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なんでもいい。ひとつ言ってみてよ

 床はどれくらいの速度で上昇していたのかわからないが、終着点は思ったよりも早く訪れた。光が頭上の天井を照らし始めたかと思うと、真上に空いている穴にリリム達ごと吸い込まれていった。


 しばらくトンネルのような竪穴を通過した後、唐突に周囲が明るくなった。


「………………」

 ただ広いだけの空間だった。


 いや、広いだけなら今もメリアとフェンが戦っているフロアと変わらない。塔の幅は一階から変わっていないので広さも同じだ。


 決定的に違うのはここが屋外だということだ。


 頭上から降り注ぐ昼下がりの春の陽気、少女たちの髪をなびかせる強めの風、そして周囲にはあの巨大な聖都ペイントンの威容は全く見えず、かわりに延々と続く青い空に白い雲。

 ここはまさしくあの天を貫くばかりの巨大な塔『カテドラル』の屋上であった。


「誰も……いないの?」

 辺りをきょろきょろ見渡しながら勇者の仲間の魔法使いが胸にかけられたペンダントを弄りながら言った。


 塔の最上階には“神”も、それを守護するものも、それを讃えるためのものもなく、ただ頭上を白い雲がのんびりと風任せに流れているだけのように見えた。


「『神の御座』に“神”がいないじゃと……? そんなバカな。では、この塔は何のために……」


 ルーヴェンディウスのその疑問に答えられる者はここにはいなかった。

 しかし、ここではない場所には存在した。


「それはもちろん、この世界の戦いを一番いい場所で見るためさ」

「…………!!」

 全員が上を向いた。その男の声は頭上から聞こえたからだ。


 塔の上にいつもかかっていた雲の間から神々しい光が漏れる。それとともに神をたたえる賛美歌が辺りに響き渡る。

 そして、それらの光を背に受け、一人の男性がゆっくりと天空から舞い降りてきた。


 “神”である。


『使徒』とは異なり翼を持たぬその姿は人間や勇者、吸血鬼などとよく似ているが、有する力はこの地に生まれた者たちとは隔絶していることはリリムが一番よく知っていた。


 “神”は音もなくふわりと『カテドラル』の上に降り立つと、ぱち、ぱちと拍手をした。


「いやぁ、見事、見事。まさかセラフィムたちをパスしてここまで来るとは思わなかったよ。もしかしてケルヴィムをおびき寄せたのも君達?」


 そしてゆっくりと三人を見渡し、こう言った。

「せっかくここまで来たんだ。何か褒美を与えよう。なんでもいい。ひとつ言ってみてよ」


「なんじゃと!? 貴様、わしらを――」

 憤るルーヴェンディウスをリリムが制した。


「では……」

 そして一歩前に出る。


「死んでもらいます」


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