親ならば子の幸せを第一に願うべきではないのですか!
「不敬であるぞ! 創造者に対して敬意を持て!」
先ほどから何事かわめいているが、それはこの状況が“神”にとって都合の悪いことだからだ。それは逆に、リリム達にとって都合が良いということでもある。
リリムはそれを利用することにした。
“神”の力はイリスの計略によってリリムが抑えきれるほどに落ちていた。今この瞬間も目に見えるレベルで低下している。
「貴様ら被造物にとって造物主は親も同然! 子ならば親の言う通りにするものだろう!」
しかし一方で膠着状態に陥っているのもまた事実だった。
「親ならば!」
膠着状態に陥っている苛立ちからなのか、それともまた別の理由からなのか、自分でもわからないままリリムは反論した。
「親ならば子の幸せを第一に願うべきではないのですか! 自分の楽しみのために殺し合わせるよう仕向ける存在のどこが親ですか!」
隣でそれを聞いていたルーヴェンディウスが後ろを向いた。その視線の先、デルフィニウムと目があうと、彼女は親指を突き出した。ルーヴェンディウスが笑顔を見せる。
その瞬間、怪物は床に強く縛り付けられた。
「くそっ、またパワーが……」
怪物の全身から身体が抜けたようなきがした。もちろん、それで鎖を緩めるようなリリムではない。
が――不意に鎖にかかる力が弱まった気がした。
(かかった……!)
リリムがにやりと笑う。隣ではおそらくルーヴェンディウスも笑っていただろう。
その瞬間、爆発音とともに怪物の身体が砕け散った。音速をはるかに超える破片が襲いかかるが、リリムもルーヴェンディウスも瞬時にシールドを張ってこれを防いだ。デルフィニウムにはそもそもこのレベルの攻撃は一切通用しない。
石つぶてがこちら側にしか飛んでこなかったのも想定通りだ。階下の人々に危害はもたらさない。そうなるように仕向けたのだ。
そうしている間に破片と化した怪物から小さな影が飛び上がった。
「ふはははははははは! こざかしいゴミクズどもめ! その程度で神を縛れると思ったか! 浅はかなり、被造物! 全能にして不老不死の唯一神に少しでも勝てると思ったか!」
声のする方に目を向けると、リリム達の上空十数メートルの所に怪物の中から飛び出した“神”が浮かんでいた。




