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降る、ふる、かれる。  作者: 茶茶
第一章 リスナー
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5 ボカロと出会う

私たちは教室へと再び歩き始めた。花壇ではアガパンサスが綺麗に咲いている。


毎朝教頭先生が水をかけて雑草を抜き、まるでわが子を愛でるかのように丁寧に手入れをしている。


その後ろ姿は哀愁が漂っており、りりかはあんなしょぼくれたおっさんと結婚する奥さんの気がしれない。お金目当てじゃね?といつの日か笑っていた。私は、時間の重なりを取り込んだようにしゃべる教頭先生のことが結構好きだった。


「ねー晴美、放課後ワーク見せてー」りりかは甘えるように言った。


「いいよ」晴美は嫌な顔人一つせず、むしろありがとうとでも言いたげな顔をしている。りりかの中の自分のポイントを上がるのが嬉しいのかもしれない。


「ありがとー。なんかおごるよ。ってか山下先生結婚すんだね」


「そうだねー」なんて相槌をうちながら、私は体操服と体育館シューズが入った袋を肩にかけなおした。


自分の肩が誰かに当たった。「すみません」と反射的に素早く謝り顔を上げると、目の前にはいびつな顔があった。


でこぼこの肌に小さな眼が開き気味に置かれている。口はいびつな三角形を描き、眉毛は一切手入れをしていなようでぼさぼさだった。


近くで見る醜い那賀さんの顔に私は思わずぎょっとしてしまった。


那賀さんは私の顔をみると。口元に拳をつくり、「いや、あの、えっと、だいじょうぶです」と喉をつかえながら言った。


「えー、なに。そんなに怯えなくていいじゃん」りりかは、ポンと那賀さんの肩に手をおいた。


その瞬間、りりかの手の振動で那賀さんの手にしていたスマホが床へと滑り落ち、何かのボタンが押されてしまったのか音楽が流れ始めた。ガチャガチャした音楽に機械のような声が聞こえる。


「えっ、何これ。オタクの曲だっけそれ?」かりんが言う。


「あー、何とかってやつだよね。ミクだっけ?」晴美が言う。


「なんかキモーい」


 りりかがその言葉を発した瞬間、空気が固まるのを感じた。


りりかは悪気もなくただ思ったことを口にしただけのようだが、二人の顔はひどく青白かった。


 那賀さんは震えるようにしてスマホを拾うと「ごめんなさい」と小さく呟いて階段を駆けて行った。宮崎さんも後を追うようにしてすぐにこの場から去っていった。


「なんか、私悪いこと言った?」りりかのきゅるりとした猫目が光った。


「いや、全然。それよりお腹すいたね」私は短いスカートを手で抑えながら階段に足をかけた。


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