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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
④水族館ダンジョン編
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【第四十九話(1)】過去との決別(前編)

noiseが先行して、姿勢を低くして駆け抜ける。

真正面から距離を縮めるnoise目掛けて、ホブゴブリンはその巨大な棍棒を振り上げた。

「ガグアァァッ!!」

大気を震わせるような大声と共に、その棍棒は振り下ろされる。大気を抉り、その棍棒はnoiseの頭をかち割ろうとせんばかりに襲い掛かった。

「もう見えてるんだよ」

だがnoiseはひらりと身体を捻り、ホブゴブリンの振り下ろし攻撃を紙一重で回避。

地面にたたきつけられた棍棒は土煙と共に衝撃波を生み出し、noiseの長い栗色の髪を大きくはためかせる。

衝撃波と共に後退したnoiseは大きくバックステップ。彼女と入れ替わるようにして、セイレイが前線に躍り出た。

「クウリっ!!」

「うんっ!!」

セイレイの掛け声とともに、彼と共にクウリが駆け出す。

クウリは地面に転がった瓦礫を乗り越え、高く跳躍。そこから勢いのままに斧を両手に構えて振り下ろす。

「せーーーーーのっ」

クウリの脱力した掛け声とともに振り下ろされる一撃。

それはホブゴブリンの頭部目掛けて放たれたものであったが。

「……ダメかあ。セーちゃん、交代っ」

ホブゴブリンはそれを容易く棍棒で防ぐ。このままではらちが明かないと判断したクウリは地面に着地した後素早く身を(ひるがえ)した。

すかさずセイレイと交代するべく、ホブゴブリンの視界から逃れるようにして横っ飛びに移動する。

彼と入れ替わるように、セイレイはファルシオンを強く握った手でホブゴブリンの懐に潜り込む。

「ガアッ!?」

「俺達は、前とは違うっ!!」

決意の言葉と共に、勢いよくセイレイはその剣を斬り上げる。刻んだ傷口から灰燼が舞い上がった。

苦悶の表情を浮かべるホブゴブリンであったが、その視線はセイレイから外れていない。

そのことに気づいたホズミは、すかさず叫んだ。

「セイレイ君!!左に回り込んで!!」

「——っ!?分かった!」

ホズミの指示にセイレイは従い、大きく左方向へと迂回する。次の瞬間、先刻までセイレイが居た場所に振り下ろされるのはホブゴブリンが持つ巨大な棍棒。

間一髪で躱したセイレイに爆風にも似た土煙が襲いかかった。

彼女の指示が無ければ、今頃ぺしゃんこになっていたであろう。

「助かった!!」

「私が後方から戦況把握します!!皆は陽動をお願い!!」

ホズミはそう叫ぶと共に、ホブゴブリンから距離を取りつつ瓦礫の物陰を縫うように移動を開始した。あらゆる角度から情報収集を行うべく移動する中、彼女はとあるものを発見する。

「宝箱……!?」

ホブゴブリンの背後には、赤色の宝箱が配置されていた。普段の戦闘であれば、魔物が解錠して脅威の糧となる宝箱。

だが、今勇者一行が対峙するホブゴブリンはその宝箱にはまるで見向きもしない。

ホズミはその宝箱に勝機を見出す。

ちらりとnoiseに視線を向けて、彼女は提案した。

「noiseさん!!」

「何だ、ホズミ?」

「ホブゴブリンの後ろにある宝箱の解錠出来ますか!?もしかしたら打開の一手に繋がるかもしれません!!」

その提案に、noiseは逡巡の顔色を見せた。目を伏せた後、それからこくりと頷く。

「やったことはないが——、試してみるさ」

「お願いします!!スパチャブースト”青”!!」

ホズミはそう言いながら、迷いなく宣告(コール)する。

その宣告(コール)と共に、ホズミを中心として灰色の煙幕が舞い上がった。

ホズミの[煙幕]が、ホブゴブリンの視界を覆っていく。

「ガアッ!?」

ホブゴブリンは思わず動揺の声を上げるが、それでも構えを崩すことなく先ほどまでnoiseが居た場所に向けて棍棒を叩きつけた。

振り下ろした一撃は、大きく土煙と衝撃波を再び生み出す。その吹き荒れる衝撃波に伴い、瞬く間にホズミが放った煙幕は風と共に掻き消える。

だが、その場には既にnoiseはいなかった。彼女は素早く宝箱の前まで移動した後、腰に巻いた”ふくろ”からクリップを取り出した。

「すまない、開けるまでの間頼む!」

noiseはそう叫んだ後、戦闘をセイレイ達に任せてピッキングを開始。ホブゴブリンは無防備となったnoiseにじろりと敵意に満ちた視線を向けるが、それをホズミは許さない。

「させないっ!!放て!!」

その叫びと共に、ホズミは両手杖の先端をホブゴブリンへと向ける。

次の瞬間、両手杖の先端から鋭い矢の如き炎弾がホブゴブリンに襲い掛かった。それはホブゴブリンに着弾した後、激しい爆風を生み出す。

「ガァァァッ!!」

橙色の光に包まれたホブゴブリンから、苦悶にくぐもった叫び声が響く。

「残り3000円!!緑一回分!!」

ホズミはそう叫ぶと共に、すかさず瓦礫の影に身を隠す。灼熱の炎が掻き消えて、苛立った様子でホブゴブリンはホズミが居た方向を睨むが既に彼女は姿を隠していた。

明らかに、ターゲットをホズミに絞っているようだ。

「俺達を忘れるなっ!!」

「僕達がいることを忘れられては困るよっ」

セイレイとクウリは、目を逸らしたホブゴブリンの注意を引くべく挟撃する。

交互に鋭い連撃を叩き込み、ホブゴブリンの全身に傷跡を増やしていく。


「セイレイ君!横薙ぎ警戒!」

ホズミの指示に従い、セイレイはその横薙ぎを飛び越えるようにして回避。

土煙を舞い上げながら、唸りを上げた棍棒が空を切る。

「クウリ君!振り上げ攻撃警戒!」

ホズミの指示に従い、クウリは大きく横っ飛びに回避。

地面のタイルを巻き込みながら穿つ振り上げ攻撃が、飛散したタイルと共に土煙を舞い上げる。


回避を繰り返し、隙を見つつ攻撃を叩き込むが未だに打開の一手は見いだせない。

「っ、いつ倒れるんだよ……」

「ぜっ、はっ……はぁ……」

セイレイとクウリは常に命の危機に晒されている為、徐々に精神的に疲弊する。その時、希望の声が聞こえた。

「——っ!!皆!宝箱が開いた!!」

noiseから届く報告。それと同時に、重く鈍い宝箱が開く音がダンジョンから響く。

すかさず彼女は宝箱から取り出したのは、一振りの巨大な大鎌だった。

「大鎌……?」

「……有紀姉!それ僕に渡して!!」

noiseが誰にそれを渡すべきか逡巡していると、クウリはすかさず名乗りを上げた。

セイレイとホズミは各々の持ち武器があり、noiseは回避特化の為に大鎌は相性が悪い。その為、自身が最も最適な使い手であるとクウリは瞬時に判断。

「分かった!!……重っ」

noiseはこくりと頷き、それから大鎌を持ち運ぼうとした。しかし。

その大鎌はかなり重く、力のないnoiseは持ち上げることに苦戦を強いられる。

明らかに隙だらけなnoiseをホブゴブリンはじろりと睨む。

「noiseさん!!ホブゴブリンが見てる!!」

「——っ!!」

ホブゴブリンは手元に転がる瓦礫に近づいたかと思うと、棍棒を大きく振り上げた。

「グガアァアッ!!」

大きな掛け声とともに砕かれた瓦礫の破片は勢いのままに飛び散り、それらはnoiseへと襲い掛かる。

「くっ!!」

すかさずnoiseは横っ飛びに回避。

弾丸の如く射出された石礫は、noiseが先刻までいた場所を貫く。商品棚を穿ち、瞬く間に土煙を舞い上げる。

ちらりとその自身が居た場所に視線を送った後、noiseはホブゴブリンの懐目掛けて躍り出る。

「クウリ、今のうちに鎌を取りに行け!!」

「うんっ!」

自ら陽動を買って出たnoiseの指示にクウリは頷き、宝箱に残された大鎌へと駆け出す。

ホブゴブリンは自らの眼前に立った邪魔者を排除するべく、noise目掛けて棍棒を振るう。

「私が時間を稼ぐっ!」

だが、noiseはそのいずれも紙一重で回避。しかし、ホブゴブリンの攻撃は留まることを知らず、更に叩きつける攻撃が大地を抉り、土煙を舞い上げる。

「……わっ、わあっ……!」

吹き荒れる衝撃波と、飛び散る瓦礫が周辺に襲い掛かりクウリはその横を抜けることが出来ない。

手をこまねくクウリを助けるべく、セイレイもホブゴブリンの元へと駆け出した。

「俺も支援に入る!!隙を作るぞ!!」

「頼む」

noiseとセイレイが前線に交じり、連撃を叩き込む。だが、それでもホブゴブリンに深く傷を作ることはできない。


「……躱すだけじゃ、足りないんだ」

noiseはぽつりと呟いた。

次の瞬間。その全身に緑色の光が纏い始める。


「姉ちゃん!?」

その様子を瞬時に悟ったセイレイの目が驚愕の色を宿す。

「noiseさん!?でも、宣告(コール)してしまうと……!」

ホズミは支援額を使い切ることを恐れ、止めるべきかどうか戸惑いを見せる。

だが、noiseの覚醒の宣告(コール)は止めることが出来なかった。

ホブゴブリンは突如彼女の身に起こった現象に戸惑い、警戒するようにその動きを止める。


「……ここに誓う。私が皆を守らなければ、私が皆の為にならなければ。……そうずっと自分を押し殺して、自分を見失い続けて。それを繰り返していた」

noiseの脳裏を過ぎるのは、自らを守ろうとしてくれる、頼ってくれる人達。

自分は強いから。大人だから。そうやって自らの本音をひた隠しにして、逃げてきた。

偽り続けて、目を逸らし続けて。常に自分をよく見せる為にハリボテで居続けて。

本物の自分さえ分からなくなった。

——ふと、総合病院ダンジョンで放ったディルの言葉が蘇る。


『……逃げんじゃねえよ。自分自身の言葉からさ。自分が発した言葉の意味から逃げるな』


——もう、逃げない。受け止めるんだ。

「私は、もう自分の本音から目を逸らさない。スパチャブースト”緑”!!」

次の瞬間、noiseの左腕に光の粒子が集い始める。

それは瞬く間に形を作り始め、気づいた時には光を帯びた金色に輝くラウンドシールドが生み出されていた。


To Be Continued……

【開放スキル一覧】

・セイレイ:

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

・ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

・noise

青:影移動

緑:???

・クウリ

青:浮遊

緑:衝風

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