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勇者10歳と魔王17歳~幼女勇者と美少女魔王、世界を支配する“神”を倒さんとす  作者: 雪見桜
そなたらは帝国軍の誇りであり、リリム陛下の誇りである
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貴女ならできると思います

「その意気です。しかしわたしの見立てではメリアさん、貴女の能力ステータス的な強さはもう十分な水準にあると思います」


「…………どういうことですか?」

 怪訝そうな表情で聞くメリア。


「貴女の問題は力の強さや速さではなく、冷静に状況を見極める力にあると思っています。ちょうどフェンと反対ですね」


「…………それは確かに、そうかもしれません。私は剣を持つと冷静さを失ってしまいます。ですが、私はそれを克服して――」


「“無垢形態イノセントモード”ですね?」

「…………! どうしてそれを!?」


 剣を持つと人格が変わり、冷静さを失った狂戦士になってしまうというメリア最大の欠点は、メリア自身ももちろん認識していた。それを克服するため、メリアは西大陸をまわってその欠点を克服するすべを身につけていた。


 それはイリスによって“無垢形態イノセントモード”と名付けられていた。

 自らを感情を持たぬ戦闘マシーンと化すすべである。


 これまでその事について言及しなかったのは、“無垢形態イノセントモード”は対魔王用の技であったためである。


「お忘れですか? わたしは今の生を受ける前は勇者イリスだったのですよ?」

「そうでした……」

 メリアは複雑そうな表情をしている。


「“無垢形態イノセントモード”については、今の狂戦士メリアさんの状態よりも欠点が多いとわたしは考えています」

「それはどういった……?」


 いつしか、メリアはリリムの言葉を素直に受け止められるようになっていたが、メリア自身はそれに気づいていない。


 リリムは指を一本立てた。

「体力の消耗が激しく短時間しか使うことができない、と言うのはわかりやすい欠点だと思いますが、それ以上に――」


 さらにもう一本指を立てる。

「“無垢形態イノセントモード”はメリアさん自身を一個の戦闘機械マシーンとして一切の感情を遮断する技です」


「はい。剣を持つと荒ぶってしまう私にとって最適な方法だと思っています」

 それに対し、リリムは首を振った。


「それは違います。確かに、多数の敵軍の中に一人突入して倒す第999勇者パーティーの戦いであれば有効だったかもしれませんが、“神”との戦いでは状況が異なります」


 “無垢形態イノセントモード”はメリア自身がただ敵を狩るだけの戦闘機械になるために、敵味方を理解せず、周囲の動く者――正確には一定以上の戦闘力を持つ者――に対し無差別に攻撃を仕掛けてしまう。


 それは、おそらくリリムを含めた何人もの実力者とともに戦う“神”との戦いにおいては全く使えない。

 その事を説明すると、メリアは俯いてしまった。


 そんなメリアの肩に、リリムが手を乗せた。

「わたしは先ほど、貴女には今のわたしと同じくらい強くなってもらうと言ったこと、覚えていますね?」

「…………? ええ」


「わたしはできもしないことをせよと言うほど傲慢な王ではないつもりです」

「それは、いったい……」


「自分の正義のため、敵である魔王に教えを請う姿は理性ある者にしかできない行動です」

「…………」


 それまで俯いていたリリムが顔を上げ、リリムの顔をはっきりと見た。リリムとイリスは遺伝上の繋がりは一切ないはずだが、そこにどこかイリスの面影をメリアは見て取った。


「そして、わたしは先ほど『貴女の強さはもう十分な水準にある』と言いました」

「はい、覚えています」


「つまり、貴女の強さをすべて引き出すには普段の理性のまま剣を持つ事こそが必要なのです」

「普段のまま……剣を持つ……」


 メリアは腰の鞘に戻された『泉の女神』の柄を撫でながら、何かを噛みしめるかのようにリリムの言葉を繰り返した。


「メリアさん、あなたには剣を持っても狂戦士化せず理性を保つようになってもらわなければなりません」


「私に……できるでしょうか?」


「己の暴れ出そうとする感情を抑制するのです。とても苦しい三十日間になると思います。しかし――」

 リリムはにっこり微笑んだ。メリアはそこに、イリスの微笑みが重なって見えるように感じた。


「貴女ならできると思います」

 メリアは頷いた。力強い笑みをたたえて。


「努力します。――いえ、理性を手にしてみせます。必ず」

「信じています、メリアさん」


 魔王リリムの差しだした手を聖騎士メリアはがっちりと握り返した。


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