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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
107/322

【第五十一話(3)】ホログラムが映し出す歪な世界(後編)

ドラクエ3リメイク買いました。

セイレイ:ロマンチスト

noise:いのちしらず

ホズミ:あまえんぼう

クウリ:いっぴきおおかみ


……クウリ君以外は解釈通りで笑いました。

観念した青菜は、一つ一つ語り始めた。


ダンジョン配信のことから始まり、スパチャが配信にどのように関係しているのかということ。

魔物が落とす魔石を用いた”ホログラム”の実体化のこと。

ホームセンターダンジョン内で瀬川達と共に協力して戦った際に出会った、Dive配信を謳う雨天 水萌という少女と出会ったこと。

記憶を取り戻す手段が見つかりそうなこと。

そして——。


青菜は、今の自分の考えをぽつりぽつりと、語り始めた。

「……僕は、正直迷ってる……。セーちゃんと旅に出るべきなのか。でも、そうなるとここの生活はどうなるんだろう。そもそも、これから先。配信の先で魔王を倒したら、ホログラムが全部なくなったら、生活は維持できるのかな。だったら、消さない方が良いんじゃないかって思う僕もいる……セーちゃん、ごめん。魔王を倒そうって話なのに」

「空莉……」

青菜の言葉を聞いて、瀬川は初めて気づかされた。ホログラムが消えるという事は、魔石を用いた”ホログラムの実体化”の恩恵を二度と受けられなくなるという事だ。

実際、青菜はその実体化を活用して集落の生活維持に役立てている。


それと同時に、Dive配信を謳う雨天 水萌の言葉が突如として重みを増した。

『——魔王を倒したら、私が大好きな世界が守れなくなる!!』

前園が発した言葉が、重みを増す。

「——誰かと戦うってことは、誰かの世界を奪うってことなんだ」


考えたことが無かった。

魔王はただ世界をめちゃくちゃに変えてしまった諸悪の根源で。人類すべての敵で。ただ倒せば世界が平和になって元通りになる。

そんなご都合主義で終わる物語かと思っていた。

だから、青菜の言葉を聞いた瀬川は改めてその意味を問わざるを得ない。

「……俺は、魔王一人が世界を左右する今が正しいとは思わない。なあ空莉。お前にとって、俺は一体どう映る?」

「セーちゃんは、正しいことを言ってるし、間違ったことは言ってない。でも、僕や水萌ちゃんみたいに間違えなきゃ生きて行けない人達もいる。本当に、ごめん。それが、記憶を取り戻すに繋がるとしても……魔王を倒すこと、旅に出ること、僕は今は賛同できない」

青菜は、顔を悲痛にしかめながら瀬川に深々と頭を下げた。

静かに話を聞いていた初老の男性はそんな中、青菜に向けて口を開く。

「……青菜君。やはり君は旅に出るべきだよ」

「えっ、唐突になんで……!?」

その言葉に、青菜は目を丸くして顔を上げる。戸惑う表情を浮かべる青菜に向けて、男性は言葉を続けた。

「そもそも青菜君が来るまで、私達は生活が維持できていたんだ。君一人が居なくなったくらいで生活が崩壊するくらいなら、この集落はとっくに無くなっていてもおかしくないだろう」

「……でも、生活用品がっ、生活維持を安定させるためには……」

青菜は男性の顔色を伺うように、身を乗り出して反論を続ける。

男性は優しく、そんな身を乗り出した青菜の頭を優しくなでた。

「青菜君。確かに、君の言うようにホログラムの実体化?だろうか。その恩恵を受ければ、より安定して生活の維持は出来るだろう。だけど、それは生きているとは言わないよ」

「……じいちゃん、どういうこと?」

言葉の真意を掴むことが出来ず、青菜は腰を下ろして首を傾げた。

「それは、生きているではなく『生かされている』だ。確かに、より優れた技術は人々を生かすことが出来る。だけど、一度確立された技術には”使わなければならない義務”が生まれるんだ」

「使わなければならない義務……」

自分にも関係する話だと思った瀬川は、ぽつりとその単語を反芻した。

男性は瀬川の呟きに頷き、それから言葉を続ける。

「瀬川君は勇者として特にそれを実感しているかもしれない。魔物と戦う力を持つ瀬川君には特に、”力を使わなければならない義務”を背負わされていることだろう」

「……はい。俺も、最初は何の力も持たない一個人だったんです。それが、いつの間にか勇者として他人の期待を背負うようになっていました。他人の期待が、スパチャという形で届く。俺らは、その期待に応えるようにスパチャブーストを使って魔物と戦っています」

瀬川にとって、スパチャというのは『他者から与えられる期待の形』だった。

戦う力を得る為に、守る力を得る為に。世界を救う為の糧として、人々からスパチャを受け取っている。


——その人々の期待の重圧を一人で抱え込もうとして、心を病んでしまうほどに。

瀬川にとって勇者とは、スパチャとは、大きな意味を持つものだった。


瀬川の話を聞いた青菜は、葛藤するように俯く。

「……ごめん。僕、正直そこまで他人の期待とか考えたことなかった。スパチャを受け取って、戦うこと。スパチャブーストは、ただの手段なんだ、としか思ってなかった……」

「それが普通だとは思う。ただ、俺達配信者はどうしてもその問題と向き合わなくちゃいけない……いや、向き合わざるを得ない」

その言葉に、男性もこくりと頷き、自身の話へと繋げていく。

「君達と行動を共にする一ノ瀬さんからも話を聞いた。彼女は過去に、現実から目を背けようとしたことがあると」

「……そう、ですね。……それが?」

話の方向性を読むことが出来ず、瀬川は首を傾げる。そんな時、彼等の元に一人の女性によってお茶が運ばれてきた。

「はい、お茶どうぞ」

「あ、はい……ありが……ん?」

「ん?」

聞き覚えのある声に思わず顔を上げると、そこにはトレーを持った一ノ瀬が不思議そうな顔をして首を傾げていた。

「……なんでいるんだよ、姉ちゃん」

そう問いかけると、一ノ瀬はばつが悪そうに引きつった笑みを浮かべた。

「……実は、こっそりと二人の後を付けようとしたんだけど、『お友達のことが気になるんでしょ、堂々と行きなさいよ』って言われてしまって……ほら、穂澄ちゃんもおいで」

「あっ、うん」

一ノ瀬が廊下の奥へと視線を投げると、前園も恥ずかしそうに顔を伏せながら入ってきた。

思わず瀬川は呆れたように頭を抱える。

「人のこと言えねえだろ、お前らも馬鹿じゃねえか……」

「まあ、否定はしないよ……私達も話に参加させて貰っても良いですか?」

そう尋ねると、初老の男性は座布団を動かして招き入れた。

「大丈夫。丁度一ノ瀬さんの話をしていたんだ」

「聞こえてました」

一ノ瀬はそう言いながら座布団へと姿勢を正して正座した。それから、カッターシャツのシワを伸ばして自身の話を始める。

「確かに、新しい技術によって人々はより恵まれる。技術が生まれれば、世界は広がる……でも、その新しく広がった世界に依存してしまうこともあるんです」

「どういうこと?」

青菜は言葉の意味が理解出来ず、首を傾げた。

「新しい知識とか技術とか、皆使わないと勿体ないって思ってしまうんだよ。で、いつしかその技術にのめり込んで……戻れなくなることもある」

瀬川の補足に、男性はこくりと頷いた。

「……それが、より人々の成長に繋がるのならそれでもいい。けれど、その発展した技術が人々の成長を阻害する要因となることが問題なんだ」

「仰るとおりです。現に、私達も一度現実逃避の為に、配信の世界に逃げ込もうとしました……ね、穂澄ちゃん」

かつて、彼等の恩師である千戸 誠司の裏切りが発覚した際に、現実が辛くなり配信の世界に依存しようとしたことを一ノ瀬は思い出す。

話の続きを促された前園は伏せていた顔を上げた。

「そう。うん、そうなの。一時的に心を落ち着ける場所となるだけなら良い。それが私達自身が成長する糧となるなら良い。けど、実際は辛く、厳しい現実から目を逸らして。虚像(ホログラム)の自分ばかり優先して。これからどうにかしなきゃいけない問題を先延ばしにすることを私は良しと出来ません」

「青菜君の言うように、魔王を倒したらホログラムは消えるかも知れない。今までの生活が維持できる保証なんてどこにもない。でも、おじいさんも、それを承知の上で青菜君に諭してくれてる」

一ノ瀬と前園の言葉に、青菜は逡巡する。

「未来を描く為には、辛く苦しいことも受け入れなくちゃ駄目なの……?何で、皆それを分かっていて、それでも進もうとするの……?」

「……何事も失うことと得ること。それは、イコールだろ」

瀬川が青菜の問いに漏らした言葉。その言葉に、一ノ瀬と前園は表情を強ばらせた。

「……その言葉は、ディルの……」

一ノ瀬の言葉に、瀬川は静かに頷く。

「ああ。あいつの言葉だが、これは間違っちゃいねえと思う。変えないと駄目なんだ、気付かせないと駄目だ。こんなホログラムが映し出す歪な世界は終わらせないといけないんだ」

「……僕、そこまで強くなれないよ……記憶を取り戻したい、でも、現実は怖い……」

青菜の本音は、『環境が変化する事が怖い』ということだった。ホログラムの消失に伴って今までの生活が崩壊することを恐れ、環境の変化を恐れ。

その目の前に立ちはだかる障害を前に、後込みをしていた。


だが、そんな彼に勇者一行は優しく微笑む。

「……大丈夫だ。空莉」

瀬川は、青菜の肩を優しく叩いた。

「まあ、私もさ……現実逃避なら何度も経験したし……他人事とは思えないんだよね」

一ノ瀬は恥ずかしそうに頬を掻きながら、苦笑を漏らす。

「私も、一人じゃ無理だよ。みんなが居るから、居場所って言えるだけで、ね」

前園は長い黒髪を揺らし、しっかりと青菜の目を見つめた。

「なんで、皆……そんな、変化を恐れないの?行動して、今よりももっと最悪になるかも知れないんだよ?もっと、嫌な思いをするかも知れないんだよ?」

皆の言葉を恐れるように、青菜は腰を引く。藍色の髪を激しく揺らすように首を振り、目を逸らし、耳さえ塞ごうとする。

だが、瀬川はそんな青菜へと肩を組む。

「大丈夫だって。俺だって一人じゃ無理だったよ……けどな、今話してて気付いた。皆、お互いの生きた世界を知らないだけだ」

「……知らない、だけ?」

「ああ。分かり合えなくても、向き合わないといけない。夢物語だろうが、俺らはそれを諦めない。皆で作る世界を、勇者が諦める訳には行かないんだ」

「……」

真っ直ぐな瀬川の言葉に、思わず青菜は黙り込んだ。

彼等の話を黙って聞いていた初老の男性は、改めて青菜に問いかける。

「……ということだが、青菜君。君は、君自身は、どうしたい?」

その言葉に、青菜は硬直する。

もう、彼を躊躇(ためら)わせる要因は取り除かれたからだ。


迷いを断ち切るように大きく深呼吸した。

それから、コップに入ったお茶をあおり、勇者一行を真っ直ぐに見る。

「僕は、記憶を取り戻したい。皆が安らげる居場所を作りたい。皆と、世界を描きたい。僕だって、一人の戦士だもん……だから、よろしくお願いします」

戦士クウリが、仲間に加わった。


To Be Continued……

【登場人物一覧】

瀬川(せがわ) 怜輝(れいき)

配信名:セイレイ

役職:勇者

花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。

どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。

前園(まえぞの) 穂澄(ほずみ)

配信名:ホズミ

役職:魔法使い

幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。

一ノ瀬 有紀(いちのせ ゆき)

配信名:noise

役職:盗賊

元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。

雨天 水萌(うてん みなも)

四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。

どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。


青菜 空莉(あおな くうり)

配信名:クウリ

役職:戦士

山奥の集落に住まう一人の少年。

勇者一行の言葉に突き動かされ、彼は現実と向き合い始めた。

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