思ってたのとちょっと違うが、まあいいか
「信じるべきはあの方、勇者イリスです!」
みたび群衆がざわついた。この場に集まっている人々の多くが属していた旧王国。その王国で勇者イリスの名を知らぬものはいないほどの存在だった。
かつて劣勢だった王国軍を立て直し、数々の戦いで王国軍を撃破し、歴史上初めてあの難攻不落のヴレダ要塞を陥落せしめた『不敗の勇者』。多少誇張もあるが、それが西大陸でのイリスの評価だった。
「あんなガキが勇者イリスのはずないだろうが!」
最初に叫んだ男が反論した。しかし、馬車の男は冷静に反論する。
「いいえ。私は知っています。あの方は勇者イリスです。何故なら、私はかつて王宮に仕えており、勇者さまのお姿を見かけたことがあるからです!」
敢然と言い放つその姿にイリスは、
「あのオッサン、一番いいところを持って行きやがって……」
そして、鼻をすすった。
「だが、ありがとな、カーンのおっさん」
「みんな、勇ミャのことみてたのにゃ」
「ああ……」
「信じられるか! あんたが王宮の役人だって証拠も、あのガキが勇者だって証拠もないじゃないか!」
男が再反論した。しかし、それは彼にとって最後の反論であった。
「いや――俺も見たことあるぞ。確かにあれは勇者イリスだ。俺はヴレダ要塞まで物資を運んだことがあるからな、その時に見た」
「言われてみりゃあ、確かに勇者イリスだ。オレはヴレダ要塞で一時期兵士をやってたから知ってるぞ」
次々に「おれもだ」「おれもだ」という声が挙がり始めていった。
イリスはヴレダ要塞を奪取してから“神”が降臨するまでの約半年間、ヴレダ要塞に兵を集め、またそこに物資を運び込むための街を作った。そこに関わった人々はこの広場に集まる人たちの中にも多くいたのだ。
「ほ、本物ならいいんだよ、それで……」
最初に異を唱えた男は振り上げた拳をそっと下ろしながら腰を下ろした。
やがて、人々の話し声は落ち着き、皆が祈るようになった。
「イリス……」「勇者イリス……」「神リリム」「リリム……」
「思ってたのとちょっと違うが、まあいいか」
「終わりよければすべてよしなのにゃ」
頭をかくイリスの背中をミャーリーが叩いた。




