呆れるほど高いのぉ
『カテドラル』はこの世界で間違いなく最も高い建築物である。数百メートルはあろうその塔の最上階にいると思われる“神”を目指し、リリムたちはさらに内部を駆け上がっていった。
途中、廊下や階段などで眠っている信者を何人も見つけた。おかげでここまでさしたる障害はなく進むことができた。
「はぁはぁ……。いったいどこまで続くの……?」
「ぼく、飽きた……」
「呆れるほど高いのぉ。ナントカは高いところが好きともいうが、さすがにやり過ぎじゃ」
「外壁に出て、登っていく方が早いんじゃないでしょうか。こう、壁を蹴って、落ちる前に次の壁を蹴れば……」
皆それぞれ勝手なことを言い始めた。
塔に侵入してからすでに数時間。脅威らしい脅威もなく、さすがに緊張の糸は緩んでいた。
とはいえ、終始緊張しっぱなしでは身が持たない。リリムはいい頃合いだと思い、皆に提案した。
「まだ先は長そうですし、お昼にしましょうか」
長期戦になることを見越し、あらかじめ宿の主人に今日の昼食を用意してもらっていた。干し肉など、動きながら――極端な話、戦いながら――口にすることができる簡素なものばかりだったのだが、小休止の提案に一同に笑顔が戻った。
「やった、ごはん!」
見晴らしのいい階段の途中でそれぞれ腰を下ろし、各々が持つ荷物から携帯食を取りだして口にかぶりついた瞬間だった。
「――――!!」
最初に気づいたのは誰だろうか。いずれにせよ、次の瞬間、全員の表情が一変した。
「気づきましたか?」
「うむ、おるな」
「大物なの」
「食事の時間は終わりですね」
「うぅ、おにく……」
誰が言うでもなく、手に持った携帯食を口の中に無造作に放り込み立ち上がる。
全員が同じ方向を向いた。まっすぐ続く階段の先を見据えた。
そこから巨大な気配が複数、突然現れたのを感じ取ったのだ。
「“神”ではないようですが、油断のならない相手です。気を引き締めていきましょう」
リリムの言に皆が頷いた。
一行は気配のする部屋へと歩を進める。
階段を上りきった先にある扉を開くと、そこは広い部屋だった。
床も壁も天井も白一色で統一されており、それらから淡く光が漏れ出しているところはこれまでのフロアと変わりない。
違うのはその構成だ。
これまでのフロアは程度の差こそあれ、いくつかの部屋に区切られていたが、ここに来て風景ががらりと変わっていた。
とにかく広いただひとつの部屋が延々と広がっている。フロア全体がひとつの部屋で占められているかのようだ。部屋の中に柱は一本もなく、そのような建築はこの世界の建築レベルでは実現不可能である。まさに神の業といえた。
天井はドーム状に湾曲しており、まるでバットリーの街にあったコロシアムに似た雰囲気を醸し出している。
あるいは、ここは“神”が何者か同士を戦わせるコロシアムなのかもしれない。
そして、その『何者か』とは、リリムたちと、部屋の中央に立つ――




