ちょっと試してもらいたいことがあるのですが
「ふむ。“神”の家を壊したい、ですか……」
リリムは何事か思案していたが、すぐに両手を打った。
「フェン、ちょっと試してもらいたいことがあるのですが」
そう言ってリリムは頭を下げてきた狼の耳に何事か囁いた。
――え? でも……。
「大丈夫、わたしを信じてください」
――わかった。
そう言うとフェンの身体は光に包まれ、みるみる小さくなっていった。
数瞬後に狼の巨大な身体は小柄な少女の姿に戻っていた。
「…………がんばる」
フェンはその姿のまま、小屋の前で息を整え始めた。
「下がってください」
リリムはメリアを伴って森の中まで後退した。木々の間から白い壁と赤い屋根の小屋、そして白銀の髪の小柄な少女が見える。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
フェンが気合いを溜める。
「えい」
気の抜けた、一見かわいらしいともすら思えるかけ声のあと、周囲を荒れ狂うばかりの暴風と天地がひっくり返るかと思えるほどの揺れが駆け巡った。
「ええっ……!」
それに少し体勢を崩したメリアが再び視線をフェンの方へ戻したとき、メリアの目が大きく見開かれた。
それもそのはずだ。目の前で魔王と“神”が戦い、周囲が更地になっても傷ひとつ付かなかった小屋が跡形もなく砕け散っていたのだから。
「驚くことはありません。同じパワーであれば小さな身体の方が一点に力を集められるのではないかと思ったのです」
そして、続けてメリアの方を見て、言った。
「あなたもフェンと同じくらいの力はもう出せるのですよ、メリアさん」
そうであった。この一週間、メリアは毎日フェンと手合わせをしていた。勝つとき、負けるときいろいろあったが、おおむね二人の勝敗は五分と五分といったところだ。
「私が……」
メリアが己の手のひらを見た。
パワーでこそフェンの方が上回っていたので、メリアにこの小屋を壊せたかというと微妙なところだが。スピードでは二人はほぼ互角、テクニックに関してはメリアの方が一枚上手だった。
「ところで、リリムさん」
「なんでしょうか?」
にこやかにメリアを見るリリムに、メリアはスッと手を正面に伸ばし、破壊された小屋を指さした。
「今晩、どこで寝ましょう?」
「あっ!」
決行まであと三日。




