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1.天界の女神

今回もオリジナルストーリーです。

相変わらず美少女が主人公なのですが、どうかお楽しみ頂けると幸いです。


 物心ついた頃には、あたしの中にもう一人の()がいた。

 その()はこの世の者とは思えないほど美しく、この世の誰よりも気高く……そして、非情だった。

 あたしが()と初めて言葉を交わしたのは、五歳の誕生日だった。

 その日、()はあたしに告げたのだ。


()の名は咲耶……。木花咲耶(このはなさくや)という。お前の守護神じゃ。覚えておくがよい……」


 神々しいほどの美貌に優しい微笑を浮かべながら、咲耶は右手に持った美しい日本刀で残心の血振りをした。

 ピシャッっという音とともに、白銀に輝く刃先から真っ赤な血が地面に散った。


 あたしの目の前には、血だらけになった男の人が横たわっていた。その男の首は真っ赤な鮮血を噴出しながら、体から離れた場所に転がっていた。


 その日、あたしは生まれて初めて、人を殺した……。




咲希(さき)、何をボーッとしているのよ? あッ、また桐生(きりゅう)先輩のことを見てたんでしょ?」

「ち、違うわよ。大声で変なこと言わないでよ、凪紗(なぎさ)……」

 栗色の髪を揺らしながらニヤリと笑いを浮かべている早瀬凪紗の顔を見上げると、神守(かみもり)咲希はカアッと顔を赤らめながら慌てて叫んだ。三階の窓際に座る咲希の席からは、友人と肩を並べて通学路を歩いている桐生将成(きりゅうしょうせい)の姿が見えた。


「桐生せんぱーいッ! お疲れ様ですー!」

「ち、ちょっと……!」

 咲希が止める間もなく窓に駆け寄ると、凪紗は大声で叫びながら右手を振った。その声に気づいて、桐生が咲希たちを見上げた。

 短めの黒髪をワイルド・アップバンクにした端正な容貌の青年だ。髪の色と同じ黒瞳に優しい眼差しを(たた)えながら、桐生が咲耶たちに手を振ってきた。慌ててペコリとお辞儀をすると、咲希は逃げるように窓から離れて自分の席に駆け戻った。


「相変わらずイケメンだね、桐生先輩。ライバル多いんだから、早めに(こく)った方がいいよ」

「こ、告るなんて……。あたしは別に……」

 凪紗の言葉に動揺しながら、咲希が真っ赤に染まった顔を逸らせた。その様子を楽しそうに見つめると、凪紗が笑いながら告げた。

「でも、あたしは隣にいた西条先輩の方が好みかな? そうだッ! 先輩たちを誘って、四人で映画でも見に行こうよ! 協力してあげるからさ……」

「何言ってるのよ。先輩たちはもうすぐ統一試験でしょ! そんな暇あるはずないじゃない?」


 咲希たちの通う聖光学院高等学校は聖光学院大学の付属校だが、大学に進学するためには三つある付属校の統一試験を受験しなければならなかった。その試験の成績と三年間の内申点によって、学部や学科、専攻が決まるシステムなのだ。

 三年の桐生たちは、その統一試験を間近に控えていた。


「試験まで、まだ一ヶ月以上あるじゃない? 一日くらい羽を伸ばす時間はあるわよ。インターハイ準優勝のお祝いだって、まだしてもらってないんでしょ?」

「お祝いなんて、そんな……」

「あたしが西条先輩にLINE(れんらく)してあげるね」

「ちょっと、凪紗……」

 慌てる咲希の言葉を無視して、凪紗がスマートフォンを操作しだした。ため息をついてその様子を見つめながらも、咲希は期待で胸が高まるのを抑えきれなかった。



 夏休みに横浜で行われた全国高等学校総合体育大会剣道大会……通称、インターハイで、咲希は女子剣道個人戦において準優勝という栄誉を手にした。惜しくも決勝戦で敗れはしたが、その試合内容は十七分にもおよぶ延長戦の末での惜敗だった。

 顧問を始め部員たちは自分のことのように悔しがったが、咲希は実力以上の力を出し切れたことの充実感の方が勝っていた。まだ二年生であり、来年もう一度チャンスがあることも大きかったのかも知れない。


 表彰式の後、男子剣道部主将の桐生(きりゅう)が咲希に握手を求めてきた。決勝戦よりも緊張しながら右手を握る咲希に、桐生は眩しいほどの笑顔を向けながら告げた。

「準優勝おめでとう、神守(かみもり)さん。最後は惜しかったけど、来年はきっと優勝できるよ。がんばってくれ」

「はい……。ありがとうございます、桐生先輩……」

 憧れの桐生を目の前にして、咲希は耳まで真っ赤に染めながら頷いた。桐生に言葉をかけられた喜びよりも、剣道着と袴のままでいることの方が咲希には気になった。シャワーを浴びていない自分の体から、汗の臭いがしているしている気がして恥ずかしかったのだ。



『西条先輩からレスが来たよ。OKだってッ! 今度の土曜日、午後一時に渋谷のハチ公前に集合ね。桐生先輩も来るから、お洒落して来なよ』

 都営三田線高島平駅の改札を抜けながら、咲希は凪紗(なぎさ)の言葉を思い出していた。こみ上げてくる嬉しさに、思わず足どりが軽くなった。


(まったく、凪紗ったら……。何であんなに積極的なのよ? でも、すごく楽しみ……)

 四人でのダブルデートとは言え、学校以外で桐生と出かけることは初めてだった。咲希のテンションはかつてないほど高まっていた。


 咲希の自宅は高島平駅から高島通りを渡って、十五分ほど歩いた閑静な住宅街にあった。途中に赤塚公園があり、いつもであればその公園の外縁に沿った大通りを通っていた。だが、今日の咲希は気分も良く、近道である赤塚公園の中を進んでいった。普段であれば、日が暮れてからは絶対に一人で足を踏み入れない場所だった。


 九月上旬とは言え、夜八時を回った公園の中は暗く、人の気配がまったくなかった。都会の喧噪から離れた山奥にでもいるかのように、周囲はシンと静まりかえっていた。

(失敗したな……。夜だとこんなに静かなんだ。怖いから早く抜けよう……)

 若い女が一人で暗い公園の中を歩いていることの危険性に気づき、咲希は足を速めた。浮かれていたとは言え、何故こんな選択をしたのかが悔やまれた。いつもであれば、遠回りをしてでも明るい大通りを歩いて帰るのだ。


(そう言えば、この公園って、あの場所だ……)

 そのことを思い出した途端に、咲希は思わず両手で体を抱きしめた。恐怖のあまり、ブルッと全身が震えて鳥肌が沸き立った。

 十二年前、五歳の時に拉致された場所が、この赤塚公園だった。


(あれから昼間でも絶対に一人では来なかったのに……。何で今日に限って……?)

 幼心に刻みつけられた恐ろしい体験を思い出すと、咲希は本気で自分の選択を後悔した。あれほどの恐怖を忘れていた自分自身が信じられなかった。


(急ごう……。走って抜けよう……)

 通学鞄を左脇に抱えると、咲希は出口に向かって全力で走り出した。赤塚公園は四百メートル四方の小さな公園だ。咲希の今いる場所から出口までは、およそ二百メートルほどだった。

 だが、次の瞬間、咲希は驚きのあまり足を止めた。咲希の行く手を塞ぐかのように、二人の男が突然立ちはだかったのだ。


(な、何……?)

 男たちがゆっくりと咲希に向かって歩き出してきた。身の危険を感じて、咲希は来た道を戻ろうと後ろを振り向いた。

(な、何なの、いったい……?)

 後ろにも二人の人影が立っていた。前後を四人の男たちに囲まれて、咲希は茫然と立ち止まった。


「何ですか、あなたたちは……?」

 右肩に掛けていた竹刀袋から愛用している真竹(まだけ)古刀の竹刀を取り出すと、咲希は通学鞄を地面に置いて正眼に構えながら鋭い声で誰何(すいか)した。竹刀を構えたことにより、無意識に落ち着きと自信を取り戻していった。


 剣道三倍段という言葉がある。

 その意味は二つあると言われているが、一般的には「武器を持っている剣道に対して、無手の空手や柔道などが相対するのならば、段位としては三倍の技量が必要である」ということだ。

 咲希は剣道二段であり、先月行われたインターハイでも女子個人戦で準優勝をしている。見たところ、四人の男たちはいずれも武器を持っておらず、無手だった。実戦形式の地稽古(じげいこ)でも四人を一度に相手にしたことはないが、無手の男たちに後れを取らない自信が咲希にはあった。


「元気がいいな、お嬢ちゃん。そんな物騒なもん捨てて、俺たちと遊ぼうぜ」

 正面右側から近づいてくる男が、ニヤリと笑みを浮かべながら告げた。短く切った金髪を逆立たせ、両耳に三つずつピアスを付けた男だった。年齢は二十代前半くらいで、身長は百六十五センチの咲希よりも十センチくらい高かった。

 一見してまともな職業に就いているとは思えない、チーマーか半グレのような男だ。


女子高生(JK)がそんなもん振り回すのは可愛くねえな。俺たちがもっと気持ちいいことを教えてやるよ」

 金髪ピアスの左側から近づいてくる男が楽しそうな笑みを浮かべながら言った。

 こちらは身長百八十センチを超える大男だった。長身に見合って横幅もガッシリとしており、普段からケンカ慣れしている危険な雰囲気を(まと)っていた。肩まで伸ばした髪は茶髪で、口元は無精ひげに覆われていた。


(こいつら、やばい連中だわ……)

 男たちの目的が自分を襲うことにあると気づくと、咲希は素早く振り返って背後を確認した。後ろから近づいてくる男二人との距離は五メートルくらいだった。

 右後ろから近づいてくる男は百七十センチもない小柄だが、抜き足で歩いていることから何か武道を嗜んでいるように見えた。だが、それよりも咲希を驚かせたのは左後ろの男が持っている物だった。


(何、あれ……? まさか、スタンガン……?)

 電気シェーバーのような黒い物体の先から、バチバチと青白い光が瞬いていた。映画やドラマの中でしか眼にしたことがないスタンガンに間違いなさそうだった。その脅威に気づいた瞬間、咲希は左後方に体を捻りながら、スタンガンを持つ男との距離を一気に縮めた。


「たあッ……!」

 裂帛の気合いとともに竹刀を繰り出すと、咲希はスタンガンを持つ男の右手首を鋭く打ち据えた。

「痛えッ……!」

 男が悲鳴を上げながらスタンガンを地面に落とし、左手で右手を押さえ込んだ。その隙を咲希は見逃さなかった。


「面ッ……! 胴ッ……!」

 鋭い気合いを発しながら、うずくまる男の頭頂を竹刀で叩きつけると、咲希は驚愕に眼を見開いている左側の男の脇腹を思い切り打ち払った。

「ぐはッ……!」

 竹刀とは言え、剣道有段者が本気で打つ衝撃は無視できない威力がある。男は両手で脇腹を押さえながら苦しそうに膝をついた。


(今だッ……!)

 咲希は茫然と立ち竦む背後の二人を無視して、全力で来た道を駆け出した。不意を突いて二人を倒したとは言え、危険を冒して残りの二人と戦うよりも助けを求めることを選んだのだ。


「待てッ……!」

「舐めやがってッ!」

 背後から男たちの怒号とともに、足音が聞こえた。我に返った二人の男が、咲希の後を追いかけてきたのだ。

(大通りに戻れば、まだ人通りがある。そこまで逃げれば、あいつらも諦めるはず……)


 七歳の時から十年間、一日も欠かさずに竹刀を振り続けてきた咲希は、体力には自信があった。大通り沿いの入口までの距離は二百メートルもないはずだ。それくらいであれば、全力疾走を続けられる。

(大丈夫、逃げ切れる。大通りに出たら、大声で助けを呼ぶんだ……)


「……!」

 だが、咲希の考えを嘲笑うかのように、左右の茂みから二人の男が姿を現した。そして、咲希の行く手を塞ぐように両手を大きく開いて立ち塞がった。

(六人いた……?)

 男たちとの距離は十メートルもなかった。愕然としながらも、咲希は足を止めるわけにはいかなかった。立ち止まれば再び男たちに取り囲まれることは、火を見るより明らかだった。


 剣道には走りながら放つ型はない。唯一それに近い型があるとしたら、「突き」だった。

(迷っている時間はないわ。右側の男を突くッ!)

 二人の男たちの間を駆け抜けることも考えたが、男たちの間隔は二メートルもなかった。横を通り過ぎる間に飛びかかられたら一巻の終わりだった。

 咲希は全力で走りながら、竹刀を正眼に構えた。


「突き」は剣道の中で最強の攻撃だ。突き垂れと呼ばれる咽頭部を守る防具の上からでも、気管や頸動脈損傷、頸椎損傷などを起こす可能性があり、小中学生剣道では禁止されている技だ。防具を着けていない人への「突き」は、死に至らしめる危険性さえあった。

(捕まったら、絶対に酷い目に遭うッ! これは、正当防衛よッ!)


 咲希は自分に言い聞かせると、右手の力を緩めて左手で竹刀を握り直した。より遠くの敵に放つ片手突きの構えだ。

 そして、右側の男の正面に向かって全力で疾走した。男の正中線に剣先を置くように構えながら、やや腰を沈めて溜めを作った。

 男との距離が二メートルを切った。男の喉元に視線を集中させると、咲希は全身のバネを解放して左手を突き出した。


「たあぁあッ……!」

 裂帛の気合いとともに、竹刀の剣先が男の喉元に突き刺さっていった。

「……ッ!」

 まさに剣先が男の喉に命中しようとした時、衝撃とともに咲希の体が宙に浮いた。

 次の瞬間、右半身から地面に叩きつけられ、咲希は男に組み敷かれていた。突きを放った瞬間に、左手にいた男がタックルのように咲希に飛びかかってきたのだ。


「とんでもねえじゃじゃ馬だな。あんなのまともに受けたら、死んじまうぜ……」

 咲希の腹に馬乗りになって両腕を地面に押さえつけながら、男が告げた。右半身に走る激痛を噛み殺しながら、咲希は全力で男を振り払おうと暴れた。

「放してぇえッ! いやぁああッ……!」

 体当たりされた衝撃で、竹刀は二メートル以上も先に転がっていた。どんなにもがいても、丸腰で男の力に敵うはずもなかった。


「騒ぐんじゃねえッ!」

 バシッと音を立てて左頬を平手で張られた。一切の手加減もない凄まじい一撃だった。脳髄を激しく揺らされ、脳震盪を起こして咲希の全身からグッタリと力が抜けた。

「せっかく綺麗な顔をしてるんだ。傷つけんじゃねえよ」

 咲希が突きを放とうとした男が近づいてきて、薄笑いを浮かべながら告げた。


「そうだな、つい……。どれ、体の方はどうだ……?」

 ニヤリと笑いを浮かべると、馬乗りになっている男が咲希のブラウスを両手で掴んだ。そして、ボタンを引き千切りながら、力任せに広げた。白いブラジャーに包まれた形の良い双乳が男たちの眼に晒された。男が舌舐めずりをしながら、ブラジャーを一気にずり上げた。

 プルンと揺れながら姿を現した白い乳房の頂きには、小さめの淡紅色の媚芯が恥ずかしげに(たたず)んでいた。


「大きさはイマイチだが、柔らかいのに弾けるような揉みごたえだぜ。さすがにJKだけある。乳首も綺麗なピンクだし、感度もいいぞ。もう硬くなって来やがった……」

 両手で咲希の乳房を揉みしだき、指先で媚芯を擦り上げながら男が満足そうな声を上げた。男の言葉通り、白い双乳の頂きで媚芯がツンと自己主張を始めていた。


(こんなの嫌だ……。犯されるッ! 誰か助けて……!)

 一瞬、遠のいた意識をすぐに取り戻したが、咲希は全身に力が入らずに指一本動かせなかった。瞼さえも思うように開くことができなかった。

 その間に上半身をはだけられ、嫌悪する男の手によって胸を揉みしだかれていた。


 咲希は処女だった。それどころか、男性とキスをしたことさえまだなかった。小学校二年生の時から十年以上も、ずっと剣道一筋で生きてきたのだ。それも当然と言えば当然であった。

 そうは言っても、咲希も十六歳の女の子だ。彼氏のいる友達を羨ましく思ったり、自分もいつか素敵な恋をしたいとも考えていた。実際に、男子剣道部の桐生将成(きりゅうしょうせい)に淡い恋心さえ抱いていた。


 だが、好きな男性と愛し合うことと、どこの誰かも知らない男に強姦されることはまったく意味が違う。今、咲希は公園の遊歩道から離れた茂の中に連れ込まれ、六人の男たちに囲まれて次々と服を剥ぎ取られていた。

 男たちはこういったことに慣れているのか、咲希の体にスタンガンを撃ち付けて抵抗力を奪った。スタンガンは高電圧により筋力を麻痺させるが、意識までは奪えないことを咲希は初めて知った。つまり、咲希は意識があるにも拘わらず、一切の抵抗ができない状態にされたのだ。


「いよいよあと一枚だな、お嬢ちゃん。これから俺たち六人で可愛がってやるぜ」

「うんと気持ちよくしてやるから、楽しみにしていろよ」

「ビデオも撮ってやるぜ。警察(サツ)にたれ込んだら、その映像をネットにばらまいてやる。それが嫌なら、チクるんじゃねえぞ」

 スマートフォンを片手に笑いながら、男たちが楽しそうに告げた。


(嫌だッ! 助けてッ! お願い、誰かッ……!)

 恐怖のあまり、男たちを見つめる黒瞳から涙が溢れた。その様子を録画しながら、男たちは咲希の白いパンティーに手をかけた。

(脱がされるッ! いやぁあ……! やめてぇえッ……!)

 悲鳴を上げたつもりが、口元さえも痺れてくぐもった声が漏れただけだった。


(お父さん、お母さん、助けてッ! 桐生先輩……! お願い、助けてッ……!)

 両親の顔と同時に憧れの桐生の顔を思い浮かべると、咲希はギュッと眼を閉じた。

 その時、突然脳裏に美しい女性の声が響き渡った。

『馬鹿者ッ! 助けを呼ぶ相手が違っておろうッ!』


(えッ……? 誰ッ……?)

『誰ではないわ! 早く()の名を呼ばぬかッ!』

 再び、苛立たしげな声が脳裏に響いた。遠い昔、どこかで聞いたことがある声だった。

(誰なの、あなたは……?)

『たった十二年で忘れたのか、愚か者ッ! ()じゃッ!』

()って……。まさか……)

 記憶の奥底に刻まれていたその名前が、咲希の脳裏に浮かんできた。


(咲耶……? 木花咲耶(このはなさくや)ッ……! 助けてッ……!)

 心の中でそう叫んだ瞬間、咲希の意識は自分の中へ吸い込まれるように沈んでいった。

 そして、その代わりに……。


「よくぞ思い出した。後は()に任せるがよい……」

 カッと目を見開くと、咲希の右手が自分の体を組み敷いている男の喉元を掴んだ。

「ぐはッ……!」

 女の力とは思えぬほどの凄まじい握力で男の喉を掴んだまま、咲希は右手を大きく振った。その瞬間、七十キロは優にある男の体が宙に弧を描きながら投げ飛ばされた。


「なッ……!」

「何だ、てめえは……?」

 男たちが驚愕に大きく目を見開きながら、咲希を見つめた。

 男たちの視線を一身に受けながら、咲希……いや、咲耶(さくや)がゆっくりと立ち上がった。白い下着一枚だけの姿で、惜しげもなく美しい裸身を男たちに晒しながら、咲耶は見る者を魅了するほどの微笑を浮かべた。

 その全身は、神々しいほどの光輝に包まれ、彼女自身が発光しているかのように輝いていた。


「十二年ぶりの現世(うつしよ)じゃ。久しぶりに楽しませてもらおうかのう?」

 天界を奏でる音楽のように、美しい声色(こえ)が凜と響き渡った。男たちは茫然としながら、自分たちが輪姦しようとしていた美女を見つめた。

 その絶世の美女の右手には、白銀に輝く一振りの刀が握られていた。


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