その場にずっといて、ずっと役に立てる
「どうしてわたしが適任なの? メリアさんでもいいと思うの」
メリアは騎士として超一流だ。魔法も使えるから魔道具の使用に問題はない。デルフィニウムがそう考えるのも当然だろう。
「いや、これはデルフィ、お前が適任なんだ」
イリスはデルフィニウムの首に掛けられたクリスタルを手に取る。
「これはルーヴェンディウスの特別製だ。無理言って用意してもらった。普通のクリスタルとは違って、強力なハッキング機能が備わっている」
「はっきんぐ……なの?」
「ああ。当日は『聖女』の説法がペイントン全域で中継される。その中継を乗っ取るってことさ」
「それは……すごいの」
デルフィニウムが目を輝かせた。
「ルーヴェンディウスによると、普通の映像用魔道具の十倍以上の魔力が必要らしい。魔力が多ければ多いほど長時間使用できる。そして、“神”との戦いはおそらく一瞬では終わらない」
「それで、わたしの出番というわけなの」
あとになってわかったことだが、リリムによればデルフィニウムの魔力は〈魔王因子〉をもつリリムに勝るとも劣らない魔力量を持っていた。
「ああ。お前にしかできないことだ」
そう言われてデルフィニウムは愛おしそうに首のクリスタルを撫でた。
「うれしいの……」
「…………?」
イリスが首を傾げる。
「今までのわたしは、勇者さまが言ったタイミングで言った魔法を使うだけで、それ以外は役立たずだったの」
「そんなことは……」
イリスが否定しようとするのをデルフィニウムが制する。
「でも、今度は違うの。直接戦いには参加しないけど、その場にずっといて、ずっと役に立てる。それがうれしいの」
ああ、とイリスは思った。これまでイリスはデルフィニウムを適材適所として使っていたと思ったが、デルフィニウムの想いは違ったのだ。
魔道具こそがデルフィニウムの、もしかすると世界一の魔力量をいかんなく発揮できるのではないか。それこそが魔法使いデルフィニウムの本当の姿なのではないか。
この時のイリスの考えはこのあとすぐ、ペイントンに戻ったときに早速結実する。
『カテドラル』屋上に立つ今、デルフィニウムはクリスタルだけでなく、数多くの魔道具を装備している。
攻撃を無効化するもの、魔法を無効化するもの、温度調節をして快適にできるもの、魔力を自動回復させるものまである。
それらのほとんどはリリムとルーヴェンディウスのもので、彼女らが面白半分に装備させたものであったが、現実に今、戦いが行われているペイントン全域で最も安全なのはデルフィニウムの周囲二メートルなのだ。
これこそがデルフィニウムの真骨頂。魔道具使いデルフィニウムだ。これほどの魔道具を一度に装備できるものは世界広しといえど、他にいない。




