった武闘家ストーを改造し、己の手駒として瀬川の命を奪おうとした。否、瀬川の”自動回復”のスキルが無ければ実際に命が奪われていただろう。

船出は前園の質問に大きくため息を付いた。

「ま、普通はそう思うよね。私の目的を達成するのにクソ勇者は邪魔だから。出来るのなら今にでもぶち殺したいよ」

「……させないよ」

前園はその船出が放った言葉に敵意を剥き出しにして、船出を鋭く睨む。

だが、船出は飄々としたまま言葉を返す。

「だよね、言うと思った。正直プロローグとか、一つの結末とか私には関係ないし。私はこの力であの日を取り戻したいだけ」

「……ねえ。みーちゃん、それは……」

船出の言いたい言葉の先を理解したのか、一ノ瀬は唇を強く噛んで彼女を見やる。

その視線に気付いた船出。彼女は首を横に振って言葉を続けた。

「でも、ゆきっちが勇者一行の盗賊であり続ける限り、それは叶わない。どうあがいても私達の敵でしか無いから」

「……」

「たった、過ごした教室が違うだけ。戦う理由なんて、それで十分」

その言葉を語る船出の表情は、どこか悲痛に満ちていた。目元は潤み、唇は小刻みに震え。

だが気丈にそれを隠すように、顔を拭い、長い黒髪を揺らすようにして整える。

気付いた時には、再び不敵に笑う船出の姿に戻っていた。

「それ以上の話は、いつか私達が戦う時にしよっ。今は四天王最弱の雨天ちゃんの作戦会議の配信でしょ」

それから、ちらりと更新され続けるコメント欄に船出は視線を送る。


[俺らの想像する四天王と随分と違う印象を受けるな]

[お前も、雨天も、敵か味方か見ていて分からなくなるよ]

[というか四天王最弱って。ずいぶんな言い方だな]


複雑な心情の混じるコメントを映し出すホログラム。それを一通り読んだ船出はげんなりとした様子で項垂れた。

「もういいでしょ私の話は……」

話を切替えるように、瀬川は四天王の話に触れる。

「というかあのチビのこと、最弱なんて言って良いのか?」

「むしろ失言まみれで、ボロ出しまくってて最弱じゃ無いのって嫌じゃない?どうせ悪役らしさ出そうとして失敗してたんでしょ」

「……あー」

「反応に困ってるのが真実だよ」

船出は素直な瀬川の反応に思わず苦笑いを零した。それから、雨天に関する情報を話し始める。

「私から言える情報は一つ。四天王って言っても、魔災以前は普通に生活していた人間だってこと。それを覚えておいてくれたらいいよー」

「それは、ヒントなの?」

さも当然のことを当然のように語る船出に、青菜は首を傾げた。

「改めて言わなきゃどうせ見向きもしないくせに。向き合うって言うならさ、そこまで考えて戦ってよ」

「……わかったよ」

どこかその言葉を否定できなかった青菜はそれ以上何も返さず、黙りこくった。

そんな彼を余所に、船出は雨天 水萌の話を始める。

「雨天ちゃんは14歳で魔災に巻き込まれたの。水族館に心奪われた、ひたむきに真っ直ぐな女の子だった。好きなものに一直線で、周りが見えなくなるくらいに、ね」

「周りが見えなくなって、知らず知らずに他人を巻き込んでるなんて堪ったもんじゃねえけどな」

「それは雨天ちゃんと会った時に話してよ。ま、勇者様ご一行が戦う相手はそんな子だよ、ってのは伝えたよ。それで進むも止めるも、君達の自由だし」

船出のその言葉と共に、全身が再びホログラムに包まれる。

気付いた時には、彼女の姿は再び漆黒のドローンに戻っていた。

『向き合う。他人を救う。それは強者のみに認められる特権って事を忘れないでね。そもそも弱かったら、手段なんて選んでられないから』

「強者のみの特権……?」

青菜はその単語を反芻(はんすう)する。すると、漆黒のドローンのスピーカーから、真剣な声音で返答が続いた。

『どうやら戦士君は殺すことに躊躇(ちゅうちょ)があるみたいだけど。弱かったらそんな選択肢も無いから、ね。ゆきっち』

「なんで私を名指しするの」

『や、ゆきっちも人を殺した経験あるんだし何となく話分かるかなーって。私だって大切な親友に手を掛けたし』

「……待って、みーちゃん、それって……!!」

さらりと零した言葉に、一ノ瀬は慌てて漆黒のドローンを追いかけようとする。だが、既に漆黒のドローンは窓の外から空へと舞い上がっていた。

『全ては一つの結末に、でしょ?前も言ったと思うけど、その真っ白なドローン。大切に使ってね』

まるで脈絡のない言葉を発しながら、船出 道音の声をした漆黒のドローンは空の彼方へと消えた。


----


「……過ごした教室が違うだけ……」

一ノ瀬は、船出が発した言葉をぽつりと呟いた。

瀬川はその呟きに同意するように、言葉を重ねる。

「たった、それだけで戦う理由にもなるってことか。本当に、俺らは何も分かって無かったんだな……」

「そう、だね。でも、なんで船出さんはこのドローンをやたらと気にかけるんだろう」

前園は空を泳ぐ真っ白なドローンをちらりと見やりながら、首を傾げた。

そんな前園に向けて、瀬川は自身の見解を話す。

「なあホズミ。四天王の雨天も、船出も、あいつらも人の姿とは別に、ドローンの姿をしているよな」

「え?うん。それが……あっ」

瀬川の言葉がヒントとなったようで、前園は目を大きく見開いた。

「まあ、順当に考えれば。このドローンも、本来は誰かの身体だったってことだろ。で、姉ちゃんは何か知ってそうだけどさ」

ふと横目に、物思いに耽っている一ノ瀬に視線を向ける。一ノ瀬はその視線に気付いたものの、申し訳なさそうに首を横に振った。

「正直、みーちゃんの口振りからして思い当たる人物はいる。でも、私はまだその答えに辿り着きたくない……」

「……そうか」

それ以上余計な詮索はせず、瀬川は口を閉ざした。

話を切替えるように、一ノ瀬は両手を叩く。

「さ、そんなことよりも次は四天王戦だよ!どうなるかは戦ってみないとは分からないし、とりあえずはみーちゃんの言うとおり向き合ってみよう」

「うん、そうだね。ドローン操作は私の方が良いよね?」

彼女の意見に賛同して、前園はドローン操作役を名乗り出た。

しかし。

「ううん。今回はホズミちゃんが配信に入った方が良いと思う」

「え?でもあれだけ水を強調してるんだから、炎弾しか使えない私じゃ不利じゃない?」

前園はその意見に困惑した様子で反対意見を重ねる。

だが、一ノ瀬の意見は変わらなかった。

「それを加味しても、後方支援がいるのといないのとでは全然違うよ。ホズミちゃんのスキルってサポート重視だし」

「まあ、確かに……noiseさんのスキルは基本的に陽動向け、だもんね」

「そういうこと。クウリが新しく配信メンバーに入ったことで前線の安定感は増したから、サポートを優先した方がいいと思う」

そこまで語ったところで、一ノ瀬は正直な感想を漏らす。

「正直言うと、皆で戦えたらなー……って思うけどね。私かホズミちゃんのどっちかはドローン操作に抜けなきゃ駄目だもん」

「配信って形を取っている以上はどうしようもない問題だよな……皆からのコメントのお陰で戦えているところもあるし」

瀬川も腕を組んで物思いに耽る。


[なんかしれっと俺ら褒められたぞ]

[こういうさりげないところで言われるとニヤけるな]

[わかる]

[でも確かに4人が揃ってダンジョン配信するのは見てみたい気もする]

[クウリの配信の時は端末放置していたらしいしなー……]


「本当に、セーちゃんは愛されてるなあ」

青菜はそのコメント欄を眺めながら、幼馴染みが大切に扱われていることに幸せそうに微笑んだ。

それからというものの、勇者一行は雨天 水萌との戦いに向けてそれぞれ対策を練っていく。


ただ四天王を倒すため、だけではない。

自身の意見を通すため。雨天という人間を理解するため。


そして、何度も言葉を重ね、相談し。

勇者一行は四天王との戦いに立ち向かう。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:金色の盾

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ