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勇者10歳と魔王17歳~幼女勇者と美少女魔王、世界を支配する“神”を倒さんとす  作者: 雪見桜
そなたらは帝国軍の誇りであり、リリム陛下の誇りである
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いざ、リヴィングストンへ!

「そなた達には『使徒』と『僕』を引きつける役目を頼みたい」

 部屋の全員が席に着くなりルーヴェンディウスはそう切り出した。


 “神”とそれを崇める者たちの間には厳然とした階級が存在する。

 頂点に君臨するのが一柱の“神”。創造神にして唯一神を謳っている。


 その直下に位置するのが二十七人の『使徒』。あの日、“神”とともに天空から降り立った翼を持つヒトに似た異形の存在である。


 その下の身分に当たるのが数百人が存在する『神のしもべ』である。

『僕』は“神”に認められた東西両大陸に生を受けた人々だ。神の教えを伝え、広め、また神の敵を倒す役割とされている。特権階級であり、旧世界の貴族に近い。違うのは血筋ではなく、“神”に認められたという点だ。ゆえに、旧世界の貴族よりも権威は強い。


『信者』はそれ以下の人々で、“神”を信じるものの、まだ『僕』と認められていない一般の人々だ。大陸全土、特に西大陸に数多く存在する。西大陸の過半数は『信者』といえるだろう。しかし、その信仰の表し方は様々で、『異教徒』討伐に精を出す者から日々の暮らしの中で信仰を実践する者までいる。


 いち早く“神”に恭順を示したルーヴェンディウス。彼女は世界で三人しかいないこの地で生まれながら“神”に認められた『使徒』であった。


 彼女はその地位を利用して他の『使徒』や『僕』に狙われる『異教徒』と呼ばれる反乱勢力を保護・支援したり、また彼女同様面従腹背の『僕』を推薦したりして内部にネットワークを築いていた。


「我らの目的は“神”に反抗することゆえ、その提案は望むところだが、今の我らの戦力で彼奴らを引きつけるのは難しいですな……」

 グロムが腕組みをしつつ言った。


 彼らの勢力は『異教徒』の中では最も多い数万人規模を誇るが、それでも戦力的には厳しいといえた。


『僕』が指揮する『信者』たちは数十万人規模で兵を動員できるし、『僕』には旧世界での実力者も多い。それに『使徒』はおそらくこの中ではグロム以外の者では太刀打ちできないだろう。


 しかし、そのことはルーヴェンディウスも織り込み済みだった。


「問題ない。すでにわしの――ブラッドフォードの全軍がリヴィングストンに向けて移動を開始しておる。十二万の軍勢じゃ」


「うひょー、そりゃすげえ! おいら達の倍以上いるじゃねえか!」

 浮かれるのは小柄なノームのルールー。しかし他の面々の顔は渋いままだ。


 そんな彼らの反応は関係ないとばかりにルーヴェンディウスは話を続ける。

「それだけではない」


 とん、とルーヴェンディウスは机の上に置かれた地図の一点を指さした。

「攻めるのはここ、リヴィングストンである」


「……!!」「……!!」「……!!」

 ルーヴェンディウスをのぞく全員がどよめいた。


 東大陸北西部に位置する都市リヴィングストンはリリムの故郷であり、またリリムが打ち立てた帝国の首都でもある場所であった。

 主なきその都市は今、リリムの片腕で宰相であった『僕』、アドラメレクが治めている。


 一説には街ごと“神”によって洗脳され、強制的に神の僕となってしまったとも言われている、強力な神の軍隊を擁する難攻不落の都市であった。


「無茶だ! アドラメレク相手に勝てるはずがない!」

「足止めが目的なら、リヴィングストンに引きこもって出てこないアドラメレクのおっさんは無視して置けばいいんじゃねえですかい?」


 グロムやルールーだけではない、他の面々からも一斉に反論が湧き上がった。

 しかし、ルーヴェンディウスはそれには反論せず、テーブルの上の一点を見た。


 そこには、先ほどルーヴェンディウスが取りだした旗――リリムの紋章が描かれた旗が置かれていた。

「まさか……!」


 そう言ったのはドワーフのレギンだったが、驚いたのは彼だけではない。ルーヴェンディウスは周囲の反応を見てにやりと笑った。


「アドラメレクもこの旗を掲げ、戦う。奴を『僕』に推薦したのはわしじゃ」

 そして驚く周囲を見渡し、続ける。


「そなたらとわしの軍がリーヴェンディウスに進軍を開始する。その規模を見た『異教徒討伐隊』のアトラスが“神”に『使徒』の援軍を依頼するという寸法じゃ」

 ルーヴェンディウスは机の上で腕を組み、その上に顎を乗せ、楽しそうに作戦を告げる。


「つ、つまり……」

「あのアトラスの野郎も……」


「むろん、わしが『僕』に推薦した」

 驚きのあまり声も出ない一同。その静寂を破ったのはお調子者のルールーだった。


「す、すげー! さすがリリムの姐さんだ。この作戦も姐さんが考えたんだよな?」

「ん? ま、まあそうじゃな」

 正確にはイリスであったが、些細な違いでしかないだろう。


「勝てる。勝てるぞ! 帝国軍全軍が終結すれば、『使徒』だろうと“神”だろうと負けるはずがねえ!」

「行くぞ、お前達! 今こそリリム様に忠義を見せるとき! いざ、リヴィングストンへ!」


「「「おう! おう! おう!」」」

 大いに盛り上がる『異教徒』達。


(そなたらの仕事は陽動だと言ったんじゃが……。ま、敢えて指摘して士気を損なうこともあるまい)

 それを見ていたルーヴェンディウスもどこか嬉しそうだった。


 決行まであと二十日。


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