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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
109/322

【第五十二話(2)】前園の世界の中心にいる彼(後編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

私さ、魔災の中できっと壊れていたんだと思う。沢山の人の死を見てきた。

最初は、「人の死に慣れていく自分」が私の中にいることが怖かった。でも、何度も人々の死を見ていくと、だんだんと慣れていくものなんだね。死は皆に平等。私達は、死というゴールに順番に並んでいるに過ぎない。

お父さんとお母さんがあっさりと魔物に殺された時も、思ったより衝撃は少なかった。

「私達の番が回ってきただけなんだ」って思った。


だからさ魔物が私に刃を向けてきた時、あの頃の私は何もしなかった。

そう、何もしなかったの。できなかった、じゃない。

至って冷静だった。なんていうのかな?待合室で呼ばれたような、あんな感覚。

名前を呼ばれたら受け取りにいかないといけない。私達は魔災に墜ちた世界に生まれて、死ぬ為の切符を渡されて、ただ死ぬ為の順番を待っているだけ。

本気でそう思ってた。

そんな時かな。たまたま物資を探しに来てたらしいセイレイ君が助けに来たのは。

「生きることを諦めないでよ!」

って必死に。セイレイ君は私から死に向かうための切符を奪い取ったんだ。

下手をすれば自分も死んでしまうのに。

自分の利益よりも、他人を助けることに一生懸命な彼に私は救われたの。命を賭して、誰かの為に頑張るセイレイ君の事が好きになるのもそう時間はかからなかったよ。

だから、私の世界の中心は、ずっとセイレイ君なの。


★★★☆


「……ね?セイレイ君」

前園は、自身の膝で眠ったふりをしている瀬川に向けて柔らかな笑みを浮かべた。

その言葉に、瀬川は苦い顔をしてのろりと体を起こす。

「いつから気づいてたんだよ……」

「むしろ何で気づかないと思うの?」

「……はは」

何を当たり前のことを、と言わんばかりにとぼけた顔を浮かべた前園に、言葉を返す気にもなれず瀬川は苦笑いを浮かべてやり過ごす。

それから、もう一度コップのお茶を飲んで一息を吐いた。

前園の経験した過去の話に、顔を伏せて黙りこくってしまった一ノ瀬と青菜。瀬川はそんな二人に向けて言葉を掛ける。

「まあ、いきなりこんな話されても……って感じだよな」

「……全くだよ」

一ノ瀬としてもたくさん返したい言葉はあったが、何も口に出すことは出来なかった。

「にしても俺そんなこと言ったっけ、全然記憶にないんだけど」

「言ったよ。ねっ。君が色々な意味で助けてくれたから今の私がいるんだよ」

「なんとなく傍にいる、みたいな約束は誓った記憶あるけどさ」

思わず苦笑を零す瀬川。

そんな幼馴染二人に向けて、青菜は静かに言葉を掛けた。

「……何となく、二人が大変な世界で生き抜いてきたのが分かったよ。ホズちゃんがセーちゃんを好きになるのも、納得したかな」

「なんか改めてそれを言われると恥ずいんだがな……」

「でもさ」

そこで青菜は言葉を区切って瀬川の目をじっと見る。

「な、なんだよ」

「僕は肝心のセーちゃんが、ホズちゃんをどう思っているのか知りたいなー」

「……あー……」

どこかきまりが悪そうに瀬川は青菜から、そしてどこか目を輝かせて期待するような顔をしている前園から目を逸らす。

「確かに、セイレイ君って私のことどう思ってるの?ずっとずっと一緒に生きて来たけどっ」

前園の期待の籠もった視線に対し、瀬川は申し訳なさそうにぽつりと言葉を返す。

「や、悪い考えたことなかった」

「えっ」

瀬川の返した言葉に、前園の表情が思わず曇る。

「……ちょっと」

一ノ瀬は咎めるように口を挟むが、当の本人はそんなことも気にせずに言葉を続けた。

「出会った時さ、『ずっと一緒に支え合って生きていこうね』って話したろ?」

「……うん」

「青菜みたいに年の近いやつもそん時は居なかったし。何となく、一生傍にいるんだろうなくらいにしか思ってなかった」

「もうそれプロポーズじゃん」

「……っ」

一ノ瀬は困ったように笑い、前園は潤んだ瞳でじっと瀬川の方を見る。

「別に好きとか、そんなの今は考える余裕ねーけどさ。全部終わったら、その時にちゃんと向き合うよ……悪いなこんな答えで」

「……ううん。大丈夫」

前園は静かに瀬川に抱き着くように寄りかかった。

それから、蕩けたような笑みを浮かべる。

「えへへ、昔の言葉を大切に覚えてくれてるだけで十分だよっ。君は、私の世界の中心なの。ずっと、ずっと私の希望の星。君がいなかったら、私はいない」

「……希望の星、か」

瀬川は前園の言葉をぽつりと呟いた。

一ノ瀬はそんな二人を見ながら、ふと思い立った言葉をぶつける。

「そういやさ、セイレイが初めて助けた人が穂澄ちゃんって解釈でいいのかな」

「まあー……そうなるのか?考えたこともなかったけどな……」

自覚のなかった瀬川は、その一ノ瀬の言葉に首を傾げた。

「実際、私もセイレイの言葉に救われたからね」

「……セイレイ君は私のものだよ?いくら一ノ瀬さんでもあげないっ」

前園は威嚇するようにじっと一ノ瀬をむくれた顔で睨む。

だが一ノ瀬は笑って手をひらひらとさせた。

「奪う気も無いよ。私だって想い人がいたからね」

「……そっか」

”いた”という過去形の言葉が、その一ノ瀬の想い人の現在を想像させる。前園は、その彼女がさりげなく発したその言葉に心を痛めた。

それから、更に瀬川により一層強く抱きつく。

「どうした?」

瀬川はその行動の意味を読み解くことが出来ず、首を傾げる。

彼の体に顔をうずめたまま、彼女は身体をこすりつけるようにして首を横に振った。

「ううん、何でもないっ。ただ、魔王にも、四天王?にも負けるわけにはいかないな……って思っただけ」

前園は改めて、自分の戦う意味を再確認する。

一番最初からそうだった。幼馴染の瀬川を心配して、率先して配信を手伝って。

失うことのない絆が。文字通りのかけがえの効かない想いが、再び前園を突き動かす。


そんな時、前園は自身の中に強い想いを抱いていた。

——決して、この想いを潰えさせない。もっと、強くならないと。

セイレイ君のいる世界が、私を作る。

私の、私達の、皆の。世界を決して終わらせる訳には行かない。

もっと、もっと。この手で。この足で。皆の居場所を作るんだ。


黄色の光が、前園の脳内で渦巻いた気がした。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:金色の盾

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

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