神リリム
やがて、イリスの言う通り破片が落ちてこない――身に危険がないことを悟ったのか、人々は落ち着きを取り戻し、近くの倒れている人や親とはぐれた子供を助けてやる人まで現れはじめた。
「よかった、なんとかなりそうだ」
「さすがは勇ミャにゃ」
「お前なぁ」
イリスと『聖女』――ミャーリーが安堵の息を漏らす頃、広場では別の、イリスの想定していなかった事態が起こり始めていた。
「神……」「神リリム……」「リリム……」「リリム……」
イリスが異変に気づいた。
「おい、どうなってるんだ……?」
「様子がおかしいにゃ」
辺りを見回すと、多くの人がリリムの名を口にしながらそれぞれ近くの鏡、あるいは水面に向けて祈り始めている。
「リリム」「リリム」「リリム」「リリム……!」
「リリム、リリム、リリム、リリム……!」
最初一部で始まったその動きは徐々に広がっていく。
「こりゃあ……あとでリリムに謝らないといけないな」
「何が何だか、ミャーにはわからないにゃ」
そもそも、ここに集まっていたのは降臨祭に『聖女』の説法を聞きに来たとりわけ信心深い人たちである。
彼らはこの場で“神”の真実をみせられ、信仰心が弱っているところに“真正なる神”の登場である。そちらになびく者がいてもおかしくはない。
「しかしこれはこれで利用しがいがある。災い転じて福となすってやつだな。おい、ミャーリー!」
「みゃっ!?」
「この状況を利用するぞ。『聖女』の力で“真正なる神”への信仰を植え付けろ!」
そう言ってミャーリーから奪ったクリスタルを投げ返す。
「みゃみゃっ!」
言われるままにミャーリーはローブを再び被り、神聖なる雰囲気を醸し出しつつも説法を再開した。
「祈るのです。わたし達のために降臨してくださった“真正なる神”リリム様にその御心を捧げるのです。さすれば、リリム様の力はいや増し、偽の神を必ずや打ち倒すことでしょう。それこそがこの世界で永遠に続くと思われていた戦いの歴史に終止符を打つ唯一の道なのです」




