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後編

「んじゃ、Q寺の駐車場で。まだ暗いからヤバい時は歩道に避難しとけよ~」


原付の寿崎は気楽に言って、先行していった。いいな、原付。でも部活引退したら車の免許優先何だよなぁ・・


「俺らも行こう。大回りでも病院前を通った方が見通しがいいからそっちから回ろう。遅刻しても命懸ける程じゃない」


「そりゃそうだ。完全同意!」


反射板ベストを着てる俺が殿を務めて、俺と込宮も次の映えスポットへと出発した。


寿崎の悪足掻きにどれくらい効果があるか知らないが、豚丼は食えるし、コーヒーも飲める! いやっほぅっ



AM5時50分頃、市立病院前に差し掛かる。駐車場めちゃ広いな。人気が無いが、エントランスに明かりは灯っていた。


と、前を走る込宮が片手で右折を促してきた。工業団地の通りに行った方が近いが避けるようだ。

時間的に微妙だが、搬出入のトラックを警戒したのかもしれない。込宮は慎重だ。


俺達は右折した。安全第一!


コンビニ、ガソリンスタンド、廃品置場、を過ぎるとどんどん山の中に入ってゆく。木々と土の発酵臭がする。辺りはかなり明るくなってきた。

気温というより陽光が暖かい。蒸発で湿度も少しあがる。寺に着いたらカイロをもう1つ整理するか。


込宮は軽そうな自転車の性能でリカバーしてるっぽい。体温が上がり難いんだろう。


T川の支流の川沿いに出た辺りで川辺に鷺を3羽発見。


「鷺!」


インカムとか持ってないから単語を叫ぶ。


「おーっ!」


会話成立。魚を頭からモリモリ食べてる鷺を見送りながら、川沿いを飛ばしていった。



無事、Q寺の駐車場にAM6時5分に到着。5分遅れたな。

時間的にスカスカの駐車場の端に寿崎の原付は停まっていたが、寿崎の姿は無かった。


「寿崎、いないじゃん?」


込宮は無言で寿崎の原付の車体に触れた。


「まだ温かい、そう遠くには行っていないはずだ」


「漫画やアニメで見たことあるヤツ」


「言ってみたかった」


言いたかったか・・


ここで待ち合わせた後の行き先はわかっている。下見にでも行ったんだろうと、駐車場にあった看板の周辺地図を頼りに、Q寺ではなく『熊、マムシ、蜂、注意っ!』と警告看板のある林の中への細道へと進みだした。

中々の獣道だ。


「込宮、自然の驚異しか感じないワケだが?」


「映える為にはそれなりの対価を支払え、ということだろう」


「・・俺、唐辛子スプレー持ってきたぜ?」


「ナイス」


熊は相討ちになりそうだが、蜂、蛇、イノシシまでは撃退できそうだぜ。


暫く薄暗い鬱蒼とした林道を進むと向こうから明かりを持った人影が現れた!


「モノノケが来たぞ?」


「寿崎だな」


「うお~い」


寿崎だった。


この先、道が分かれているのと荒れていたりする事があるらしく、下見をしていたらしい。


「というかさっきのサンシャインTリバーの反響! 閲覧者数536っ、高評価49っ、フォロワー2人になってるっ!」


「この時間に見てる人いたのかよ?」


「物好きだな」


存外好評らしい。



ともかく合流した俺達は第2の映えスポットに到着した。


それは、古びた木の柵に囲われた楠の巨木だった。


『Q寺近くの楠の神木』、無病息災、安産祈願、古傷の快癒等を祈願するパワースポットらしい。


「ほぉ~っ」


「想定より迫力あるだろ? マジで」


「何か精油? の匂いも強いな」


正に森の主の迫力の幹だ。


「戦中は軍艦の油にされ掛けたらしいけど、ギリ終戦になって免れたとか」


「へぇ~」


「戦国時代の方がまともに補給してたろうよ」


「因みに、柵と林道の管理はQ寺、土地は市、木は地主、木その物の管理は林業組合と有志の方々が行っていて、観光利用に関してはちょい揉めてるらしい・・」


「えっ? ここ立ち入り禁止??」


「それは大丈夫っ。ただ、有料にして辺り一帯を含めて森林公園の散策コースにしよう、って話はあるっぽい」


「ならこうして素で見学できるのもそう長くないかもな・・」


3人で沁々してしてしまったが、一応手を合わせてから、撮る物は取ろう! とパシャパシャ撮りまくりアップした。


残るは1ヵ所のみ。



これが遠かったっ。市の端から端へ移動するくらいの勢いだ。


まぁ寿崎も考慮したらしく、幸い途中坂はあまりないルートを取れる映えスポットだったが、遠いの何のって!


もう明るくなったのと暑いので俺の反射板ベストや込宮の上着等、飲み物や財布やスマホ以外のちょっとした荷物は寿崎に運んでもらったが、

俺と込宮はQ寺の駐車場からAM6時50分頃に出て、合流地点のK神社近くのコンビニの駐車場に着いたのはAM7時50分頃だった。


それなりにバテてオレと込宮が到着すると、普通にコンビニ内のイートインスペースで寛いでいた寿崎はなぜか大ウケして、しかしアイスクリームを2つ買って出てきた。


「いや、実際走ってみると『めちゃ遠いな』と思ったよ、ごめんな。アイスも奢るわ。どっち食う?」


「・・ペパーミントで」


「・・バニラ、無いか。チョコでいい」


俺と込宮は無心に駐車場でアイスクリームを完食し、トイレを済まし、2人ともゼリー食を1つずつ買って出て、歩いて行けるくらい近いというラスト映えスポットに寿崎の案内で向かった。途中、


「楠の反響も凄かったぞ?! 連投も効いてる! 時間も良くなってきたし、閲覧者数2149っ。高評価137っ、フォロワー5人っ。イケるぞこりゃっ?」


例によって寿崎は報告してきたが、


「ああ・・」


「かもな・・」


俺達は豚丼屋までまた小一時間走る事で脳ミソが一杯であんまり話が入ってこなかったぜ。


駐輪はまだコンビニの店長が来てなかったから、たぶんタイ人のバイトの人に聞いたら「イイヨ~」とのことで良し、とする。

駐車場の裏手から入れる草地を抜けると普段余り使われない方のK神社の参道に出る。そこを少し進むとここも脇の林道の入り口があった。

入り口には『イノシシ、マムシ注意』の立て看板。


「・・ここは熊と蜂は出ないらしいぜ?」


「安全だな」


完全に顔が劇画タッチになってる俺と込宮は寿崎を困惑させつつ、林道へと進みだす。


立地や時間帯が違うこともあって林道を進むと騒がしい国道から離れてゆく感覚が強く、静けさが増していった。


「段々浄められてゆく感じがする」


「与田、マジ消えるなよ?」


「俺は昨日、婆さんの仏壇の掃除をしたからセーフだ」


「・・・」


俺はモノノケじゃないっ。


そんなやり取りしつつ進むと、岩から染み出るようや細い滝の前に出た。近くに祠が祀られていた。たまった水は小川になって草地を縫うようにして、林の中に消えていった。いつかT川に合わさるんだろう。


『K神社近くの細滝』開運、学業促進、商売繁昌、悪縁断ちの効果があるとされるパワースポット。他の2つ違い、江戸時代辺りから地元ではうっすら信奉されていたらしい。


「マイナスイオン出てるから物理で効きそうだ」


「ちょっとスーパー銭湯にもこういうのあるよな?」


「寿崎」


込宮のツッコミが入りつつ神社付属だから、うろ覚えな神道式で礼をしてファイナル撮影を敢行!

滝壺周辺には小魚や蛙、イモリまでいたのでそれも撮っていると時間がAM8時20分を過ぎてしまい、俺達は慌ててコンビニに戻ると出発の支度を整えた。


「駅まで自転車用コースが何本かあるから、遠回りでも使った方が疲れないし安全だ。10分くらい遅れても何とかなるし、ゆったり来いよ? 俺、駅の本屋で待ってるから」


「わかった」


「お前も事故気を付けろよ?」


「大きい国道は避けとくわ~」


寿崎車、発進。俺達も軽く水分を取ってからコンビニの駐車場を出た。



結論から言うと駅までの道は楽だった。やはり自転車道2本、合わせて30分走ったのが大きい。楽で安全で、気力体力がかなりセーブされる。後半、思い切って5分程、休んでゼリー食を腹に入れたのも効いた。


腹に物が入ってるから早くは走り難いが、ペースを保って進む分には水分と栄養がチャージされてくのがわかる。


AM9時31分、俺達はT駅側の本屋の駐車場に到着。2階の窓の近くの試読用の椅子に座っていた寿崎はすぐ気付いて降りてきた。


「早かったなっ。アイスは? もういいか?」


「ゼリー入れた! 豚丼行こうぜっ」


「いやまず駐輪場だ。学生証あるか?」


「あるあるっ、無いと原付は痛い!」


俺達はバタバタと移動し、学割で駐車して、AM9時45分に豚丼屋の行列に並べた。前に並んでるのは10名だけ。問題無し。しゃっ。


ここから11時の開店まで、俺と込宮は立ったまま寝られる自信があったが、


「それから見てくれ! 与田っ、込宮っ」


寿崎が目の色を変えてスマホを見せてきた。


「おっ」


「凄いな」


閲覧者16712、高評価1016、登録者26人!!


「閲覧者と登録者では勝てなかったが、高評価数で勝った! 試合に負けてっ、勝負で勝ったぞっ? ありがとぉう!!!」


「お、おう・・」


「勝負では勝てたのか??」


よくわからんが、寿崎に熱烈に握手された俺と込宮だった。



目当ての豚丼はこってり美味しかったがその後の報酬のコーヒーはより最高っ。いい仕事した感あった。

部で鍛えたマッスル、使い切ったぜ。



「じゃ、な」


「お疲れー」


「2人は家帰ったらガッツリ昼寝した方がいいぞ?」


「するする」


「明日の部活で足手まといになる予感しかしないな・・」


俺達は駐輪場で別れた。


反射板ベストはサイクルバックに詰め、殆んど空になった水筒も軽い。


「・・・豚丼、旨かったなぁ。つか、バイトしてぇ。あの丼なら月3回はイケる。あ、帰りのルート、どうすっかな?」


俺は道が分かれる交差点近くの路側帯に後ろを確認してから一度停まって、スマホの地図を確認した。


と、近くを大学生世代が若い社会人か見極めが難しい感じの女性2人がスマホを見ながら歩道を歩いてきた。駅の方から来てるから、百貨店かミニシアターか? まぁどっかしら行くんだろう。


「市に開運スポット結構あるんだ~。というか、サンシャインTリバーと楠の御神木とK神社の滝! この子達、午前中回るの遠くない?? 自転車でしょ?」


「これは纏めて載せて閲覧増やす作戦だよ、実際は別の日に撮ったのを編集編集」


「うそ~、最近の高校生、何か必死ねー」


「この年頃は自己顕示欲の塊だから、10代の心の闇ってヤツ」


「知りたくなかったよ」


女性2人はどう考えても寿崎のアカウントを哀れみながら歩き去っていった。


動機にそこそこ闇があったのは事実である。が、


「・・全部は載せてない、ふん!」


俺は小声で捨て台詞を呟き、一番楽なルートを選び、安全確認してからとっとと自転車を発進させた。


午後1時にもなってない。低速で、未練がましく少しだけT川の方に寄ってみる。


また風が抜けた。

そしてソースが焦げる匂い。


時間も場所も違うから何もサンシャインな事にはなってなかったけど、河原で犬を連れた家族連れがBBQをしていて、興奮した犬が川の浅いとこに入ったり出たりしてる。


「犬、暴れてんな」


うむ。犬に免じて、あとは帰って昼寝にするか!


ソースの匂いでまた腹が減ってきたぜ。

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