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(15)昭和61年③ 山田復活の兆し

前の年の「花火放火事件」をきっかけに、山田たちのグループは壊滅状態まで追いやられた。

中学高校生の不良グループならいざ知らず、小学生だけのギャング集団の存在は警察の捜査や小学校の調査によりその異常さが明らかになるにつれて小さく狭い地域社会に衝撃を与えた。


ボスの山田はなぜか今度も裁かれることはなかったが、子供たちだけではなく大人たちもだいたい事情は知っていた。

だから、地域のボスとして偉そうにしていた山田パパやPTAを陰で牛耳っていた山田ママに対する視線も、余計に冷たくなった。


しかしそれも大人たちは影でコソコソ批判するだけで、表向きには山田の両親にはいい顔をして媚びへつらっていた。

それくらい、地域を支配する力を持っていた。


どんな陰口を叩かれているかはおそらく承知の上で、山田パパはやがて地域を揺るがすことになる壮大な事業に取り掛かったのは、その年の初めの頃だった。

それは、街道沿いの住宅地に隣接する丘陵地を切り開いて、200ヘクタールにも及ぶニュータウンを建設するというものだった。


その丘陵地の中に、牧雄や彰子が住む公社団地があった。

もともと公社団地はもっと大きい規模・・・商業施設や学校などの公共施設も備えたニュータウンになるはずだった。


しかし開発当初、地域の大地主だった山田の家が土地を高値で売ろうとし、他の中小地主も大部分がそれに倣った。

そのうちに第2次オイルショックがやってきて、土地買収が不調のうちに計画は凍結された。


住宅公社が意地のように造った公社団地が離れ小島のように雑木林に囲まれてぽつんとあるのは、そのためだった。

それから10年ほどの時を経てぶち上げた山田パパの構想は、公社住宅団地を取り囲む丘陵地一帯を一気に開発しようというものだった。


その頃、東京で地価が異常な上昇を見せ始めていた。

東京を取り囲む関東圏では、都心から離れた地域での住宅需要が急激に高まりつつもあった。


その波は、遠く離れた地方都市へも波及するだろうという読みがあったのかもしれない。

雑木林を切り開いて造成し街路を巡らせて宅地を用意すれば、濡れ手で粟の大儲けができると夢見たのだろう。


しかし山田の家が金持ちと言っても所詮は小金持ちで、力を持っていると言っても開発に必要な資金を銀行から簡単に融資してもらえるほどでもなかった。

そこで山田パパが音頭を取って他の中小地主たちを巻き込んで、土地区画整理組合を設立した。


これは、開発予定区域の地主たちが組合を作って複雑に入り組んだ土地の境界線や権利関係を整理して、その結果として開発された土地を高値で売ろうという仕組みだった。

土地の売却益を最大限にしようというのか、どうせなら高級住宅街として付加価値を付けてしまおうという構想も固まっていった。


もちろん、工事は山田パパが社長の建設会社が主要な部分を受け持つはずだった。

それに備えてか、建設会社は銀行からの最大限の融資を元手に先行投資に手を付けて、雑木林の外れの空き地には真新しい建設機械がずらりと並んだ。


これはだいぶ後の話になるが本社もガラス張りのビルに建て代わり、ついでなのか何なのか山田の家も新築の屋敷ができた。

スマートな本社ビルに対して家の方はいかにも成金趣味の品のないものであったが、山田ママが自分の好みで設計から施工まで口を出し続けたとの噂だった。


その前くらい・・・中学1年の秋口くらいから、山田個人の金回りも急に良くなってきたようだ。

ギャング事件があってから受験にも失敗し、罰としてか小遣いも相当制限されていたはずだったのに。


それは、いっときの平穏に息をついていた牧雄に、小学生の頃とは比較にならないほどのつらい日々をもたらす前兆だった。

確かに中学校には不良グループを形成する上級生たちがいて、その下っ端の同級生もいて、牧雄はビクビクしながら息を潜めていたが、それらが子供の遊びに思えてしまうほどの・・・。


進学先の中学校は、近隣の3つの小学校を校区内に持っていた。

つまり、入学して初めて出会う顔のほうが多かったのだ。


だから、山田の悪行をあまりよく知らない生徒もいた。

金で釣ったり脅したりすれば安易に子分になってくれそうで世間知らずな生徒たちに目をつけて、山田は自分の支配下に引きずり込んだ。


山田とて不良グループは怖くて、彼らを刺激しないよう水面下での動きだった。

だからこそ、教師たちの目にも触れない動きとなったのだが。


そんな事など露ほども知らず、牧雄は図書委員として働きながらこっそり隠れて文学全集から性的な小説を探しては読み耽る平和な日々を送っていた。

時には、結局はバスケ部への入部を諦めた彰子と一緒に登下校しながら、密かに胸をときめかせたりもしていた。


そして季節は移り冬になり、木枯らしが吹き始めたある日。

公社住宅への一本道をふたり歩きながら、ふと彰子は道端の杭を指さした。


「とうとう工事、始まっちゃうんだね」


道路と雑木林との境に立つ木の杭には、なにかの目印なのかピンク色のリボンのようなテープが巻かれていた。

日が暮れて薄暗くなったなかでその色だけが、闇に染まろうとする周囲とは対象的に毒々しいまでに鮮やかに浮かんで見えた。

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