じゃあな、がんばれよ
そう。リリムは今日、この船で旅立とうとしていた。
「わたしが魔王だった頃から構想はあったんですよ。世界にこの大きさの大陸がふたつしかないのは不自然だと思いませんか?」
「まあ、戦争が起こりやすい地形だよな。これも“神”が恣意的に行っていたってワケか?」
「わかりません。それを確認するための旅なのです」
リリムが出港の準備を整えている船を見上げた。大きな帆を張るその船体には『アガリアレプト』と書かれている。船首に取り付けられている像は双子のエルフの姿だ。
「勝算はあるのか?」
イリスの問いに、リリムは終戦から五年経っても相変わらず十歳児にしか見えない幼女に視線を戻した。
「五分五分、といったところでしょうか。この街の遺跡を見ましたか?」
「ああ。沈みかけてる古い船の残骸だろう?」
この街には遺跡があった。少なく見積もっても数世紀は経過している座礁した巨大船の残骸だ。その技術レベルや解読不可能な文字からリリムはこれを大陸外文明のものと判断していた。
「はい。あの船を作った文明がまだ存続しているのであれば、コンタクトを取る価値はあると思っています」
「ま、あんたがそうしたいって言うなら止めはしないけどな」
けど、とイリスはリリムの隣に立つ人物を見た。
「まさかお前が同行するとは思わなかったよ、メリア」
リリムの隣に立つメリアは胸を張って答えた。
「魔王がどんな悪さをするかわかりませんからね。正義をなすものとして当然です」
この時のために新調したドレスに真新しい鎧を身にまとっており、腰には愛剣『泉の勇者』を佩いている。フル装備だ。
そうは言っているが、メリアはリリムに稽古を付けてもらったときからリリムのことを認めているのはイリスにもわかっていた。
今までイリスにべったりだったメリアが離れていってしまうことに一抹の寂しさを覚えながらも、それは意識して外に出さないように努めていた。
「そっか。まあ、がんばれよ」
そう言って歩き出した。
「勇者さま、どちらへ?」
イリスは立ち止まって振り返った。
「どこって、そりゃあ……」
リリムはチャタムの港で湾を形作る高台を見上げた。真新しい灯台が建っている。この日のために建造した灯台だ。
「お前の旅立ちをしっかり目に焼き付けるために、あそこへ行くんだよ。じゃあな、がんばれよ」
そう言った後、再び歩き出した。もう振り返ることはなかったので、メリアが深々と頭を下げている姿は見なかった。




