滅者の心臓《ルインズ・ハート》
「入学そうそう入院して、しかも転校しないと行けないなんて…。まあ、転校まで暫く家でのんびり出来るんだからいいか。…ん?」
俺は退院して久しぶりの我が家へ帰宅した。帰宅して直ぐに荷物を放り投げ部屋着に着替えようとすると、急に心臓が高鳴り体中が熱くなった。
「なんか妙に熱い?風邪でも引いたかな?それに何だかものすごく眠く…」
次第に鼓動が早くなっていくき、次は強烈な眠気が襲ってきた。終いには体の自由がきかなくなり、ついに俺はその場に倒れ伏してしまった。
意識が朦朧としていくのを感じながら、頭の中に直接響く声に気がついた。
(個体名"ウルス=ドラゴン"の権能:『滅者の心臓』により輪廻転生を再発動します)(輪廻転生の第一フェーズは既に完了しています)(第二フェーズの問題点を解析_完了)(問題点を改善_完了)(第二フェーズへ移行します)(魂の統合を開始_
その声を聞きながら俺は意識を手放した。
(輪廻転生の最終フェーズに移行します)
(前世の記憶を継承します)(error、error_記憶の継承に失敗しました)(強制的に記憶を継承する場合、その不可に耐えられないと推測します)(記憶の継承を省略します)
(全能力を継承します)(error、error_権能、一部のスキルを除き能力の継承が不可能です)(権能、原初スキル、固有スキルの継承を行います…)
(error、error_空気中の魔素濃度が薄いため必要な魔力が足りません)(error、error_継承が出来ません)(体内の魔力で補います)(error、error_体内の魔力が足りません)
(権能:『無限』の対象を魔力に設定…)(継承完了)
(ステータスと肉体を"地球"から"始まりの世界"へ適合させます…)(適合失敗)(原因の解析を開始します…)(解析完了。権能、スキルの調整が必要です)(同時に新たに発芽したスキルの調整を行います)(権能:『管理者』により権能、スキルの調整を開始…)(調整完了)
(個体名"黒羽=澪央"の肉体にステータスを反映…)(反映完了)
(肉体に異常を感知)(強大な魂が肉体に影響を及ぼしていると推測します)("始まりの世界"でのレベルの上昇を推奨)
(error、error_高位存在からの干渉を感知)(権能を強制発動します)(権能:『滅者の心臓』による"降臨"を発動)(転移を開始します…)
("輪廻転生"完了)
「痛ッ…あれ?俺いつの間に…ッ!!」
頭に何かが落ちてきた衝撃を感じ、目を覚ました。俺は体を起こしながら辺りを見渡すと、俺の居た部屋から別のところに移動していることに気づいた。
そこは薄暗くとても広い空間だった。しかし、目の前にいる存在によって狭く感じた。
禍々しく捻れた角、強靭な四肢、鋭い爪、八枚の翼を持ち、全身黒く、とてつもやく大きな竜が居た。その竜から発せられる"死"を連想する程の圧倒的なプレッシャーに呼吸を忘れ腰を抜かしそうになった。
「…し、死んでいるのか?」
まるですぐに立ち上がり襲って来るのではないかと、俺はその存在に恐怖を感じた。しかし、それと同時に何故かこの竜はすでに死んでいると直感した。
ゲームなどでしか見たことのない存在に困惑しながらも、俺はいち早く状況を確認するべく動こうとすると何か固いものに触れた。
「これが頭に落ちてきたのか」
近くにあった金色と黒色、それぞれの金属で出来たガントレットを持ち上げてよく見ると、見たことの無い文字や魔方陣のようなもが書かれていた。細工が細かくかなりの技術力で作られたことが分かった。
竜の姿に驚き気づかなかったが、よく回りを見るとその巨大な竜よりも高く積み上がった財宝の山が幾つもあった。
「凄いな。これは…」
そのあまりの光景に呆然としてしまった。金や銀、宝石だけでなく武器や防具、宝箱、芸術品、よく分からないものまで積み上げられていた。
「まるでファンタジーの世界だな。にしても、ここはどこなんだ?」
【ここは"始まりの世界"の中心"始まりの大地"より更に北東にあるカルテナ大陸です。古き迷宮の一つで"破滅の塔"の最上階です】
「え?だ、誰?」
頭に直接語りかけてくる声に困惑しながらも辺りを更に見渡す。しかし回りを囲むのは財宝の山ばかり、人の影は一切無かった。
【私は『管理者』、マスターの五番目の権能です】
「アドミネーター?権能?」
【管理者とお呼びください】
その声は何処か懐かしく安心するような声だった。俺は自分を落ち着かせ幾つもの疑問を胸に問いかけた。
「…君は誰で、何で俺はここにいる?」
【私はマスターの力…権能の一つに過ぎません】
「さっきも言っていたが、権能ってのは何なんだ」
【権能とは世界の理から外れ、己の意思で世界の法則を干渉し捻曲げることの出来る力です。
そして『管理者』はあらゆる情報や能力などマスターの支配下にある全てを管理し、人格形成、高速思考、情報隠蔽など多岐にわたり様々な事を行うことが出来ます】
管理者とやらに聞いてもよく分からなかった。こういうのは漫画や小説の中での話じゃないのか?なぜ、俺が…。
「俺は複数持っているのか?」
【はい。権能は魂の具現化、つまり所有者の本質や強い意思が力となる訳です。ですので、本来は権能を持つ者は一つ持つことが出来ません。しかしながら、マスターは複数所持しています。】
「俺がここにいるのも、その能力の一つってことか?」
【はい、そうです。『滅者の心臓』という能力の影響です】
「何で俺はそんな力を持っているんだ?」
何故、俺が特別な力を持っているのか理解ができなかった。ドッキリだったと言われた方が納得できる。
【前世のマスターは、全ての原点である始まりの世界を創造した三柱いる創世神の一柱、《破滅》と《無限》を司る神"滅神竜"様です】
「え?…前世?」
俺は前世や世界を創った神など言われ、今以上に混乱し呆然としていた。
【正確には前世ではありません。現在のマスターは七度の転生の上、八回目の生を歩んでおります。勿論、創世神だったのは一番最初です】
「正直、信じられない。俺が転生してることや神だったことを証明することは出きるのか?」
【…では、目をつぶり自分の胸に手を当て自分の魂_心臓をイメージしてください】
俺は言われた通りに、目を閉じて胸に手を当てながら自分の心臓をイメージする。より深く強く意識するとドクン、ドクンと心臓が波打ち八つの心臓が現れた。
それぞれ形や大きさが異なっていたが唯一異様なオーラを発していた心臓があった。それに手を伸ばし触れる寸前で誰かの記憶のようなものが激流の如く頭に流れてきた。
「なっ!?…」
一時的に大量に情報が入ったからか、一瞬意識が飛びかけた。
「なるほど。実際に体感してもまだ半信半疑だが、特別な力は持っているのは分かった」
大量の記憶が流れ込み、自分が何者であったのか何となく程度ではあったが理解できた。
「で、俺をここに呼んだのは何かをさせるつもりなのか?」
【いえ。ここに来られたのは、前世のマスターの意思です。完全な転生をされた場合、最初の転生体をこの世界に呼び寄せるような仕掛けが施されていました】
「完全な転生?七回も転生をしたんだろ?」
【はい。ですが、前マスターの滅神竜"ウルス=ドラゴン"様の力を現マスターの"黒羽=澪央"様が始めて継承されました】
「何で他の前世は力を受け継がなかったんだ?」
【完全な転生をしなかったのは、『滅者の心臓』が不完全だったのと神の器として適合する肉体・魂では無かったからです。再発動に時間を要したのは、肉体がまだ耐えられず器として最低限度の完成を待ったからです】
「わかった。で、さっきも言ったが俺に何をやらせるつもりだ?」
何故ここに呼んだのか?前世の俺の目的は何か?など色々と思考したが、結論は出なかった。
【一つだけ前マスターから伝言があります】
「伝言?」
【はい。"ここはあらゆる世界の中心で様々な勢力が鬩ぎ合い混沌としている。だが、ここは面白いと我は思う。自分の役目は忘れて楽しんでくれ。次の我がこの世界を気に入ったのなら我の眷属をどうか頼む。"と申されていました】
「…驚いた。想像してた感じとは少し違った」
神というから少し警戒というか身構えていたが、思ったより人間味がありそうだ。安心したが、気になるこも増えた。
「役目ってのは?」
【三柱の創世神はそれぞれ特別な力と役目を持っています。一つは全てを創り出す力。一つは全てを支配し操る力。一つは全てを消し滅ぼす力。
マスターに与えられた役目はこの世界そのものに害を及ぼす存在や事象を消し滅ぼすことです。前世では、神や災害、概念さえも消滅させていました】
そんなことが出来るのか…。改めて、前世の肉体を見ると冷や汗が出た。
「前世の…ウルス=ドラゴンだっけ?そんな強い神が、転生したってことは死んでしまったのか?」
【まず『滅者の心臓』の発動条件は死亡するか自分で権能を発動するかの二つです。マスターは後者で発動させました。
そもそもマスターはその圧倒的な強さのせいで、近づくだけでも人間や魔物達が死んでしまうほどの力を放っていました。それは神々すらも恐れ畏怖なされるほどに強力な力。まさに世界最強と呼ばれるに相応しい存在でした】
近づくだけで死んでしまうって怖すぎだろ。今の俺にもそんなことが出きるのか?そうなれば、普通の生活は出来ないな。
【ですが、それ故にマスターはその強大な力を完全に操ることが出来ず垂れ流しにしていました。『滅者の心臓』は、転生する度にマスターの能力を継承・調整・強化させます。転生を繰り返せば完全に力を制御できると判断したマスターは転生を決意なされました】
「ああ、だいたい分かったよ。兎に角、俺は好きに生きていいんだよね?」
【はい。眷属の皆様にはお会いになられますか?】
「そのつもりだけど、その前に俺の能力を教えてくれ」
前世の俺のことは信用できそうだが、その眷属ってのが俺と敵対しないとは限らない。前世の俺と今の俺は別人だ。そこを気に入らないものがいるかもしれない。それに創世神の眷属ってことは相当強いんだろうな…。
【眷属たちはマスターに危害を加えることは出来ません】
「え?俺の考えてることが分かるのか…」
そう言えば権能=魂の力だったな。管理者は俺自身ってことになるのか?そう考えると俺の考えていることが分かっても当然かも知れない。
【"滅者の系譜"により眷属となった者は、強力な恩恵を受ける代わりにマスターに危害を加えることが出来なくなります】
「そうたっだったのか」
それはありがたいな。だけど、気持ちの問題は別だからなるべく嫌われないようにしないと。
【この世界では"ステータス"と念じてくだされば能力を確認することが出来ます。基本的に他者が見ることが出来ないのですが、ご注意を】
便利だが、まるでゲームの世界にいるみたいだ。元の世界にもあればよかったのに。
俺は早速"ステータス"と念じてみる。すると目の前にウィンドウのようなものが現れ、そこには文字が並んでいた。
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名前:黒羽=澪央【ウルス=ドラゴン】
年齢:15
種族:人族【滅神竜】
レベル:1
[権能]:『破滅』『無限』『管理者』『滅者の心臓』
[原初スキル]:〈滅神ノ瞳〉〈世界格納〉〈連鎖支配〉
[固有スキル]:〈天賦の才〉New!
[特殊スキル]:〈次元跳躍〉New!
[普通スキル]:
[魔法]:〈空間魔法〉New!〈転移魔法〉New!
称号:創世神、滅神、世界最強、全てを消し滅ぼす者、全種族の天敵、転生を繰り返す者New!、転生者New!、世渡りNew!
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「スキルが少ないな」
【前世のマスターは例外を除いて後天的にスキルを習得することがありませんでした】
「そうだったのか。New!ってのが俺自身が新しく手に入れたスキルなのか?」
【はい。マスターは創世神の中でも特に異質で、この世界の理から外れていました。そのせいか、基本的に後天的にスキルを習得することがありませんでした】
この世界でのスキルという恩恵が受けれなかったのか。力の制御だけでなく、スキルの習得も狙って転生したのかもな。まだまだ、理由がありそうだ。
「能力をもっと詳しく見れるのか?」
【〈滅神ノ瞳〉を使用すればより詳しい情報を見ることが出来ます】
俺はより詳しい情報を得るために、スキルを意識して自身のステータスを見た。
〈滅神ノ瞳〉
ー ある一定以上の知識があれば全ての魔眼・神眼系スキルを習得でき、一つのスキルにつき一人に貸し与える事が出来る。ただし、天性的なスキルは強化され、いくらでも貸し出すこと出来る。※天性スキル:世界眼・竜眼。後天性スキル:なし。ー
おー、結構強い能力だな。天性的なスキルがどうなのかによるが…。
〈世界眼〉
ー あらゆるモノを情報として見通す眼。ー
〈竜眼〉
ー あらゆるモノを色や形として捉える眼。ー
うん。これはかなり強いよな?これをいくらでも化し与えられるのか。しかも強化されてるんだろ?強すぎだ。
試しに自分の服を見るとかなり細かいところまで分かった。俺は今使っている〈世界眼〉から〈竜眼〉に切り替えると、自分の身体から何かが靄となって出ているのが分かった。
これは何なんだ?
【それは魔力です】
素材や使用目的、値段など見ようとすれば何処までも見ることが出来る〈世界眼〉。俺の身体から溢れる魔力などを本来見えないモノを色や形として視認することが出来る〈竜眼〉。
なるほど、かなり使えそうだ。最後に俺はこの権能を見た。
『滅者の心臓』
ー"輪廻転生"→転生、能力継承・調整・強化、死後の不滅化。
"再臨"→前世の肉体に蘇る。
"降臨"→前世の心臓を座標に転移。
"回帰"→"再臨""降臨"から元の肉体または元の場所に帰還する。
"滅者の系譜"→眷属化、念話、能力強化、進化促進。
⇒眷属・眷属長・筆頭眷属長。 ー
~~取得スキル・称号~~
スキル:〈天賦の才〉〈次元跳躍〉
称号:転生を繰り返す者、転生者、世渡り
〈滅神ノ瞳〉
ー ある一定以上の知識があれば全ての魔眼・神眼系スキルを習得でき、一つのスキルにつき一人に貸し与える事が出来る。ただし、天性的なスキルは強化され、いくらでも貸し出すこと出来る。※天性スキル:世界眼・竜眼。後天性スキル:なし。ー
〈世界眼〉
ー あらゆるモノを情報として見通す眼。ー
〈竜眼〉
ー あらゆるモノを色や形として捉える眼。ー
『滅者の心臓』
ー"輪廻転生"→転生、能力継承・調整・強化、死後の不滅化。
"再臨"→前世の肉体に蘇る。
"降臨"→前世の心臓を座標に転移。
"回帰"→"再臨""降臨"から元の肉体または元の場所に帰還する。
"滅者の系譜"→眷属化、念話、能力強化、進化促進。
⇒眷属・眷属長・筆頭眷属長。 ー