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勇者10歳と魔王17歳~幼女勇者と美少女魔王、世界を支配する“神”を倒さんとす  作者: 雪見桜
そなたらは帝国軍の誇りであり、リリム陛下の誇りである
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まだまだ修行が足りません

「どうしました? そちらから来ないなら、こちらから――」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 リリムが言い終わるよりも早く、メリアが突進してきた。何のひねりもない直線的な動きだ。


(…………速い!)

 リリムが目を見張った。それほどメリアの動きは速かった。


「しかし、そんな見え透いた攻撃……っ!」

 直進するメリアにあわせてソウルファイアを振る。その瞬間、メリアの姿がかき消えた。


 直後、リリムの真後ろにメリアが現れた。そのまま『泉の女神』でリリムの首を取ろうと振り抜く。


「効きません!」

 しかし、それはリリムの想像の範囲内であった。正面に向けて放った剣の振りの動きをそのまま利用して一八〇度回転し、背後のメリアを捕らえようとする。


 が――


 ソウルファイアはメリアの身体を捉えることはなかった。命中したと思った瞬間、メリアの身体は幻のように消え失せたのだ。残像だ。

 メリアは今度はリリムの右前下方向、ちょうどソウルファイアを振り抜いて攻撃の死角になっている部分に現れた。


「いやぁぁぁっ!」

 気合い一閃、メリアの『泉の女神』が突き出される。


「くっ……!」

 リリムは振り抜いたソウルファイアの動きをあえて止めずに一回転した。そのまま強烈な足蹴りがメリアの背に命中した。


「ぐっ……!」

 メリアはそのまま数十メートル吹き飛び、周囲の木々を何本かなぎ倒した末にようやく静止した。。


「メリアさん……!」

 慌ててリリムが駆け寄った。思いも寄らぬメリアの健闘ぶりに、つい力を出しすぎてしまったのだ。


「大丈夫ですか……?」

 木に背を預けて座り込んでいる状態のメリアの表情はここから窺い知ることはできない。リリムがメリアの状態を確認しようと手を伸ばすと、メリアの手もまた伸びてきてその手を掴んだ。


「大丈夫です。全身打撲と骨折ですけど、これくらいなら……」

 メリアは苦痛に顔をしかめながら立ち上がり、自分に治癒魔法をかける。しばらくすると痛みが引いたのか、メリアの顔はいつもの端正な姫騎士のものに戻っていた。


「すみません、つい力が入りすぎました」

 リリムがメリアのドレスについた砂埃を払いながら言うと、メリアは首を振った。

「いえ、あれくらいの攻撃を避けられない私が悪いのです」


 メリアはそう言うと、肩をすくめため息をついた。

「まだまだ修行が足りません。もうあまり時間がないのに……」


 その言葉にリリムは目を見張った。〈魔王因子〉を持たないただのハーフエルフの娘が、魔王の全力の蹴りを『あれくらい』と言ったことではなく、その事にすら気づかず、『まだまだ』と言ってのけた事実に。


 残像を残したあとのメリアの突き。あれは『泉の女神』が半ばから折れていたためにリリムまで届かなかったが、最初にリリムが申し出たとおりに剣を持ち替えていればあの一撃は確実にリリムの喉元に突き刺さっていた。

 もっとも、ただのロングソードでリリムを傷つけることなどできはしないわけだが。


(先ほどの手合わせ、あなたの勝ちでしたよ、メリアさん)

 しかしリリムはその事は口には出さないことにした。このハーフエルフの姫騎士の成長は喜ばしく思うが、ここからさらに短い期間でどこまで強くなれるのか見てみたい気もしたからだ。せっかくのやる気を削ぐこともあるまい。


 だから、リリムは別の話題を口にした。

「そういえば、フェンは一緒ではないのですか?」


 フェンも与えていたリリムが強化した木を変身せずにたたき割るという課題をメリアとほぼ同じ時期に成功させていた。


 そういうこともあり、メリアとフェンは普段日中は森の中で手合わせをすることも多い。午後のこの時間になると二人揃ってリリムの所にやってきて、どちらが先にリリムへ挑戦するか揉めるのがお約束になっていたのだが、今日はフェンの姿が見当たらなかった。


「ああ、フェンさんですか……。アレを壊すと言ってました」

「アレ……ですか」

「はい。アレです」


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