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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第五十二話(1)】前園の世界の中心にいる彼(前編)

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。

「久々の出番だね……」

前園は太陽光式のモバイルバッテリーをドローンに接続し、充電が完了するのを待っていた。

その待ち時間、「自由に使っていいよ」と与えられた和室の中で勇者一行は一息つく。

瀬川は緊張が抜けたのか、だらしない姿勢で胡坐をかいてくつろいでいた。

「くぁ……眠い……」

そんな呑気に欠伸をする彼の姿に、青菜はくすりと笑みを零す。

「さっきまでの真面目モードのセーちゃんは何処に行ったのさ」

「んなこと言ったって、俺だって疲れてるし……くぁあ……」

ダンジョン配信を終え、更に青菜の方向性についての話し合いと続いた。

その過程の中で、肉体的にも精神的にも体力を使い果たした瀬川の気力は限界を迎える。

畳のい(ぐさ)の匂いを鼻腔いっぱいに取り入れながら、瀬川はごろりと寝転がった。

「また、作戦会議の時間になったら起こして……ん、すぅ……」

微睡んだ声音でそう発した後、瀬川は静かに寝息を立てて眠り始める。その幸せそうな表情に、残された彼らはお互いに視線を交わして笑い合った。

「なんだかセイレイっていつも寝落ちてるイメージがあるよ」

一ノ瀬が彼の寝顔を眺め、苦笑を漏らした。

それから、持ってきたブランケットを眠っている瀬川へと覆うように被せる。ふわりと温かな陽光を吸ったブランケットが温かな匂いを舞い上げた。

「あー、もうっ。畳の上で寝たら型になるでしょ、ねっ」

前園はそんな瀬川の元へと、膝を擦りながら移動した。それから、幼馴染の頭をもたげて自身の膝へとぽすりと乗せる。

そんな彼の頬を撫でながら、前園は穏やかな笑みを浮かべた。

「……頑張り屋さんめ、えへへっ」

愛しい彼の姿を見守る前園に、青菜はふとからかうように言葉を掛ける。

「ホズちゃんって本当にセーちゃんのこと好きだよね」

「ん?好きだよ?私の世界はセイレイ君ありきだもん」

「あっはい」

想像以上に前園から発せられた重い愛の言葉に対し、反応に困った青菜は思わず黙り込んだ。

だが、そんな青菜の反応を意に介さず前園はずっと瀬川の頬を撫で続ける。

「私はずっとセイレイ君と生きてきたもん。図書館でセイレイ君と出会ったあの日から、ずっとずーっと一緒に生きてきた。私の世界を作ってくれたのは、セイレイ君だよ」

「……そう言えば、穂澄ちゃんがセイレイと出会った経緯って聞いたことなかったね。聞いていい話?」

「あっ、それ僕も気になるっ。セーちゃんの今までの話聞きたいー」

魔災以降、瀬川が勇者になる前から一緒に居た前園の話に、一ノ瀬と青菜は関心を寄せる。

その二人の反応に、「待ってました」と言わんばかりに前園は目を輝かせた。

「聞いてくれる!?セイレイ君って本当にすごいんだよ!!」

「えっ、あ、うん……」

「それじゃあどこから話そうかなー……あ、そう言えば一ノ瀬さんも青菜君も、魔災直後の生活って分からないのかな。そこから一応全部話していい?」

意気揚々と過去の話を始めた前園。彼女の膝の上で寝転がっていた瀬川は、その幼馴染の声に朦朧と目を覚ます。

「……なんか、恥ずかしいからやめて……」

瀬川はそう面と向かって言いたかった。しかし嬉々として過去の話を始めた前園を止める気にもなれず、そのまま寝たふりを続けていた。


★★★☆


一ノ瀬さんはほとんど一人で生きてきた特殊なケースだし、青菜君は魔災後の記憶が無いみたいだから最初から話そうかな。

魔災が起きて、色々と大変なことは当然だけどあった。

まず、魔災が起きたのが冬だったから。冬の寒さをしのぐために、カイロとか沢山使い込んだ。

でも、まだ魔災が起きた時は「他の被害の少ないところから助けが来る」って皆信じて、希望を持ってたよ。

物資も、薬も、食料も。まだ最初の年はなんとかなった。私と、お父さんとお母さんはショッピングモールに逃げ込んでね。そこで過ごしてた。


夏場も、案外何とかなった。

車通りもなくなって、工場も動かなくなって。大気中の排気ガスもなくなったからなのかな。温室効果ガスって言われてる二酸化炭素が減ったからなのか分からないけど、断然夏は過ごしやすくなってた。

皮肉にも、地球温暖化問題は魔災によって解消されたよ?まあ私達にはそれよりも魔物という命を脅かす存在が居たし、いつ襲ってくるか知りもしなかったからそれどころじゃなかったけど。

問題はその年の冬からだった。

まず、気温の変化で風邪を患っても、対処のしようがない。風邪薬はあったけど、数なんてたかが知れてる。

風邪をこじらせて肺炎を引き起こそうものならまず助からない。点滴もないし、そもそも点滴があってもそれを扱える人がほとんどいないんだもん。

私のお母さんは看護師だったけど、お医者さんの指示がなけりゃ使うことだってできないし。

検査もできるわけじゃないから、感染症の元なんて辿ることが出来るかどうか知らないけど。

だから、せめて命を繋ぐ為に、ショッピングモール内で人々の接触を避けるように声を掛けることで精いっぱいだった。これ以上、風邪に罹る人が増えないように。これ以上、感染症で死ぬ人が増えることのないように。

その次に起きたのは冬の寒さを超えられない人が居たこと。

ショッピングモールって風通しが良い施設でしょ?それで、服屋とか、布団売り場にある毛布とかにくるまって皆寒さを凌いでたけど。

気が付けば二度と体が温まることのない人が増えていた。


文明の崩壊ってこんなにわかりやすいんだなーって、幼い私でも分かった。


★★★☆


「……あっ、ごめん。話の主題から逸れてたね」

前園は苦笑を漏らしながら、慌てて頭を下げた。

「そんな、そんな過去が……」

「ホズちゃん……」

一ノ瀬と青菜は、淡々と己が経験した過去を語る彼女を、どこか遠い存在のように感じた。

自分達が知らない、記憶にない壮絶な魔災後の経験を語る前園。平然としているように見えて、抱えた過去の重さは計り知れなかった。

だが、二人の心境など気づきもせず、前園は改めて話を続ける。


★★★☆


えっと、魔災の後の生活の話はこれくらいに留めておこうかな。

とりあえず、皆その日を生きるだけで精いっぱいだった。私だってそう。なんとか、生きる物資を探すことに精一杯で、そんな時に見つけたのがこのドローン。

みんな生きるのに精いっぱいで、パソコンなんて目もくれなかったし。だから勝手に売り場の物を拝借して、手探りでドローンの使い方を覚えた。たまたま太陽光式の充電器もあったから、それもね。

でもさ、何か有益に使えるかもしれないと分かった瞬間って、皆あんなにも醜くなれるんだなーって思った。

皆ね、必死に私の持つドローンとパソコンを奪おうとしてきたの。生きるのに必死で、法律という鎖も、もはや機能なんてしていないから、もう本当に皆……獣のように。

怖かった。もう誰も信用できなくなった。

もうショッピングモールで居ることも出来なくなったから、私達はそこから出て行くことにした。

というか、出て行かざるを得なかった。ショッピングモール内よりも、魔物がいる外の方が安全のように見えたから。

私にとっては、自分の命ばかり、居場所ばかり追い求めて生きようとしている人と、どっちが魔物かその時は分からなかった。

今は、ショッピングモールはどうなっているのか分からない。もしかしたら、ダンジョンになってるのかも。


で、そこで私達は図書館に逃げ込んだの。

本当に、限界の状態だった。命からがら。

入った時は気づかなかったけど、そこもダンジョンだったの。

でも私、その時は魔物なんてちゃんと見たことなかったし。変な生き物がいる、くらいにしか思ってなかった。


だから、パパとママが魔物に頭を潰されるその瞬間まで、私はそれが魔物だって気づくことはなかったよ。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:金色の盾

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

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