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いざ、“神”を倒そうぞ

 まだ日が昇ってすぐだというのにすでに広場は満員に近く、さらに人々が中心部に集まりつつある。


 そんな広場を囲う道路を人々の流れとは異なり、広場外周に沿ってゆっくり走る馬車があった。

 馬車を操るこれといった特徴のない男の他は、幌付きの荷台があるだけで、取り立てて人目につくような馬車ではなかった。


 やがて馬車は広場の裏へと回っていった。そこは、『カテドラル』に通じる資材搬入口だった。神の座する場所といえど、その管理運営のためには多くの人手が必要である。彼らのための物資が必要であり、そのための物資は毎日運び込まれていた。


 馬車が搬入路に近づいていった。普段と変わりない光景だ。いや――普段は二人いるはずの警備の信者が今日に限っては一人しかいない。


 警備の信者と馬車の御者の目があった。二人は言葉を交わすことなくお互いの顔を見て小さく頷き、馬車はそのまま中へ入っていった。

 塔の中に入り、馬車は止まった。ここから先、馬車は入ることができず、物資は手で運び込まれることになる。


 御者は御者台を降りて馬車の後方にまわった。幌を開けて中を確認する。

「着きました。周りには誰もいません」


 荷台には六人の女性がいた。言うまでもなく勇者と魔王の仲間たちである。全員が御者――カーンを見ていた。


「あなたのおかげでここまで誰の目にも止まることなく、ここまで来ることができました。ありがとうございます」

 一同を代表してリリムが言った。


「いいか、カーン。お前は一刻も早くここから離れるんだ。オレからの最後の指示だ。どうか、守ってほしい」

 イリスが真剣な眼差しでカーンに告げた。本来、カーンはここまで巻き込む想定ではなかったのだ。


「わかっています。どうか皆さん、ご無事で」

「あなたも」

 メリアの言葉にカーンは頷いて、その場を立ち去っていった。


「皆の衆、では参らん。いざ、“神”を倒そうぞ」

 カーンがいなくなったことを確認した後、ルーヴェンディウスが言った。その言葉に全員が無言で頷いた。馬車から勇者が、騎士が、魔法使いが、魔王が、吸血鬼が、狼が素早く飛び出した。


 物資搬入路付近には今、誰もいない。一人残っていたのはあらかじめ話を付けていた内通者だ。すべてイリスの段取りである。


 そのイリスは塔の中に入ろうとする一同とは別の方向に歩き出した。


「勇者さん、どこへ行くの?」

 魔法使い用のローブに身を包んでいるデルフィニウムが聞いた。


「ん? ああ、オレはここからは別行動だ。戦いの場にいてもジャマなだけだからな」


「えっ!?」

 と声を上げたのはメリアだ。その顔は「心配だから自分もついて行く」と言わんばかりだ。だからイリスは機先を制して、


「大丈夫だ、危険なことはしない。それにメリア。お前が欠けると勝率に大きく関わってくる。策は十分に打ってあるが、戦力は高いに越したことはない」

 わかってくれ、とメリアの肩を叩くと、メリアは目に涙を溜めながらもこくりと頷き、理解してくれた。


「急げ。いつ信者に見つかるかわからんぞ」

 離れたところでルーヴェンディウスとリリム、フェンが待っていた。


 イリスはメリアとデルフィニウムの肩を引き寄せ、

「オレを信じろ。お前達を信じるオレを信じろ。絶対にうまく行く」


「はい」「任せてなの」

 肩を叩くと二人は走っていた。


 そうして塔の中に入っていく五人を見送り、イリスは自分の役割を果たすために歩き出した。もう振り返らない。


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