燃え尽きよ
突如上空に現れた巨大な火炎に皆が驚いていた。感情がない戦闘マシンのように思われていたヴァーチャーたちも動きを止めて上空を見ているほどだ。
火球はその大きさを少しずつ増しているように思われた。
巨大化しているのではない。少しずつ近づいているのだ。
それにあわせ、周囲の気温が少しずつ上がってくる。じりじりと炙られるような暑さ――熱さが皮膚を焼く。
その火球はやがてゆっくりと大地に落着した。ヴァーチャーに埋め尽くされている領域のど真ん中に。
「うわっ……!」
訓練された兵士たちが思わず防御態勢を取るほどの熱波と衝撃波が襲いかかる。閃光が目を焼く。
閃光と轟音が収まったとき、そこに大きな穴が空いていた。
地面に空いたクレーターではない。大地を覆い尽くすヴァーチャーたちが焼き尽くされ、ぽっかりと穴が空いたのだ。
しかしヴァーチャーの数は尋常ではない。低きに流れる水のように、空白地帯に周囲のヴァーチャーが怒濤の勢いでなだれ込んできた。
そこにさらに追い打ちをかけるがごとく、今度は天から火炎弾の雨あられが降り注いだ。
「――――――――ッ!!」
果たしてそれはヴァーチャーたちの悲鳴だったのだろうか。火炎弾は空白地帯に押し寄せるヴァーチャーも、その周囲にいるヴァーチャーも分け隔てなく焼いていく。
「オイ、誰カイルゾ!」
最初に見つけたのはヴェーテルだった。ヴェーテルの指さした方をグロムも、周囲の兵士たちも見た。
山がちの地形にあってそう珍しくもない岩場の上に一人の男が立っていた。
いや、一人ではない。その後ろに同じような服装の男たち女たちが並んで立っている。
その数、およそ三十。
濃緑色のローブに身を包み、背丈よりも大きな杖を両手で持ち、今も一心不乱に呪文を唱え火炎弾を投げつける者たち。
“神”の降臨で帝国が崩壊した後、行方不明となっていたエルフ族の長、フルメヴァーラを中心とした魔法兵団。
そして――
「おのおのがた、お待たせしましたな!」
魔法兵団の前に立つ、巨大な黒い馬に乗った燕尾服の男性。
「ナ、ナンデアイツガ、ココニイルンダヨ……!?」
皆が驚くのも無理はない。リヴィングストンの解放後、いやそれ以前から彼が戦場に立つ姿を見たものは誰もいなかったからだ。
元・リヴィングストン領主代理、元・帝国宰相で今はこの地に生まれながら『使徒』に列せられた三人のうちの一人、アドラメレクであった。
『使徒』に列せられたデモン族の男性は手に持ったスティックを大きく掲げると一言。
「燃え尽きよ」
すると上空に再び巨大な火球が出現した。先ほどヴァーチャーの群れを焼いた火球と全く同じものだ。
それを見た一同は唖然としたが、驚くには値しない。
『強いものこそ尊ばれる』と言われる旧帝国――東大陸において、第六皇子の領地を代理で治める人物が凡庸であるはずがないのだ。
轟音と灼熱、そして閃光が再び大量のヴァーチャーを焼く。
「おのおのがた、今がチャンスですぞ。リリム様に勝利を捧げるのです!」
呆気にとられていた将兵達はその一言で己のやるべきことを思い出した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
士気を取り戻したかつての帝国兵達は勢いづいて再び無限とも思えるヴァーチャーたちを押し返し始めた。




