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戦場であれば、我らに敵うものなし……!

「死ね、背教者がぁぁぁぁぁぁぁ!」

 純白の羽を背負う神の遣い(ケルヴィム)が純銀の剣をワータイガーの将軍に向けて振り下ろした。


 グロムはそれを左手の籠手で受け止めた。しかし鉄製の籠手は純銀の剣の前にその役割を果たすことができず、ケルヴィムの剣はグロムの肉を裂き骨にまで達する。


「ぐっ……!」

 一瞬息を漏らすが、しかしそれは想定内だ。逆にケルヴィムの一体の動きを止めることができた。グロムはすでに右手に持った戦斧で二体のケルヴィムを相手にしていたのだ。


 グロムの腕に剣が食い込み、動けなくなったケルヴィムに周囲の兵士達が殺到する。一般兵であっても数十人単位でかかればケルヴィムの討伐も不可能ではなかった。


 それもひとえにリリムの指揮下にあった頃、徹底的に集団行動をたたき込んだおかげだった。


 遠方を見れば、巨人族のアトラスがやはりアトラスと同じように複数のケルヴィムを相手にしながら一体ずつ分散させて周囲の一般兵に相手をさせていたし、リヴィングストンの狭い城壁の上ではセーレとフォルネウスが各一体ずつのケルヴィムを相手に戦っていた。


 ルーヴェンディウスの代理で来ているマーガレットという眷属は戦闘能力を持たないので後方で指揮をしているはずだ。


 当初は上空を埋め尽くす勢いでリヴィングストン上空を舞っていたケルヴィム達だったが、奇襲と城壁からの射撃によって次々とその数を減らしていった。


 そしてようやくすべてのケルヴィム達を地上に引きずり下ろし、乱戦へと持ち込むことができていた。


「押し込め! 個々の力では敵わずとも、数で押しつぶせば必ず勝てる!」

「神の意向に従わぬ愚か者は殲滅せよ!」

 それぞれを鼓舞する声が戦場に響き渡る。


 そう。ここは紛れもない戦場だった。


「戦場であれば、我らに敵うものなし……!」

 巨大な戦斧を振り回し、三体のケルヴィムを一度に吹き飛ばしたグロムは叫んだ。大陸じゅうを駆け、敵という敵を蹂躙してまわった百戦錬磨のリリム軍が今ここに戻ってきた。


 ここで戦う者たちの多くに共通する思いだった。

 それは兵士達の士気をさらに上げ、上位種である『使徒』達を圧倒していく。


 しかし――


「これで、とどめだ……!」

 地上に落下したケルヴィムに十数名の兵士達が群がり、その身体に剣を突き刺した。


 身体じゅうから鮮血を撒き散らしていたケルヴィムはしばらく動いていたが、やがて動かなくなった。


 それを確認した兵士達は安心感から気が抜けたとしても責められるようなものではない。

 しかし、その一瞬の気の緩みが“異変”に気づくのに決定的な遅延をもたらした。


「お、おい……こいつ、動いてないか?」

「そんなバカな……確かにとどめを刺したはず……うわっ!」


 突然のことに、周囲の兵士達は声を上げることしかできなかった。無防備の身体に無数の尖った何かがケルヴィムの身体から飛び出し兵士をかすめ飛んで行く。あるいは兵士の身体に突き刺さってその身体に深刻なダメージを与えていった。


 果たして、周囲で同じように『異教徒』に討ち取られていくケルヴィム達にも同じような異変が起こっていた。倒れたケルヴィムから無数の白い羽根が飛び出していったのだった。


 ケルヴィムの身体から飛び出した無数の羽根は兵士達の、あるいは周囲の大地に突き刺さって動きを止めるとムクムクと巨大化して形を作っていった。


 見た目は人間やエルフ、獣人たちと変わらない。しかし決定的に異なる異形の姿。

 背に一対二枚の翼を持つその姿は神の『使徒』。


 地面に落とされ、『異教徒』達に串刺しにされ、息も絶え絶えのケルヴィムの一体が叫んだ。


「やれ、ドミニオンども!! 背教者達を皆殺しにせよ!」

「――――――――ッ!」


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