まずいぞ。囲まれて……
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「――――――――ッ!!」
男たち女たちの雄叫びと、声とも認識できない高周波の音が激突する。
ルーヴェンディウスらの計略によっておびき出された『使徒』ケルヴィムらはアトラスたちの活躍によりほぼ駆逐された。
しかし戦いはそれで終わりではなかった。ケルヴィムらは死に際に大量の『使徒』ドミニオンを作りだしたのだ。
それだけではない。ドミニオン達も劣勢になるや否や新しく『ヴァーチャー』と呼ばれる『使徒』を呼び出したのだ。その能力はドミニオンより劣るものの数は数倍多い。
「ふんっ!」
ドワーフの戦士がその屈強な腕に掴んだ愛用の斧を振り回す。斧はヴァーチャーの胴に突き刺さり、ヴァーチャーの一体はあえなく膝をつき絶命した。
しかしその隙に横合いから四体のヴァーチャーたちが襲いかかってきた。
「…………!!」
戦士の斧は今しがた倒したヴァーチャーの身体に突き刺さったままで対応することはできない。戦士の目にヴァーチャーたちの細剣が大写しになる。
それらがドワーフの胴に突き刺さるかと思われた直前、ヴァーチャーたちの動きが唐突に止まり、そのまま糸の切れた人形のように力を失い倒れていった。
「大丈夫か!?」
倒れたヴァーチャーの山からドワーフを引っ張り出したのはエルフの戦士だ。二人はいつも喧嘩する仲であったが、頼りになる男であることには間違いない。
「すまない。それにしてもこいつら……!」
辺りを見回すと、周囲はヴァーチャーだらけになっていた。いつの間にか孤立してしまったらしい。
「まずいぞ。囲まれて……後ろだ!」
「何っ!? うわぁ……!」
ドワーフの戦士が注意喚起する間もなくエルフの戦士がくずおれた。背後から大量のヴァーチャーたちに押しつぶされたのだ。
「くそっ、くそっ!」
ドワーフの戦士がエルフの戦士を助け出そうと必死に斧を振るが、倒す数よりも新たに現れる数の方が多く、どうにもならない。
やがて、ドワーフの戦士も雪崩のように押し寄せるヴァーチャーたちの中に埋もれていった。
グロムが率いていた『異教徒』、ルーヴェンディウスの名代マーガレットが率いていた部隊、アトラスが率いていた『信者』、そしてリヴィングストン壁内に温存されていた部隊の連合軍は総計二十二万になんなんとしていた。
当初はその圧倒的な数的優位によって『使徒』を圧殺していたが、ドミニオン、そしてヴァーチャーの登場によって戦局は逆転した。
リリムによって鍛えられた連合軍の兵士たちは個々の能力ではヴァーチャーたちにも引けを取らないものを誇っていたが、数倍にもおよぶと思われる数の暴力によって徐々に押し返されている状況にあった。
リヴィングストン周辺の山がちの地形は、期せずして帝国統一戦争後としては最大の軍勢同士による正面衝突の様相を呈しつつあった。




