【第五十一話(2)】ホログラムが映し出す歪な世界(中編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
花開いた希望の種。魔災以前の記憶が無く、青菜のことを知らない。
どうやら魔災よりも少し前に交通事故に巻き込まれたようだ。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
幼馴染、瀬川 怜輝のことを案じ続ける少女。機械関係に強く、集落に訪れてからはスマホ教室を開き、人々にスマホの使い方を教えている。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
元医者志望の女性。独学ではあるが、ある程度知識には自信があり集落に住まう人々の健康管理の手助けをする。
・青菜 空莉
山奥の集落に住まう一人の少年。
魔災以前は、瀬川の幼馴染として日々仲良く過ごしていたらしい。
・雨天 水萌
四天王:Dive配信を名乗る、蒼のドローン。
どこか抜けているところがあり、ひょんなことから爆弾発言を放つ少女。
・ディル
配信名:ディル
Dead配信を謳う、素性不明の少年。その行動の一つ一つには、彼なりの信念が宿っているらしい。
・魔王セージ
世界に破壊をもたらした、最悪のインフルエンサー。
「みんなー、戻ったよ」
青菜は気丈に振る舞いながら、大きく集落の人々に向けて手を振る。
すると、集落の人々は戻ってきた彼らを一同に迎え入れた。
「おかえり、青菜君。怪我はなかったかい?」
「うん、ありがとー。皆助けてくれたから!」
どこか普段よりも活気の欠けた青菜。それを誤魔化すように気丈に笑顔を作って人々の会話に答えていく。
しかし、ふとある年配女性は青菜が手ぶらで帰ってきたことに気づいた。
「あれ?青菜君、荷物を取りに行ったんじゃないのかい?」
「あ、それはね」
ちらりと青菜は距離を取って、彼らを見守っていた一ノ瀬に視線を送る。
青菜の視線に気づいた一ノ瀬は人々の輪の中心に移動し、腰に巻いた”ふくろ”の中から大きな肥料の袋を取り出す。
まるでどこかの猫型ロボットを彷彿とさせるように、小さな麻袋のサイズに見合わないものが出てきたことに集落の人々は目を大きくして驚いた。
「はぁー……お姉さん、最近の技術というのはすごいんだねえ」
「そ、そうですね……最新の技術……うーん、まあそうか……」
一ノ瀬は微妙な表情で愛想笑いを浮かべつつ、言葉を返す。
魔災に墜ちた世界の中で生まれたダンジョン内で手に入れたものであるため、捉えようによっては最新のものであることには間違いない。
だがそんな事情など知る由もない人々は、憶測で会話を続ける。
「まるで昔のアニメみたいだなあ。お姉さんは未来から来たのかい?」
「あんた、そんな馬鹿な話があるもんかい。そんなんだったらこんなボロボロの世界よりも良い世界があるでしょうがっ」
「ははっ、そりゃ違いねえや!桜は絶景だけどな!はははっ」
「あはは……」
賑やかに会話を続ける人々のテンポについて行けず、一ノ瀬は愛想笑いでやり過ごす。
そんな中、青菜に近づく一人の男性がいた。
「青菜君。ちょっといいかい」
「あ、じっちゃん。ただいまっ」
日ごろから特に青菜が懇意にしている初老の男性だ。彼は、真剣な表情で青菜の顔をまじまじと見た後、彼の手を引いた。
「疲れているところ申し訳ないが、少し話をしたい。いいかな」
「え、あっ、うん……」
男性の神妙な表情に、青菜は思わずドキリと表情筋が硬直する。
視線を右往左往させ、答えに窮している青菜。そんな彼の表情を見た男性は、思わず頬を緩めた。
「そう緊張しなくてもいい……瀬川君も、来てくれるかな?」
突然名指しで呼ばれた瀬川。しかし、彼はこれから話す内容のおおよその理解が出来ているのか、真っすぐな顔色で頷いた。
「はい、大丈夫です。穂澄、姉ちゃんはゆっくり休んでいてくれ」
「……セイレイ君」
心配そうに前園は瀬川の裾を掴む。だが、彼は柔らかに表情を崩して微笑んだ。
それからぽんと前園の頭に手を乗せる。
「あう」
「心配すんな。ちょっと勇者一行の代表として話をするだけさ」
瀬川のその真摯な言葉には、かつての頼りなかった頃の面影はない。いつの間にか大きく成長していた瀬川の背中に、前園は思わず表情が硬くなる。
「……いつの間にか、大人になったね」
「そうかな……だとしたら、お前らが居たからだよ」
そこまで話した途端、急に気恥ずかしくなったのか瀬川は前園から顔を背けた。
目も合わせず、瀬川は言葉を続ける。
「……まあ、その、なんだ。ありがとな」
「えへへ、どういたしまして」
「大体どんな話をするのか見当は付く。戻ってきたら作戦会議、だよな。行ってくる」
瀬川は覚悟を決めたように、青菜と初老の男性について行く。
置いて行かれた前園と一ノ瀬は、お互いに顔を見合わせる。
「……一ノ瀬さん」
どこか、おずおずと期待するような前園の表情。一ノ瀬はそんな彼女の表情に困ったような笑みを浮かべた。
「穂澄ちゃんも大概心配性だね」
「目を離すと、どこか遠くに行っちゃいそうで……置いて行かれたくないもん」
「セイレイが穂澄ちゃんを置いていくとは思えないけど……」
一ノ瀬は苦笑を漏らし、それからこくりと頷いた。
「いいよ。私が先導して行くよ。どんな話をするのか気になるし」
「ありがとっ」
「にしてもまたかー。私達ストーカーみたいだね」
「……それは言わないで……」
★★★☆
一人が通り抜けるのがやっとといった細さの廊下を歩く度、古ぼけた床の軋むような音が響く。窓から差し込む日差しが木造の柱を照り付ける。
どこか懐かしい匂いのする家屋の中を通り抜け、たどり着いた和室。
そこには漆によって光沢が生み出された古風な机を囲うように配置された座布団が並んでいた。
青菜と瀬川は畳の縁の部分を跨ぎ、初老の男性に案内されて座布団の上に並んで腰かける。
「二人とも、今日もありがとう。いつも助かっているよ」
初老の男性は、深々と腰を折り曲げて頭を下げた。瀬川は腰を浮かせ、慌ててそれを制止する。
「顔を上げてくださいっ。むしろ世話になっているのは俺達の方ですから」
「特に瀬川君には、ここに来てから助けられてばかりだな」
そう言いながら、男性はゆっくりと顔を上げた。だが、瀬川は複雑そうな表情で俯く。
「……いえ、俺は、ほ……前園ほど機械に理解がある訳でもない。姉ちゃん……一ノ瀬ほど、知識も経験もない。勇者と世間では言われていますが、実際……俺は何も持っていないですよ」
瀬川は自嘲を交えて笑う。そんなかつての幼馴染の顔を、青菜は心配そうにのぞき込んだ。
「セーちゃん……」
初老の男性は、瀬川の自虐にも似た言葉に首を横に振った。
「いえ、瀬川君。君には”人を動かす力”という貴重な素質を持っている。そう思うだろ、青菜君」
「えっ」
突然言葉を掛けられた青菜は目を丸くして腰を浮かせ、それから瀬川と男性を交互に見やった。
話の内容をあまり理解できていなさそうな青菜に、男性はため息を吐きながら言葉を続ける。
「瀬川君は、他の人にはない純粋さがある。打算抜きで、ひたむきで。だからこそ、皆、君について行くのだろう」
「……そうでしょうか」
「あの前園さんというお嬢さんに教えてもらって、瀬川君のダンジョン配信、というのかね。あれを見せてもらったよ」
その言葉に、瀬川の全身が硬直したように固まる。どのような言葉が続くのか想像もつかず、瀬川は続く言葉を伺うようにじっと男性の顔を見る。
だが、その緊張は男性に筒抜けだったのだろう。彼は声を上げて笑った。
「ははは、そう緊張しなくても大丈夫。君が一生懸命、世界を救うことに取り組んでいると言うのが伝わる配信だった」
「あ、ありがとうございます」
話の本筋が読めないが、瀬川は困惑しながらも素直に頭を下げた。
それから、ちらりと青菜へと男性は視線を向ける。
「それはそうと、青菜君」
「えっ、ん、何?」
「今日は、いつもより浮かない顔をしているな……何があった?」
「……話さないと、ダメ?」
躊躇うように、拒むように、青菜はどこか逃げ腰でそう尋ねた。だが、男性はじっと青菜の目を見据えたまま首を横に振る。
「ダメだ。おおよそ青菜君がいつもしているダンジョン配信に関係したものなんだろう?そして、いつも持ってきているあの肥料をはじめとした生活用品にも関係していることだろう」
男性の言葉に、青菜はドキリとして表情を硬くする。それから、力なく項垂れた。
「……バレてたんだ。生活用品と、配信が関係してること」
「改めて考えれば、青菜君が色々と持ってくるようになったのは、あの魔王が行った”全世界生中継”の日以降だったからな。瀬川君達が色々と教えてくれたおかげで、考えるきっかけになったんだ」
「……」
「説明してもらうぞ、青菜君。君がどういう経緯であの生活用品を持って帰ることが出来ているのか、そして、君が何を今思って悩んでいるのか。配信とどう関係しているのかを、教えて欲しい」
To Be Continued……
[個人的なお話]
ドラクエ3リメイク予約しました。
セイレイ君達の名前を付けて旅しようと思います。
(クウリ君が筋肉ムキムキのゴリマッチョになっちゃうけど)




