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ジンチョウゲに捧げた重い思い、想い。(合同小説 個人の部 鈴木 湊)

作者: 鈴木 湊

「大好きだ。」

 「うん…私も、好きでした。」

 あの日、校舎裏で彼女に告げた言葉。それは恋の始まりを告げていた。僕が無事に告白に成功したのは、きっと神様がいたからなのだろう。



歩きながらふと上を見上げるとダイアモンドダストだろうか。朝日に照らされた水蒸気達がキラキラと輝いていた。

 「綺麗だな。」

そう呟いた言葉は横を通り過ぎた電車と白息で消えていった。

僕には片思いの好きな子がいる。僕の友人は早く告ってしまえだの、両思いだのと茶化してくるが、僕は告白する気なんてなかった。彼女は所謂クラスのマドンナだ。しかも彼女はバドミントン部のマネージャー。そして僕は図書部。唯一の共通点は花が好き。それを知ったのはつい最近の出来事だった。

 僕の学校は北海道の田舎にある。札幌から100㎞も離れてる為、中学生は滅多に遊びに行けない。近所でする事と言えば、スキーくらいだろうか。空気はとてもきれいだと自他共に認めるのが町のいいところ。この町は昔に近くの河川が大氾濫を起こしている。そのため町の土は比較的肥えている。適当に植えた花でも元気に育ってくれる。近くの山の栄養が流れてきて、冬が開けると腐葉土で栄養も確保できる。花を育てるには絶好な場所だった。

 そんな僕の学校の特徴は美化委員会が駅前の花などを管理し、町を明るくしようという取り組みだ。元々生徒会の奴らが作った企画で、地域の方々を共に月に一回花を植えている。今みたいな冬には活動は無いが、学校のビニールハウスで育てている。

 彼女と美化委員として一緒になったのは去年の春。クラスで立候補したのが奇跡的に彼女と僕だけだった。もちろんクラスの奴らの妬み嫉みは凄かった。

 定期的に水やりで一緒になると他のクラスメイトと変わらない態度で僕に話しかけてくれる。そんな広い心に僕は恋をした。

 僕は付き合いたいと思ってるわけじゃない。けど一緒にいたいと思った。ないものねだりなのかもしれないが、そう思った。

 夏に彼女をデートと言えるものでは決してなかったがお出かけに誘った。僕は断られてもいいように後の予定を色々作っていた。しかし彼女の答えは意外なものをだった。眩しい笑顔で快く了承してくれたのだ。こんなことがあってもいいのだろうか。彼女と予定を合わせてそこで別れると、見えなくなった位置でガッツポーズをした。



 長い髪を後ろでポニーテール。冬場は静電気でまとまらないことに少々苛立ちながらマフラーを巻き、家族にいってきますと伝えた。外に一歩踏み出すと風のない冷たい、凛とした空気がそこにはあった。手袋をはいた手に白息を吹きかけ、学校へと歩みを進めた。

 私には片思いの彼がいる。私の親友は、彼は私に気があるとか、彼とは似合わない、などと言ってくるけど、彼はあまり周りと関係を持たない事から、そんな気は無いと考えていた。

 彼は自分の仕事を全うする。先日図書室に本を借りに行くと、綺麗に本を拭いてから本を戻していた。別に本を拭くことは仕事内容にないはずなのに、率先して作業していた。私はバドミントン部のマネージャーとして日々激務をこなしているが、彼なら余裕でこなしてしまいそうだといつも感じていた。

 彼と私は美化委員で一緒になっていた。駅前の花活動で一緒になったときはつい沢山話しかけてしまう。しかし彼は静かに私の話を聞きながら、目の前の花を大切そうに手入れしていた。

 そんな彼と付き合いたいとは思っていなかった。それは好きじゃないということではなく、仲良くお話したいという感覚に近いのかもしれない。いつものように駅前で活動していると珍しく彼から声をかけてきた。何かと思うとデートの誘いだった。彼と日程など調整した後、その場を後にすると、彼が見えなくなったところで足が震えている事に気が付いた。これは決して恐れているわけじゃないと気づいた。これは、緊張していたのだ。デートに誘われるなんて初めてだった。



 お出かけ当日。僕は駅前で彼女が来るのを待っていた。緊張しすぎて30分前に到着してしまった。手汗が滲む。額に汗が。冬なのに妙に体は暑かった。

 早く来てしまったので余裕がある。それだけを頼りに心を落ち着かせていると、向こうの白いダッフルコートをまとった少女がこちらへ近づいてくる。そんな女の子らしい服を着た彼女は意外にもすぐそこまで来ていた。

 「ごめんね。早く来ちゃった。」

そんな彼女の一言目はまるで付き合っているデートのようでドキッとした。

 「僕も早く来ちゃったんだよね。早速だけど行こうか」

彼女は軽く頷いて、駅の改札を抜けた。

 少し待っていると銀色の電車が札幌行の方向幕を掲げて停車した。僕たちはそれに乗り込むと、旭川から乗車している乗客が多い中、二人掛けの座席に座り、ぼんやり外を眺めた。



 何故か早歩きになってしまう。外の寒さだけじゃない。自然と胸の高鳴りで鼓動が耳に聞こえてくる。今日は彼とのデート日。お母さんには友達と遊んでくるといったけど、本当はデートだったりする。もしかしたら告白があるのかもしれない。そんな緊張の中、色々頭の中でシチュエーションを考えていると、気が付くと駅前通りに来ていた。駅舎を見ると紺色のダウンジャケットを着た男の子が誰かを待っているように見えた。きっと彼だ。そう思うと更に少しだけ歩くスピードが速くなった気がした。

 「ごめんね。早く来ちゃった。」

 集合の30分前に到着してしまったが、彼はもうそこにいた。彼は

優しい口調で

 「僕も早く来ちゃったんだよね。早速だけど行こうか。」

 そういうと、用意していた乗車券を渡して、改札へ歩いて行った。私はその後ろを静かについていった。札幌行の特急が到着するとすぐに座席について、二人で窓の外をゆっくり眺めていた。



 そこからの記憶なんて残ってない。とにかく楽しかった。携帯に残ってる写真を振り返ると、札幌の観覧車に乗っていたようだ。え。観覧車。そんなデートのようなシチュエーションを体験していたようだ。そういえば、二人でボウリングをしたあと、受付で観覧車の割引券をもらった気がした。ただのお出かけのつもりが、とても幸せな時間を過ごしてしまった気がした。

 翌日学校へ向かうと、我々が札幌へ出かけていたのを目撃した奴がいるらしく、少ないクラスメイトには一瞬で広まってしまった。皆、僕に対して

「ついに彼女出来たのか!」

などと声をかけてくるが、僕はそれを否定しつつ頬が赤らんでいる事を気にした。

 僕は彼女の事が本当に好きなのだろうか。僕のような目立たない存在な僕と付き合ったりしたらいじめられないだろうか。そんな気持ちが生まれてきた。札幌へ出かける前は付き合う気などなかったが、いざ遊んでみると複雑な気持ちになった。これが恋なのだろうか。



家に帰って、ソファに腰を下ろすと、改めて彼とデートしたのだと実感する。夢じゃない。まさか観覧車に二人きりで乗るなんて思ってなかった。でも恋愛ドラマのようなシチュエーションにはならなかった。でも、彼の瞳に映った札幌の夕焼け。観覧車の中が茜色に染まる中なら私の耳が赤くなってたなんて気が付かないだろう。

 次の日校門前で待ち合わせている友達に

「昨日デートしてきたんでしょ?」

と聞かれた。まさかもうバレているとは女子の情報伝達スピードはやはり侮れないと感じた。私は友達に小さく頷くと、

「じゃあ、付き合ったんだぁ!」

なんて明るい声で返された。咄嗟に否定すると残念そうに学校へ歩いて行った。

私は彼が大好きだ。でも彼は凄く物静かな人だ。私のような人が釣り合うだろうか。彼に迷惑をかけてしまったら本末転倒じゃないか。そんな気持ちがずっと心の中で引っ掛かっていた。恋って煩わしい。



 ある日、昼休みに優雅に読書に勤しんでいると、友達に

「いつ付き合うんだ?」

と聞かれた。僕は急な質問に詰まっていると真剣な声で

「あのなぁ、この間彼女の友達とご飯食べてきたんだけどよ。お前の事すっごいい好きみてぇだぞ?

あんな可愛い子をいつまでほっとくんだよ。」

彼女が、僕の事を好いている。そんなのは嘘だと言い返すと呆れた表情を浮かべながらどこかへ行ってしまった。

 昼休み終わる直前に戻ってくるとニヤついた顔で

「お前、放課後、体育館裏で告白しろ。大丈夫、彼女はもう呼んである。」

想像していない状況に開いた口が塞がらない。あからさまに動揺したように目を泳がせていると、チャイムと同時に国語教師が教室は入ってきた。

 放課後に、体育館裏で、告白。ちらっと彼女の方を見ると気にしてないような表情をしていた。



 昼休み、図書館で友達と宿題をしているとクラスメイトの男子が声をかけてきた。

「君、あいつが放課後に体育館裏へ来てくれって伝言を頼まれた。行ってやってくれ。」

とのことだった。私は何のことかわからず首をかしげると友達に肩をバンと叩かれて、

「絶対告白じゃん!やば!!」

と大声で喜んだ。図書委員に注意を受けるとペコペコと頭を下げながら椅子に座った。

 放課後に、体育館裏で、告白。遂に彼とちゃんと付き合えるのだろうか。そう思うと緊張で手汗が止まらなかった。



 ど緊張の中、気が付くと6限目の終わりを知らせるチャイムが校内に鳴り響いた。僕はあそ少しで彼女に告白する。あまりにも急でどんな言葉を言えばいいのかさっぱりわからなかった。リュックを背負った友達に頑張れよと耳打ちを聞いた後、すぐに帰ってしまった。上靴から外靴へ履き替え、ゆっくりと体育館裏へ歩みを進めることにした。

 緊張の中、ただ立ってる事しか出来ない僕の前に遂に彼女が姿を現した。紺のブレザーという制服の中、長い髪の毛はふわりと風になびいていた。

「ご、ごめんね。忙しい放課後に・・・」

ごもった僕の言葉に彼女は小さく首を振った。

「あの・・・呼び出した理由なんだけど・・・」

一呼吸置いて、つばを飲み込み、もう一度小さく息を吸って声を出そうと喉を開いた瞬間に

「ずっと好きでした!私と付き合ってくれませんか!」

と野球部のグラウンドへ聞こえそうなくらい大きな声で叫んだ。

「え、あの・・・え、いいんですか・・・?」

僕は動揺の中、何かの間違いなのではないのかと再度確認しようとすると食い気味に

「君じゃないとだめなの!」

とまた一段と大きな声で宣言された。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。僕は緊張の中、ここは男の意地でかっこよくと考え、一歩足を進めると、優しく抱擁して

「大好きだ。」

と呟いた。

「うん・・・私も好きでした。」

お互い小さな声で確かめ合うと、リュックなんて投げ捨てて、長く抱擁しあった。



 足が震える。手が震えて板書をノートに写すことが難しかった。あと少しで告白される。付き合える。大好きな彼と。そう思うと早く時間よ経ってくれと願っていた。

 教室の掃除も気が気でなかった。ついぼーっとして友達にクラスメイトに大丈夫かと心配されるくらいだった。

 冷たい風が吹く中、体育館裏へと続く道には既に一人分の足跡が雪に出来ていた。もういるんだ。そう思うと改めて実感してしまい、脚がすくんでしまいそうになった。

 いざ、裏へ顔を出すと、彼は仁王立ちでそこで待っていた。

「ご・・・ごめんね。忙しい放課後に。」

私は緊張で声が出ず。小さく頭でリアクションした。

「「あの・・・呼び出した理由なんだけど・・・」

遂に告白。今まで好きだった人と付き合える。そんな気持ちでいると彼は痙攣しているように唇が動いていた。その動きは緊張しているように見えた。数秒の時間がじれったくて、緊張と嬉しさでどうにかなりそうな気持が抑えきれなくなった瞬間、

「ずっと好きでした!私と付き合ってくれませんか!」

言い切った直後、意図していない言葉に口を押え、状況を把握しようと彼を見た。彼は凄く驚いた顔とは別に寒さではない、頬が赤く染まっていった。

「え、あの・・・え、いいんですか・・・?」

そんなのいいに決まってる。

「君じゃないとだめなの!」

気が付いた頃には、さっきまで寒さで声が出なかったとは思えないほど大きな声で叫んでいた。遂に言ってしまった。そう思うと恥ずかしくて泣きそうになった。すると彼はそっと私に近づいて優しく抱きしめると、

「大好きだ。」

と耳元で囁いた。

「うん・・・私も好きでした。」

もうそう答えるしかなかった。



 そのあと、クラスメイトには無事に成功したことを報告し、楽しい日々を過ごした。気が付くと雪が解けて3月に入りだした。

 彼女と街を歩いていると、ふと彼女が道端の花の前でしゃがんだ。

「これ、いい匂いのするお花だね。」

そこには桃色と白色で鮮やかな花が小さく咲いていた。鼻を近づけるととてもいい匂いがした。

「これはジンチョウゲかな?」

「そうなの?」

「春に咲く、小さな木に咲くお花だよ。」

「そうなんだね。これ、学校にも植えたいね。」

「先生に聞いてみようか。」

小さな花の前で、いい香りに包まれて、清々しい気持ちでまた、街の中を歩きだした。花はそこでまた来年と手を振るように風に吹かれ、小さく揺れていた。


中学校での思い出は今を振り返っても思い出深い。色んな事があった。二人で歩いたこの道。初めて美化委員として出会って、冬には一緒に札幌にも行った。そんな待ち合わせにもお世話になった。彼女と色んな話をしながら登下校を共にした。そんな僕の青春を代表する道だ。そして、そんな彼女が轢かれた場所もこの道だった。一生忘れない。僕のアパートの前には彼女が好んだジンチョウゲの木が植えられている。彼女の働きで、僕と彼女の母校の前にはジンチョウゲが綺麗に咲き誇り、卒業生のお別れと、新入生との出会いを歓迎している。

 きっとそれは彼女が咲かせている、栄光の輝きなのかもしれない。



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