ビンゴ……というところじゃな
隠し扉の先はさらに下へと降りていく階段だった。それを延々と下っていく。
どれほど地下に行くのだろうか。ゆうに三フロア分は降りたかと思うと、不意に下り階段は終わりを告げた。
ルーヴェンディウスの目の前にはこの建物の入り口に設置してあったものよりもさらに大きく重々しい扉が備え付けられていた。
ここが目当ての場所に違いない。
ルーヴェンディウスが扉に力を入れる(靄に変身して入ろうにも髪の毛一本分の隙間すらなかった)と、扉は重々しく開いていった。
たっぷり1分くらいの時間を掛けて扉を開くと、その奥には通路、そして左右には鉄格子がずらりと並んでいた。通路には松明が掲げられており、光の者でも先が見通せるようになっていた。奥に大きな気配がある。薪が弾けるパキパキという音が周囲を満たす。
「ビンゴ……というところじゃな」
ルーヴェンディウスがにやりと笑った。そして地下室に一歩を踏み入れた瞬間、突然空気が動いた。ルーヴェンディウスのすぐ横だ。
「…………!」
突然現れた影がルーヴェンディウスに向けて一直線に何かを突き出してきたのが肌でわかった。
地下室の暗がりで完全に気配を消し、扉を開けたときに死角になる位置に陣取り、長物ではなく取り回しのいいナイフを機械的に突き出してくる。プロの暗殺者の仕事といえた。
「じゃが……!」
ルーヴェンディウスの反応は相手の想定以上だった。
「…………!」
相手の驚きが伝わってきた。敵襲を察知したルーヴェンディウスは咄嗟の判断で敵から離れるのではなく、逆に間合いを詰めて、敵が突き出してきたナイフを脇で絞めるように掴んだ。
そのまま力任せに締め付ける。〈吸血鬼因子〉のもたらすパワーは見た目からではとても想像できないレベルだ。脇で締めるという力の入りにくい体勢にもかかわらず、相手の体内から鈍い音が響いてきた。
「そりゃっ!」
相手がナイフを取り落としたのを確認すると、そのまま一本背負いのように相手を地下室の床にたたきつけた。
「ぐはっ……!」
敵の口から息が漏れた。肺の中の空気が強制的に出されたためにしばらくは動けないだろう。
しかしルーヴェンディウスは容赦しなかった。
体格に任せて無理やり小柄なルーヴェンディウスをひっくり返そうと暴れる敵に対し、ルーヴェンディウスは掴んだ腕を逆方向に固めながら床に押しつけ、何かを呟いた。
「戒めよ! 暗黒緊縛!」
暗がりの中でさらに沈み込む暗黒の鎖が暗殺者を縛り付けた。さらにどこからか取り出した布を相手の口に放り込んで猿ぐつわ代わりとして、敵はようやく諦めたのかおとなしくなった。




