「僕と結婚してくれませんか?」 人間が何を言っておるのじゃ馬鹿者め
「僕と結婚してくれませんか?」
少女と出会った時、その言葉は無意識のうちに紡がれていた――。
なんとなく自然を感じたい時に通っていた家の近くの山。その日は偶然か必然か、いつもより奥の方へと行きたくなった。
いつもの見慣れた景色も通り過ぎて、そろそろ引き返そうと思った時、目の前には大きな神社と小さな少女が立っていた。
宝石のような銀髪に吸い込まれるような漆黒の瞳。
そしてその幼い外見からは考えられないようなオーラを纏っている少女が、綺麗な古めかしい着物を着て佇んでいた。
「僕と結婚してくれませんか?」
「何を言っておるのじゃ、馬鹿者め」
まだ17歳のくせに、とか。それ以前になんでこんな山奥に、なんて言葉を押し退けて僕は言っていた。
「お主は人間じゃろう? 妾はこの神社の神じゃからそれは無理な話じゃのう」
「そもそも人間がこんな所まで入りおって、迷子になってしまっても知らんぞ?」
とは言われても、もう既に僕は迷子になっていた。
加えて、両親は幼い頃に亡くして今は一人でバイトをしながら生きている為、ここで死んでも誰一人気付く事はないだろう。
「もう既に迷子なのでその点は大丈夫です!」
「それは大丈夫とは言わないぞ、この戯け!」
「そんな事より僕は君に一目惚れしたみたいだ、結婚しよう!」
「じゃからお主と結婚は出来んと言っておろうが」
「僕にとっては神でも人間でも構わないんだけど、何か問題でもあるんでしょうか?」
「神は永遠の時を生きる故、人とは相容れぬ存在なのじゃ。そもそも人は人と結ばれるものじゃろう?」
「じゃあ、僕も貴方と永遠の時を過ごせば問題無いですね!」
「はぁ、分かったから今日はもう暗いし妾の家に泊まって、明日自分の家に帰るのじゃぞ」
その日僕は、彼女の家に泊まったのだがご飯は美味しいし家は広いし最高だった。彼女は今まで一人だったからか、話し相手が珍しいからか色々なことを話してくれた。
名前は無いらしいので僕は神様と呼ぶ事にした。そしてそれからの日々は、灰色の人生に色がついたような感覚だった。
今日はどんな遊びをしようかなんて考えながら、山の奥深くを歩いているといつもの神社が見えてきた。
「今日も来たのか、お主も懲りないやつじゃのう」
そう言っている彼女の尻尾は心なしか左右に揺れていた。
最近は仕事が忙しくて神社に行く機会も減ってしまった。明日は久しぶりの休日なので神社に行くのが楽しみだ。
明日はどんな話をしてくれるのだろうなんて、年に似合わず読み聞かせを楽しみに待つ、まるで子供のような気分だった。
「最近のお主は元気が無いようじゃが仕事が忙しいのか?」
そう言う彼女は悲しそうな表情で、僕の事を考えてくれていると思うと少し嬉しい気持ちになった。
歩き慣れているはずの道がやけに遠く感じる。もう自分も歳なのだろうかと考えながら歩いているといつもの神社が見えてきた。
「今日もお疲れのようじゃな。お主はもう仕事も無いのじゃから、妾の家にそのまま済めば良いじゃろう?」
神様のありがたい提案を受け入れる事にした。
後どれだけの年月を神様と共に過ごす事が出来るのだろう。
神様に会えるのももしかしたら今日が最後かもしれない、なんて考えると少し寂しい気もするけど。神様から今まで貰ったものを思い出すと怖い気持ちは全く無かった。
「神様、愛しています」
「妾もお主のことを愛しておる。だからもう少しだけ此処に居てくれ••••••」
「きっと来世でまた会いに行きます。だから笑って下さい、神様」
「当たり前じゃ、永遠の時を生きる約束を忘れたとは言わせんからな!」
「もちろん、です。僕が神様との約束を忘れる訳が••••••」
こうなることはわかっていたつもりだったのに。
人間は短命で、いつかこうやって取り残される日が来る事をわかっていたのに。
勝手に妾の事を愛して、勝手に楽しかった日々の記憶だけを残して、勝手に妾を置いて行きおって。
やはり人間なんかに関わってもろくな事など無いのじゃ。
でも、もしも本当に来世があるなら。会いに来てくれると言うのなら。なんてーー
「少年よ、こんな山奥になんの用じゃ?」
「もちろん、神様との約束を果たしに来ました!」
「何を言っておるのじゃ••••••馬鹿者め!」
何となくこういう雰囲気の寿命差が好きなので、最小限で書いてみました。
文法などの拙い点はお見逃し下さい。