馬鹿……野郎……!!
老人がイリスの真上に落ちた。
その瞬間、バチンという激しい音が聞こえた。周囲の人々にもはっきり聞こえるほどの大きな音だ。
イリスは目をそらさずに見ていたおかげでその様子を終始冷静に見ていた。
老人がイリスに衝突するそのまさに寸前、見えない壁がイリスの周囲に現れ、老人を弾き飛ばしたのだ。
目を見開いてその状況を冷静に分析するイリス。懐の一部分が熱くなっているのを感じた。そこにはここにやってくる前に渡された巾着袋が入ってきた。
「これがあれば多分、獣や魔物は寄ってこない」
「お守りみたいだな」
「似たようなものです。わたしの加護も加えておいたので、効果倍増ですよ」
フェンの首筋付近の体毛にリリムが加護を加えた守護のお守り。これまで“神”の手先に襲われることはなかったので使う機会はなかったが、それがこの窮地においてイリスを救った。
「ちっ、忌々しい奴! しかし、その魔道具もそう何度も使えるものではあるまい! それはわしの作った体じゃ! よこせ!」
空中で器用に向きを変え、再びイリスに迫る“神”。ここに及んで自らの行いを全く省みることのない“神”の姿にイリスは心底腹が立った。
「馬鹿……野郎……!!」
イリスは首からぶら下げていたもうひとつのお守りを“神”に向かって投げつけた。
「わたしが普段使いにしている装飾品です。今、力を込めました。念じて投げれば一度だけ大爆発を起こします」
お守りはまるで吸い込まれるように再び落下を始めた“神”へと向かっていった。
目もくらむような閃光。
「わしの肉体ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――!」
空中で大爆発が起こった。




