その身体、いただいたぁぁぁぁぁっ……!
「勇ミャ、あれ、何かおかしくないかにゃ?」
最初に気づいたのはミャーリーだった。その動体視力とちょっとした違和感をも逃さない洞察力は第999勇者パーティーの斥候として培われた技能だった。
「ん、何がだ……?」
ミャーリーの指さす先、上の方を目を細めて見る。
何か点のようなものが落ちてくるのが見えた。
それは少しずつ大きくなり、輪郭をはっきりさせてくる。
「あれは……」
「みゃみゃっ! あれ、“神”にゃ! “神”がこっちに向けて落ちてくるにゃ……! 晴れ時々“神”にゃ!」
「な、なにぃっ!?」
よくよくみてみると、枯れ木のように手足をばたつかせながらも器用に姿勢を変えながらまっすぐこちらに落下してくる老人が見えた。
「な、なんでこっちに来るんだよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないにゃ! 逃げるにゃ!」
ミャーリーがイリスの手を取って逃げようとするが、周りには人々がごった返していてとても逃げられる状況にない。
ミャーリーの近くの人たちは逃げようとしていたが、少し離れた人たちは上を見て呆然と立っており、人混みは全く動かない。これならば全員が逃げようとしていたあの時の方がまだ動ける分マシだったかもしれない。
「逃げるにゃ! みんな逃げるにゃ!」
ミャーリーが叫ぶが、逃げずに落ち着くように言ったのはミャーリー本人であった。
「ダメだ、間に合わない……!」
すでに“神”の姿はくっきりと細部が見える。老人は枯れた木のような細腕をまっすぐイリスの方へと伸ばし、皺だらけの顔の中で目だけをぎらつかせ、老人とは思えない声で叫んでいた。
「その身体、いただいたぁぁぁぁぁっ……!」
時間がゆっくり流れたように感じた。
ミャーリーはイリスの手を引き、少しでもこの場を離れようと人垣をかき分けようとしている。
リリムは『カテドラル』の上から飛び降り、猛スピードで老人を追いかけていた。しかし、彼女が老人の企みに気づいたときにはもうどうしようもなく時間が足りなかった。
ルーヴェンディウスは『カテドラル』から飛び降りようとしているデルフィニウムを必死で止めようとしていた。デルフィニウムは魔法で肉体のパワーを上げて振り切ろうとしていたが、この後すぐに魔力切れで気を失うことになる。
メリアとフェンはリリム達が戦っていた真下のフロアで『使徒』達を倒していた。教皇だった怪物の大きな瞳から『泉の勇者』を引き抜いたところだった。フェンは物言わぬ屍と化した『使徒』達の山の上で雄叫びを上げていた。
そしてイリスはミャーリーに手を引かれながらも上を向いて老人の姿をはっきりと見ていた。
老人がイリスの真上に落ちた。




