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進め、『アガリアレプト号』

「進め、『アガリアレプト号』。突風ウィンドブラスト!」


 銅鑼が鳴り響く中、船尾に立ったリリムが起こした風によって船がゆっくりと動き始める。船体の中ほどではメリアがこちらに向けて手がちぎれるのではないかと思えるほど手を振っているので、イリスも手を振り返してやった。


 やがて船は徐々に加速し、水平線の彼方へと消えていった。リリムは目を擦り、隣で黙ってそれを見ていた少女に声をかけた。


「一緒に行かなくて良かったのか?」

「ぼくは……リリムさまの帰る場所を守ることに決めたんだ」

「そうか。そうだよな」


 フェンの姿がいつになく大人びて見えたのは、背が伸びたからではないだろう。

 そのまま二人で茫漠と広がるだけの大海原をただじっと見続けていた。


 リリムとメリアの行く末がどうなるかは神のみぞ――神すら知らない。




「おい、ちょっと待て。あれは何だ」

 感傷に浸っていたイリスが突然立ち上がった。


「……? どうした、イリス?」

「フェン、お前目がいいんだろ? あそこに……」


 フェンが指さされた方を見る。そこには夕日に照らされた黒くて小さな……羽根を羽ばたかせて空を飛ぶ生物。


 この世界で空を飛ぶ生物は存在しない。飛ぶのはその事実を知って魔法を使いこなせるリリムと――


「「ルーヴェンディウス!!」」

 二人は同時に叫んだ。


 ルーヴェンディウスはこの数週間、表舞台に姿を見せず自領に引きこもっていた。今日この日の存在は伝えたものの、自領の運営に専念し参加するつもりはないという返事だったのだが……。


「あいつ、リリムに無理やり同行するつもりだ」

 リリムに聞いたところによると、ルーヴェンディウスは当初、リリムに同行したい旨を伝えていたが、ルーヴェンディウスは大陸に必要な人材だと断られたという。


 だからってこんな手段に出なくても……。などと思っていたところで急に辺りが暗くなった。


「なんだ……? うわっ!」

 思わず腰が抜けた。そこには見上げるほど巨大な白銀の狼が立っていたからだ。


「おい、フェン! 何するつもりだ。うわっ!」

 狼はそのまま高台から海へと飛び込んだ。数十メートルもある高さだったが、巨大な狼からしてみればたいしたことのない高さだったのだろう。


 しかし、そこまでだった。盛大に水しぶきを上げて飛び込んだ狼は日の暮れつつある暗い海の中でただもがいているだけだった。


「あいつ、泳げないんじゃねーか!」

 イリスが街の方へと走っていった。助けを呼ぶためである。


「おーい、勇ミャー!」

「そろそろ夕食の時間なの」

 街の方からふたつの影がやってきた。言うまでもなく、イリスの仲間、ミャーリーとデルフィニウムである。


 二人は泣いてしまうからとメリアの見送りには参加していなかったが、昨夜は三人で夜遅くまで話していたのをイリスは知っていた。


「おおい、お前ら! 人呼んでこい、人!」


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