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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第五十話】Dive配信

暗闇の中からふわりと空を泳ぎ、勇者一行の前に躍り出た蒼のドローン。そのスピーカーからは響くのはあどけない女性の声。

『初めまして、セイレイを筆頭とした、勇者様ご一行。我は四天王を務める蒼のドローン』

仰々しい名乗りと共に、そのドローンの全身にラグが生まれる。ドローンのシルエットが大きく歪み、その姿を大きく変えていく。

「おい、気を引き締めろ!視聴者は俺が指示を出すまでこのアカウントにスパチャは送らないで欲しい!!」

セイレイは動転しながらも的確に配信を通じて指示を出す。


[分かった]

[勇者の指示に従うよ]

[最悪勇者のアカウントに切り替えるのか]

セイレイの指示に対しコメント欄から、同委の意見が流れる。


「セーちゃん!!あれは!?」

クウリはホズミから受け取ったスマホを構えながら、慌てた様子で問いかける。だが、セイレイは冷や汗をかきながら首を横に振った。

「わかんねぇ……ただ、とんでもねー強敵が現れたのは確かだ……っ」

ドローンの全体にホログラムが走るとともに、衝撃波にも似た吹き荒れる風が彼らの衣服をはためかせる。砂埃が舞い上がり、勇者一行はまともに目を開けることが出来ない。

「っ、セイレイ!!あれ!!」

noiseはセイレイに大声で呼びかける。彼女の声に、セイレイはゆっくりと顔を上げた。

そこには、先ほどまでの蒼のドローンは無かった。代わりに、スピーカーを介さなくなり、鮮明となった少女の声が響く。

「——我は、魔王セージに、従える者」

ドローンの代わりにその場に居たのは、全身をぶかぶかの青色のレインコートに身を包んだ少女。どこかクラゲを彷彿とさせるような、全体的にゆったりとしたデザインだ。

「……」

ホログラムから人の姿となった彼女を見たセイレイ。彼は静かに、警戒していた構えを解いた。

否、彼だけではない。勇者一行は武器を構えていた姿勢を解く。

しかし、警戒心の抜けた勇者一行に彼女は気付くことは無い。

そのまま、四天王を名乗る少女だけは言葉を続けた。

「くくく、我が恐ろしいか。我こそが、えっと、四天王の……」

「カンペを読むな」

「あっ!?」

熱心にメモを食い入るように見ながら台詞を続ける少女。

そんな彼女からセイレイはメモを奪い取った。

「返してっ、私の第一印象が!!」

「台詞覚えてから来いよ」

そうばっさりと切り捨て、青色のレインコートに身を包んだ少女が持っていたメモをセイレイは読み上げる。

「あー……『蒼のドローン、Dive配信こと雨天 水萌(うてん みなも)とは私のこと。魔王セージに仕えるものであり、四天王を務めている』……字汚えな」

「う、うるさいっ!だって仕方ないじゃん、突然『お前四天王な』って言われて何の準備も出来てないよこっちは!」

何故か雨天 水萌という名前らしい少女は逆ギレしながらセイレイに突っかかった。

もはや四天王という尊厳を維持することすら忘れ、彼女は更に余計な言葉を発する。

「だってだって、船出先輩が言ってたもん!!『第一印象が大事だから、絶対にボロは出さないように』って!!高校時代のバイト面接の経験を交えて丁寧に教えてくれたもん!!」

「おいやめろそういう裏事情は聞きたくねえ」

セイレイはげんなりとしながら、少女の言葉にツッコミを入れる。

総合病院ダンジョンでセイレイ達の前に強敵として立ちはだかった船出 道音(ふなで みちね)の裏話を、こんなことで知りたくなかったというのが本音だ。

それから、セイレイはふと気になって船出の元先輩であるnoiseへと視線を向ける。すると、案の定彼女も微妙な表情をしていた。

「……みーちゃんもキャラ作り、苦労してるんだな……」

「ほら言わんこっちゃない……」

とは言っても、一度船出が行った行動によりセイレイは命を失いかけた。

そして、船出と繋がりがあると言うことは、当然目の前のボロを出しまくる雨天もセイレイにとっては敵ということになる。

思考を切替え、セイレイは雨天に向けて問いかけた。

「あー、まあ。要はお前が四天王って事だな。魔王に仕えていると言うことは、敵という解釈で間違いないな?」

セイレイが改めて、少女の語った内容を要約すると雨天はばつが悪そうに目を逸らす。

「あっ、はい。合ってます……仕えてないけど……なんか、そう言った方が格好いいと思って……」

「……はあ。もう少し威厳保てよ。やりづれえだろ」

「すいません……」

どうして初対面の敵に説教をかましているのだろうか。

セイレイが思わずため息を漏らすと、雨天は怯えたように肩を震わせた。

そんな彼女の警戒を解くように、ホズミは雨天に目線を合わせて語りかける。

「驚かせてごめんね?雨天ちゃん。私は魔法使いホズミ。魔王に仕える四天王なら分かるよね?」

「あっ、はい。メンヘラの……いだだだだだ」

「……ふふ」

雨天がぽろっと漏らした言葉にホズミは穏やかな表情を崩さないまま、彼女の頭を拳でぐりぐりし始めた。

「……セイレイ君。やっぱりこの子敵だよ。倒そう、今すぐ倒そう」

「もう少し言葉選びあっただろ……」

最悪の印象を地で行く四天王の彼女に辟易としながら、セイレイは頭を抱えるしか無かった。


----


「頭割れるかと思った……あの、頭蓋骨にヒビ入ってませんか」

「入ってたら今頃喋れてねえよ。フード被ってるから見えねーけど」

雨天の威厳も何もない言葉にセイレイは呆れながらも言葉を返す。

それから、セイレイは思い立ったように雨天に問いかけた。

「なあ。四天王さんよ」

「雨天です」

「……雨天さんよ。お前はDive配信を謳ってんだろ。そんなお前が何で俺達の前に立ちはだかるってんだ?」

その言葉に、雨天はスイッチが入ったようにびしっとセイレイの方を指さした。

「だって!!セイレイ君!!君が魔王を倒すって言うから!!魔王を倒しちゃったら、ホログラムが消えちゃうんだよ!?私の世界が消されちゃうもん!!」

「お前の世界?」

「そう!!私、水族館が大好きなの!!私の世界は邪魔させないもん、魔王を倒したら、私が大好きな世界が守れなくなる!!だから、私は君に勝負を申し込みに来たの!!」

その彼女の言葉に先刻までのたどたどしさはない。セイレイはそれが彼女の嘘偽りのない本音なのだと理解する。

だが、クウリはどこか納得が行かないようで雨天に問いかけた。

「ねえ。水萌ちゃん、僕が勇者一行のメンバーに入らないって言った時に『許さない』って言ったのはどうして?」

「えっ」

何故か、雨天はぎくりと失言でもしたかのようにクウリから目を逸らす。それから、逡巡するように視線をキョロキョロとさせてから言葉を紡ぐ。

「え、えーっと、ほら。勇者パーティと旅すれば、記憶が復元されると思うよ?根拠、ないけど、うん」

「……復元?」

どうにも話の本質を掴めない雨天の回答に、クウリの脳裏を疑問符が占める。

「そ、そう!君の記憶が無い理由、何となく分かるから。クウリ君自身の為にもなると思いますっ」

明らかに何かを隠している様子だったが、嘘は言っていないらしい。クウリは困惑しながらも静かに頷いた。

「……分かった。信じるよ、君のこと」

「ほんとっ!?良かったあ……」

思わず安堵の声を漏らす雨天。

「……お前、本当に俺らの敵か?」

セイレイは、思わずぽつりと声を漏らした。

あまりにも人間らしい姿を見せる彼女の姿を敵と思うことは出来ず、勇者一行は戸惑いを見せる。


だが、雨天は雨天でそれを気に食わないのか、むっとした表情でセイレイに食ってかかった。

「……あーもうっ!私、怖い四天王なんだよ!?ほら!ほら!!お互いに守りたい世界がある以上、私達は戦うしかないもん!!ね!?」

「いや……。ね?じゃねーだろ」

そんな中、雨天はぽろっと失言を零す。


「だってだって!!魔王倒されたら私がホログラムとして生み出した水族館が消えちゃうもん!邪魔者を追い出して作った世界が消えちゃうもん」

「……邪魔者?」

聞き捨てならない言葉に、セイレイはぴくりとその単語を復唱した。

雨天はどこかスイッチが入ったように、更に熱弁を始める。

「そう!!邪魔者!!私が大切にしてた世界を邪魔したもん。人間のエゴで連れてこられた生き物だから、せめて大切に守ろうって思ってたのに、家族同然に思ってたのに!食べちゃうんだもん。私、それが許せなかったの!!だから、水族館をダンジョンにして皆を追い出したんだ!私だけの世界、私だけのホログラム!!これがDive配信を謳う私の役割だもん!」

「ねえ、雨天ちゃん。もしかして、生きている人を傷つけたりした?」

noiseは確認するように、雨天に問いかける。

彼女は「うーん」と首を傾げた後、申し訳なさそうに項垂れた。

「えっと……ごめんなさい。あんまり生きてる人とか、正直どうでも良くて意識してなかったです……。もしかしたら、殺しちゃった?かも」

「……そっかあ」

noiseは優しい声音で返す。だが、そんな彼女の目は全く笑っていなかった。

「なあ。雨天さんよ、ちゃんと理由が出来たぜ。俺達が戦う理由がな」

noiseの言葉を代弁するように、セイレイは静かに雨天に語り掛ける。その言葉に、雨天はぱあっと目を輝かせて反応した。

「ホントっ!?私の怖さがやっと分かったかっ!」

「ああ。分かったよ。で、今戦うのか?」

「あ、それだったらまた来て欲しいところがあるの」

そう言って、くるりと雨天は身を翻す。

再び、その全身にラグが走り始める。

「また、私の居る水族館に来て欲しいです。そう遠くない場所だから、迷うことも無いと思いますし」

雨天の姿を、ホログラムが包み込む。その顔も、身体も、全身がかき消えていく。


気がついたときには、雨天の姿は再び蒼のドローンへと変わっていた。

ふわりと空を舞い上がり、彼女はホームセンターの奥の暗闇へと姿を隠す。

「えっと、それじゃあ。また、会いましょう……我は、蒼の……えっと、四天王!雨天 水萌!!ふふ、ふははは……はぁ」

ぎこちない台詞と共に、その蒼のドローンは勇者一行の前から姿を消した。

その場に、汚い手書きの地図を残して。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:金色の盾

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

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