それがわたしから貴方に与えられるせめてもの慈悲です
「くそっ、くそっ、くそっ!」
“神”が手を振り下ろすたびに光線が飛んでくる。しかしそのすべては同じように結界に阻まれ弾き飛ばされ効果を発揮することはない。
受けるデルフィニウムも最初こそ驚きのあまり一歩後ずさったが、今となっては顔色一つ変えることなくただじっと胸に下げられたクリスタルを“神”に向けるだけだ。
そしてそれはこの映像を見ているペイントンのほぼ全ての人たちも同じだった。
効かない攻撃を何の工夫もなく繰り出す“神”。そこには威厳など微塵もなく、現状を受け入れることができず、悔しさのあまり神の造形の顔を醜く歪め、やけくそに技を繰り出す哀れな存在がいるだけだった。
これではどんなに信心深きものでも幻滅するだろう。
その証拠に、“神”の繰り出す光線は一撃、また一撃とその威力が衰えていた。
「どうしてだ! 僕はこの世界を作った神だぞ! 僕の思い通りにならないことなんて……。くそっ!」
その言葉は途中で途切れた。“神”の肩が何者かに叩かれたからである。
「…………!」
驚きの表情で振り返る“神”。そこにはいつの間にかリリムがいた。デルフィニウムに必死で、リリムの存在をすっかり忘れていた。近づいても全く気づかないほどに。
「おとなしく滅びなさい。それがわたしから貴方に与えられるせめてもの慈悲です」
「何が慈悲だ! それは神が貴様らゴミ虫に与える――ぐわぁぁぁぁぁっ!」
“神”が絶叫で悶える。『カテドラル』屋上で腕を押さえながら痛みにのたうち回った。
リリムの魔剣ソウルファイアが“神”の肩口から胸にかけてばっさり斬ったのだ。
「い、いたいいたいいたいいたいいたいたい……!」
情けなく転がるその姿は“神”どころかヒトとしての尊厳すら見当たらない。
「い、いたいいたいいたいいたいいたいたい……!」
その光景は同時にペイントンの人々も見ていた。むろん、『聖女』がいる広場に集まった人々も同様だ。
「なあ、あれ……」
「ああ。あれ本当に“神様”なのか……?」
「信じられないわ……」
「わしらの信仰とは一体……」
朝早くから神のお膝元に集まるほどの信心深い者であってもこの有様である。広場には失望が広がっていった。
いつの間にか朝から止まることのなかった聖女の説法が止まっていたが、それに気づくものは誰ひとりとしていなかった。
しかし、その状況は長くは続かなかった。
「おい、なんかおかしくないか?」
「何がだ……? うわっ、“神様”の身体が……!」
「リリムたん、下がれっ!」
ルーヴェンディウスの叫びに本能的に“神”から距離を取った。
『カテドラル』の屋上でのたうち回っていた“神”の動きが止まったかと思うと、震えながらうずくまり、まるくなったその背から黒い靄のようなものが溢れ出した。
「ふ、ふふふふふふふふ……」




