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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
プロローグ
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【プロローグ】最後の配信

砂石 一獄と申します。

四作目である本作は“ダンジョン配信もの”として描きます。

何卒よろしくお願いします。

私はきっと、彼が命を賭して行った配信を忘れることは出来ないのだろう。

有名なゲームからもじっただけの名ばかりの[勇者パーティ]。彼らも本来なら争いなど知らぬ、純粋な少年少女であったはずなのだ。

なのに、今は世界を取り戻す為の戦いに身を投じている。いつしか名ばかりだったはずの勇者パーティは、本物の勇者になっていた。

……本来であれば、大人達が立ち向かうべき戦いなのに……私達は無力だ。

だからこそ、私達は彼らを少しでも助けるためにこのスパチャを送る。


-これは、小さな電子媒体の中で繰り広げられる、壮絶な戦い-


勇者一行は魔王が待ち構える王室へと続く、重厚感ある扉の前に集う。彼らの周囲を忙しなく動き回るのは、一台の球状のドローン。

ドローンは備え付けられたカメラを動かし、勇者達の姿を捉える。モニターから映し出されるホログラムから、勇者達を応援するコメントが次から次へと流れる。


[いよいよ因縁の決戦か]

[アーカイブ追ってきました]

[頑張ってください!]

[情けないがお前達に託すしかない、絶対に生きて帰ってこい]

[ずっとファンです]

[お願いします勇者様、どうかこの世界を取り返してください。でなければ娘もあの世で報われません]

[死んで欲しくないです]

[俺達の世界を魔物に奪われるな]


白いコメントフレームに囲まれたその文字列が、数多の人々の思いを乗せて踊る。

その中に異なる色のフレームに囲まれたものがあった。


[これを使え!! ¥50000]

[世界を救ってください ¥20000]

[私を現実に返してください。これは未だこの悪夢から醒めることのない私からです ¥50000]

[微力だけど、使って ¥5000]


青、緑、黄、赤……と様々な色のコメントフレームに彩られたそれらは、“スーパーチャット”と呼ばれる、いわゆる視聴者からの投げ銭だ。

次から次に流れるコメントを一つ一つ追うように勇者が目を通す。

金色の髪を揺らす彼は瞳を潤ませつつも、気丈に笑みを作った。そして、覚悟を決めたように、カメラに背を向け扉にゆっくりと両手を添えながら宣告する。

「皆……ありがとう。俺達は魔王を倒すよ。センセーもきっと空の上で応援してるはずだから」

彼の言葉に、続く仲間達も各々の武器を握りながら頷いた。彼らを取り巻くように動くドローンは、勇者の頭上で制止する。

『さて、皆。世界に新しく一ページを刻む準備は出来た?』

どこからともなく、少女の声が辺りに響く。それはドローンのスピーカーから発せられていた。

仲間達は覚悟の決まった顔で改めて頷く。勇者は大きく深呼吸し、希望に満ちた真っ直ぐな笑顔を浮かべた。

「大丈夫だ!世界を描く覚悟は出来てる!!」

『分かった、それじゃあ……()()()()()()()()()開始だね!!』

スピーカーから響く掛け声をサインとして、彼は扉に体重を掛けた。扉が軋む音が、周囲に重く響き渡る。

その先に広がる世界は、まるで大樹の根元のようだった。元は大理石で作られたであろう床面が、石材で作られたであろう壁が、王座から伸びる木の根に覆われていた。

王室の中へと勇者一行は周囲を警戒しながら入っていく。やがて彼らの視線は玉座へと向けられる。

そこに深く足を組んで待ち構えていたのは、他の誰でもない魔王本人だった。

魔王はゆっくりと身体を起こし、不届き者である勇者一行を冷笑する。

「来たか、勇者よ」

短く告げたその言葉は、重く、鋭い威圧感を放っていた。

勇者達はその声に思わず身震いし、怯む。その中を盗賊は彼らの前に立つように歩みを進める。

白いカッターシャツに紺のジーンズを身に包み、長い栗色の髪を後ろに(まと)めた盗賊。彼女は毅然とした表情を崩さずに右手に携えた短剣の切っ先を魔王へと向けた。

「私……いや、私達はお前を倒し、世界を取り戻す。そして……私は私であり続けるんだ!!」

「我を倒す、か……くく……!ははははははははは!!!!」

突然高笑いをした魔王に盗賊は激しい剣幕を見せる。

「何が可笑しい!!」

今にも襲いかからんと腰を低くし構える盗賊。それに対し、魔王は右掌を彼女の方へと向けなだめるような動作をした。

「はは……まあ待て。四天王を倒したお前達を我は評価しているのだ。では、勇者よ。まずは()()と行こうじゃないか」

「提案……?」

その譲歩は盗賊ではなく、リーダーである勇者へと向けられる。勇者は戦闘態勢のまま、怪訝な表情を浮かべた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「は……?」

勇者は呆れたような表情を一瞬作ったかと思うと、徐々にその様相は怒りへと変化していく。

「勇者、突っ走っちゃダメ!!」

「■■……!」魔法使いが止める声も届かず、何かを呪詛のように小声で呟く。すると、システムメッセージがコメントログに流れた。


[勇者:5秒間跳躍力倍加]


そのログが表示されるや否、高く跳躍。剣を両手で握り、迷いなく上段から斬りかかる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

魔王は不敵な笑みを浮かべながら、頭上へと振り下ろされる一撃を右手で難なく受け止める。

「交渉決裂だな」

「勇者、下がってろ!!」

彼らの前に躍りかかるは盗賊。逆手に持った短剣を振るい、魔王の喉元を狙い斬りかかった。

しかし、魔王は後ろに身を引き、容易くそれを回避。彼女は忌々しげに舌打ちするが、攻撃の手は休めない。返す刃で次から次へと流星の如く斬り掛かる。だが、魔王は悠然とあらゆる方向から襲いかかるそれを捌き、(かわ)し、いなしていく。

その間に勇者は後退し、代わりに前線に躍り出た戦士と入れ替わった。

脱力した雰囲気を持つ、藍色の髪を伸ばした彼は悠長に欠伸をする。そして、小柄な体躯に似合わぬ大鎌を、左手に構えた。

姿勢を低くし、力強く大地を蹴り上げる。

「よっと」

一瞬で魔王の元へと距離を縮め、大鎌を両手持ちに切り替え大きく振りかぶった。

「盗賊ー!僕の番っ!」

気の抜けたような声を掛けられた盗賊は直ぐさまバックステップ。魔王から距離を取り、戦線から遠ざかる。

その間に戦士が横薙ぎに振るう大鎌は魔王の胴元を捉えた。しかし。

「ふん、これが我に楯突(たてつ)く者の力か?ぬるいな」

魔王が手を真上に振り上げる。すると、突如として足元のタイルがひび割れた。

そこから伸びた蔦が戦士の振るう大鎌に絡みつき、彼の一閃を妨害する。

戦士は大鎌の柄から手を離す。そして、困ったように笑いながら、魔法使いの方を振り返った。

「ええー……?魔法使いー、なんとか出来る?」

「はいはい……戦士下がってね」

「うんっ」

その場からそそくさと離れる戦士を眺め、苦笑を浮かべる魔法使い。続き両手で抱えていた杖を正面に突き出す。やがて、彼女の足元を囲うように魔方陣が生み出された。

「多分……これで、行けると……思うんだけ、どっ!!」


[魔法使い:炎弾]


システムメッセージがコメントログに流れると共に、彼女の杖先から鋭い矢の如く炎弾が放たれる。それは、魔王の前方に盾の如く伸びた蔦の束を襲う。

炎弾が直撃すると共に、激しく土煙が舞い上がる。爆風が魔法使いの迷彩柄の帽子から覗かせる長い黒髪を大きくなびなせた。

その中で、蔦に引火した炎が徐々に絡み付いていく。

大鎌を纏っていた蔦が燃えたことにより、重みを支えきれなくなったそれから零れ落ちる。

「ありがとー」戦士はにこりと微笑みながらするりと落ちた大鎌をキャッチした。

「どういたしまして……勇者っ、今だよ」

彼女が勇者に視線を向けるとほぼ同時に、彼は駆け出していた。大地を蹴り上げ、徐々に加速していく。

「■■……」

彼が再び小さく呟くと共に、その姿を青白い雷が覆う。


[勇者:雷纏]


大地を這う木の根を焦がしながら、彼は駆ける迅雷と化した。辺り一体に迸る稲妻。

土煙の中で未だ姿の見えない魔王の元へと駆け抜ける。

「小癪な……!」

徐々に土煙が晴れ上がり、忌々しげに口元を歪める魔王がその姿を現す。しかし、同時に勇者は魔王の足元へと潜り込んでいた。


[いけーーーー!!!!]

[勇者!!]

[俺達の世界を取り返せ!!!!]

[世界の半分だけじゃない、全部俺達の世界なんだ]

[勇者様!!]

[頼んだ!]

[真っ暗な世界に天明を!!!!]

『いけええええっっっ!!君は偽物じゃなんかない、本物の勇者なんだあああぁぁっ!!』


ドローンのスピーカーから少女の大声が響く。

それが表示するそのコメントをチラリと見やった勇者はニヤリと楽しげに口元を歪める。そしてそのまま、魔王の首を切り裂かんと片手剣を大振りに構え、高らかに宣告(コール)した。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


[勇者:竜牙]


この世界に、脇役は誰一人としていない。


To Be Continued……

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