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バディ 2 100:10

 



 エレナは近所に住む人物と断言していたが、ラルクは行きずりの可能性も否定できないとして検問を視野にいれて人員を確保すると内線の受話器を取った。


「人海戦術の手配は私がする。ジェイクとエレナは現場の聞き込みに行け、慎重にな」

「ラジャー」

『ラジャー、ジェイクの車に現場への地図を転送するわ』


 ジェイクは警察署の裏手にある愛車に乗り込むとシートベルトもそこそこに走り出す。

 カーナビにデータは来ていたが、現場に向かう車の中ではインカムからエレナの生きたナビが入ってきた。


『ルート23(ツースリー)は事故渋滞が発生しているから避けて。並行している道があるから……二つ目の信号を左折してそのまま直進、狭い側道だから両脇気をつけて。渋滞箇所を抜けたら声をかけるわ』


 耳障りの良い声は余分なことを言わず明瞭でスムーズだ。運転が集中できるように配慮されたナビに、ジェイクは内心エレナを見直す。


 渋滞を避けたおかげで三十分以内に現場へ到着できた。敷地の前に歩道と街路樹がある典型的な住宅街は、日中だから老人がゆっくりと散歩をしているぐらいで人通りが少ない。


 ジェイクは思いのほか見張りにくい街並みに軽い苛立ちを覚えながら、行方不明者の家とパーティーが行われた家が視野に入る位置に車を静かにつけた。


『マスタングなのに音が小さい……』


 思わず呟いたのだろう、耳元で(ささや)くような声だった。ジェイクは車種を特定できているエレナにぴくりと反応しそうになるも、たまたま分かったんだろうと当たりをつけて返す。


「そういう仕様だ。目立ってどうする」

『あっ、ええ、それもそうよね、だから色もダークなのね』


 この音声を拾われるとは思っていなかったのだろう、少し照れたように早口に話しかけてくる。そんな彼女に先ほどまでの苛立ちが消え、こめかみのあたりがむず痒くなってきた。ジェイクはわずかに眉を寄せると、愛用している車へと思考を向かわせる。


 マスタングのダークグレーは比較的よく使われる色味だ。落ち着いて人の印象につきにくく、そうした意味でも覆面に向いている。

 だがいざとなったら犯人を追い詰めるパワーも必要だ。馬力のあるダッジ社のチャージャーと共にこの車種が採用される事も多い。

 あとは単純に完全に使い手の好みだ。


 〝交通課のクラウンビクトリアなんざダサくて乗ってられるか〟


 気のいい仲間ならばそんな軽口で笑い飛ばすのだが、あいにくそんな性格でもない。しかも相手は女だ。弾まない会話ほど苦痛なものはない。


 ジェイクは返事をするでもなく雑誌を読む振りをしながら周囲に目を配った。エレナも会話をスルーされた事に何をいうでもなく、こちらの様子が分っているかのようにインカムから情報を流してくる。


『捜索願が出た時の初見だと日頃のオリビアの行動は学校の後に塾、ピアノ、スイミング、ラテン語、かなり精力的に習い事にいってるわ。ご近所では両親の関心も厚い優秀な子で通ってるわね』

「信じられねぇ生活だな、エリートコンベアかよ」


 ふんと鼻を鳴らせば、くすりと口元を抑えたような声がする。


『あなたならそういうと思った。ハイスクールから警察学校への叩き上げですものね』

「お得意のトラッキングで俺の履歴なんざさらい済みか?」

『違うわよ、そちらの上層部の方からのデータフォルダに入っていたわ』


 なに? とジェイクは思わず助手席のある右に顔を向ける。もちろん誰も座ってはいない。無人のシートを見てしまい、バツ悪くなって前を向く。


 すると気遣うような静かな声が耳に入ってきた。


 何か勘違いしているみたいだけど、と続いたエレナの言葉にジェイクは少なからず衝撃を受ける。


『最終的にあなたの同意があってのバディ契約だけど……あなたとバディを組むと決めたのは私よ? 何百と送られてきたデータの中から、私があなたを選んだの』


 まるですぐそばで語りかけているぐらいに声が近い。


 なぜ俺なんだと噛みつこうとした瞬間、向かいの歩道を歩いて家へ入っていく男が視界に入った。


 ジェイクの口がすっと引く。


 エレナも気配を察したかのように息を呑む音がした。


「女児の家の左隣、レンガ色の屋根、ベージュの壁」


 エレナが衛星画像でここを見ていると踏んで天定点から分かる情報を呟くと、打ってば響くように無機質な声でデータを語り出した。


『ホセ・ロドリゲス、三十才、独身。年老いた母親と暮らしていたが昨年末に見送った後は一人で暮らしている。近くの教会で用務員の仕事をしながら……ラテン語の家庭教師もしているわ』


 最後は声のトーンを落として告げた。オリビアとの接点を示唆しているからだ。


 ビンゴかもしれねぇな、とジェイクはのっそりと車外へ出た。腕時計の針を確認しながらエレナに指示を飛ばす。


13(ワンスリー):32(スリーツゥー)今からホシに接触する。ラルクに連絡を。理由はラテン語教師の男が一人で食べる量のランチボックスじゃないとか、適当に付けとけ」

『ラジャー、ジェイク。ありがとう』


 エレナが調べたデータとは別のアプローチで踏み込む判断をしたとしつつも努力は認める。しかもさりげなく言及したつもりのジェイクの気遣いは正確に読み取られていた。こめかみがむず痒くてしかたない。が、ここで反応したら負けだ。


 眉をしかめるだけに留めてみたが、インカムの先にある雰囲気が柔らかい。ジェイクの太い眉の間がますます谷になった。


『ジェイク、ラルクからは応援を差し向けると。踏み込む場合はその到着を待てとの事だけど……』


 往来のない車道を歩き出したジェイクに上司は先走りを止めたい考えだ。しかしエレナは伺うように聞いてきている。


「状況による。あと派手に音を鳴らしながらくるんじゃねぇと伝えてくれ。刺激で逆上されたら元も子もなくなる」

『わかったわ』


 いざとなればナイフも必要か、と忍ばせてある装備を軽く叩いて確認しつつ白塗りの木枠の門を開けて三段ほどある階段を上がった。


「アプローチ、周囲で異常があれば双方に連絡」

『ラジャー、気をつけて』


 最後の言葉は不要だ、と思いながらジェイクはコールスイッチを二回ほど鳴らす。


 かなり間があり、三回目を鳴らそうとしたところで内側から声が聞こえた。


「はい?」

「州警察の者です。行方不明児の件でお話をお聞きしたいのですが」

「わかりました」


 踏み込む事も考えていたがすんなりと玄関のドアが開く。現れたのは褐色の肌にチョコレート色の瞳をした細身だが体格の良い男で、偽りなく自分の氏名を名乗った。


 ジェイクも警察バッチを見せながら、ここを訪ねてきた理由を話していく。


 その話をこちらとまともに目を合わせながら神妙に聞いている男の立ち姿に、ジェイクの首筋はチリリと張った。








用語解説


*マスタング

 フォード社の代表的なスポーツカー。2ドアに4人もしくは5人乗りのレイアウトで、ベースを元に多様なカスタマイズができる車種としても有名である。

 特徴的なギャロップをしている馬のエンブレムは某真っ赤なイタリヤ車とよく間違われしまうが、ゴツく横幅の太い外観を見ればアメリカ車の要素満載であり、見分ける事ができる。

 作中の車種は6代目マスタングをイメージしている。覆面を要しているのでエンブレムは外されており、ジェイクは整備士に頼んでそのエンブレムを預かっている。ちなみに車種が変更される際は現行のマスタングを貰い受けるつもりでいるらしい。



*チャージャー

 ダッジ社と作中では語っているが、正確にはフィアット・クライスラー・オートモービルズ社の一部門である「ダッジ」が販売している自動車である。

 4ドアセダン5人乗り。外装としては一般的なセダンをゴツくした感じではあるが、加速タイム3.7秒、最高時速328km/hというパフォーマンスを発揮するのでパトカー車としても優秀。



*クラウンビクトリア

 フォード社の代表的なセダン車。トヨタで言えばマークII、クラウン、日産ではグロリアやセドリックといった立ち位置。よく映画でみるニューヨーク市警のパトカー車はほぼこのクラウンビクトリアである。



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